異世界の脇役者 -This is A Story of Supporting Role : He is from Different World-
二 異世界の町は迷路だったが、意外な方法でゴールした
二 異世界の町は迷路だったが、意外な方法でゴールした
ワイワイ ガヤガヤ ザワザワ
人々の声がレンガでできた町のあちらこちらから聞こえてくる。
青空の下、テントを屋根とした、簡易的だが立派な店が道の両脇に並ぶ。
その道もレンガでできているので歩くたびに足音がしているはずだが、何せ多くの人々が会話しているところだ、聞こえてこない。
この賑やかな商店街のような通りが、この町のメインストリートなんだろうなぁと、俺、金原春希は考えた。
まぁ、大通りはここくらいしか見つからないので、他の道がメインだと言われたら驚きしかないな。
この賑やかな通りを俺は自転車を押しながらミケとともに歩いている。
町に入ってからはこの世界のことでも町のことでもいいから何か発見がないか探してみたが、まぁ、手に入った情報は限りなく少ない。
そもそも言葉が分からないから、立ち話を盗み聞きしても何も得れないしな。
情報収集は難しい。
そんな中、限りなく少ないが得れた情報はと言えば、この町に初めて来た人がみな、感じるであろうことだ。
迷路。
表現するならこの一言に尽きるだろう。
どこがスタートでどこがゴールかと言われれば決まってないので迷路と呼んでいいのか分からないが、今、自分が町のどこを歩いていてどちらの方向に向かっているか見当もつかない。
多分、道が複雑な形をしていることが、こう感じている要因だと思う。
分かれ道自体はT字路が多く迷う要素は全くないが、そもそも、歩く道全てがL路やU路の形をしていて、曲がり角が多い。
それが一回や二回ならともかく頻繁にあるので、あっち向いたりこっち向いたりしてぐるぐる目が回り始めるし、方向感覚も失ってくる。
さっきまで右手に城が見えていたのに今は左手にあるなんでことが何度あったことか。
ちなみに、俺は常に太陽と城の間に挟まれた位置にはいたからな、町を半周した結果ではない。
それに、場所によってはQの形をした道もあったからなぁ。
ミケと同じ道を何回も回ったことやら。
まぁ、一番驚いたことは直線道路と呼べるものが存在しないことだな。
どの道も曲がり角にならなくても緩やかにカーブしていて、今俺がいる大通りも例外ではない。
正面を向いても建物とテントの店が見えるからな。
さて、このメインストリートだがどこに向かってのびているかと思って進んでみると、なんとメインストリートに続いているではないか。
そう、この道は環状型に設計されていて、多分、城から見ると大きなドーナッツが町に浮かんでいると思う。
とまぁ、今まで分かったことはこんな感じで大した情報ではない。
付け加えるなら城までつながっている道は分からなかった、くらいか。
城には偉い人が住んでるだろうから、簡単に行けても問題か、防犯面で。
多分町が迷路になっていることで、よそ者が城に近づかないようにしているんだろうな。
結構簡単だが、よく考えられた工夫だな。
まっ、他に分かったというか感じたことはいくつかある。
まずは、この町の人々はかなり交流的だということ。
すれ違う人に対して挨拶している光景はよく見るし、何ならよそ者の俺にも普通に話てくる。
おかげで『ユニャール』が挨拶だと分かった。
挨拶と言っても、こんにちはみたいにかしこまった感じではなく、『やぁ』とか『よう』とか、英語の『Hey』に近いニュアンスだな、多分。
まぁ、知らない人同士でも気兼ねなく話し合うようなところだから、町中が賑やかになるのは必然なのかもしれない。
それと、この町の人は陽気だ。
これも気づいたことの一つだが、とにかくと言っていいほど陽気である。
陽気だからこそ、人々は交流的だし、町中賑やかなのかもしれない。
だが、大通りの裏側は対照的に暗く瘴気が溢れている、と言うことはない。
何しろ俺自身が町を迷いながらも調べたことだからな。
裏道、隠し道、階段の通りと歩けるところはほとんど回ったはずだ。
ここまできちんと歩いて調べたのだから、反社会勢力とか危ない人とかはいないだろう。
まぁ、根暗な人が家の中にいるくらいはおかしな話でもないけどな。
他に気付いたことと言えば、町の人々の服装は露出度が高い。
薄着とか、透けているとか、肌が見えそうで見えないのではなく、布自体が少ないのだ。
目にする服装は男女ともども、ノースリーブのシャツに短パンかミニスカートが多い。
だが、ビキニみたいに攻めた格好のセクシーなお姉さんやブーメランパンツのマッチョなおっさんと、脱げるところまで脱ぎましたって感じの人もいる。
けっこう気になる格好だがあまり見ないようにしている、モラルを考えてな。
マッチョなおっさんのシックスパックの話だぞ?
まぁ、みんなが健康的な肉体を見せつけるなか、俺は昨日から着替えていない制服。
五月だから合服とはいえ、長袖のカッターシャツに薄手の長ズボン。
多少は裾や袖を捲ってはいるが、明らかに周りから浮いた格好になる。
確かに、ここの世界も最早夏と言われる日本の五月と同じような暑さを感じるが、それでもここの人達は肌を見せすぎだろ。
湿度は低そうだから、太陽光で皮膚がひりひりすると思うが。
ずっと暮らしていれば、慣れるものなのだろうか。
ひとまず、分かったことを整理したらこんなものか。
町の様子と人々の性格と格好。
ごくわずかな情報と言ったが結構大切なことかもしれない。
この世界の印象を決定づける大切な情報と言えるかもしれないな。
もし、町は木で作られた家が並び、和服を着た人々が歩いている、って情報だったら俺はタイムスリップしたって思うもんな。
月が二個あるから違うと気づくけど。
まぁ、宿がどこにあるとか、飯はどこに行けば食えるとか、こういった情報はもう少し後から知れても遅くなさそうだ。
陽気で人々が仲良しな町、これだけで十分だな。
スリに財布掏られることも、人に出会う度に喧嘩になることも、ましてや砲弾が飛んでくることもないからな。
そう考えると、意外と多くのことが知れたのかもしれない。
だってまた野宿ができる環境と分かったからな。
まぁ、もうするつもりはないけど。
宿に泊まれるなら泊まりたい。
ギュグ~ル
突然、間の抜けた音が聞こえた。
まぁ、俺はこの音の正体が分かるけどな。
ただ、会話が会話で聞こえなくなるくらいの場所でこの音が聞こえたのは意外だな。
ミケも何かあったのと言いたげな顔でこちらを見てくる。
そんなに大きな音がしたのか?
腹が減ったからグ~ってなっただけだぞ。
ただまぁ、ミケは耳が大きいからな、人より耳がいいのかもしれない。
しかし、朝から何も食べてないからな、腹が減ってしょうがない。
店が並んでいるから食べ物でも買うか。
と思ったとき、俺は買い物ができないことに気が付いた。
会話ができないのも理由だが、それだけではない。
俺はこの世界で使えるお金を持っていない。
それとも日本円が使える奇跡が起きるのか、ここまで何も通用していない世界で。
といろいろ考えていると、自転車を挟んで俺の隣を歩いていたうさ耳犬はとあるテントに近づいた。
緑やら青やらカラフルな色をした果物を売っている店。
まさか盗んで食べようとか思ってないだろうな!
俺の心配をよそに、ミケは店の主に向かって鳴き出す。
「ブニャフ。」
「ドーウ!フー リューフェイン サレンドルフ。ケル? グ ジャナルー リューフェン サラランドリーム ゼンドーラルベグ?」
「ブニャ。」
「フー ラフステー。サランド アンドレアル グ ジャナループ ヴァーダゥ?」
なんかよく分からないが、普通に会話をしているようだ。
店主のおっさんは動物の言葉が分かる能力者か何かなのだろうか。
それとも、この世界の動物は人と同じ言葉を話しているのか?
俺には『ブニャ』と『ブニャフ』にしか聞こえないが。
そもそも、ここの世界の言葉が聞き取れないが。
まぁ、ミケと人の言葉は偶然にも似ていて、簡単な意思疎通なら行えるのかもしれない。
それなら日本語も対応して欲しかったもんだ。
今の俺ではユニャールと挨拶するしか出来ない。
「ジャナルー。」
なんとなく遣る瀬無い気持ちになっていたら、店の主が話しかけてきた。
もしかして、ぼんやりしている間にミケが何かやらかしたか!?
「ジャナルー、アウ ノーフェル ラ ラクンド クェント ヅ ファーデ ヴァレン。」
「…。えっ?」
間抜けな返事が俺の口から出る。
怒られると思ったら、店のおっさんは手に果物を持って俺を見てくる。
まぁ、ミケが何かやらかしたと思ったが、俺の早とちりか。
当のミケは普通にその辺を歩いているだけだし。
それにしても、おっさんは何もしているのだろうか。
何かを待っているような感じだが。
それに、よく見たらおっさんが手にしている果物はバナナとドリアンを足して二で割ったような見た目をしているあの果実ではないか。
しかもこれは青色ではなく、濃い緑色をしている。
腐ってないか、それ。
と思ったが緑色になった例の果実が木の箱に詰められて店頭に並んでいるので、これが正常なのだろう。
もしかしたら、青い色の状態から熟してくるとこの緑になるのかもな。
だとしても、あまり食べたくない色だな…。
「サランド ジャナルー。グ ダング、ヤランドー アベン クアン?」
見た目がビミョーな果実を見つめていると、おっさんは少し催促するようになんか言ってきた。
そんな催促されても質問の意味が分からないから、答えようもないんだけどな。
まぁ、そんな言い訳も伝えることができないから、おっさんがなんて言ってるか考えてみるか。
おっさんの手には例の果実が五つ。
たぶんこれを買ってほしいのだろう、店なんだからな。
さて、だとしたら困ったもんだ。
いくらか分からないし、聞くこともできないし、支払いもできないからなぁ。
百円玉を渡すか、それとも物々交換で乗り切れるものか?
交換して良いものも、シャーシンみたいにいくつかあるものを何個か、と言ったレベルに抑えて欲しいな。
自転車の荷台に荷物を括り付ける紐なんて渡したくないぞ。
「ラ ラクンド クェント。グ ヴァラカン クアン ?」
おっさんは何か悟ったのか、疲れた声を出す。
たぶん言葉が通じないと分かったんだな。
手も煩わせるな、おっさん。
何とかして買ってみせるよ。
そう決意した俺は再びおっさんを見ると、指を二本立てていた。
親指と人差し指の二本を俺に見せつけるように。
ジェスチャーと言うよりは、指で数を表しているんだな、たぶん。
なら、このL字みたいな形をした手があらわしている数字から考えられる選択肢は二つしかない。
一、 バナナとドリアンを足して二で割ったような果物の個数
二、 この果物の値段
買い物をするときに出てくる数字はこの二つだ。
さすがに今回はこれ以外の選択肢はないだろう。
逆にあるなら聞きたいものだ。
さて、そんなことより指が表している数字、これは何だ。
一なら5を表していることになる。
さっきも言った通り、おっさんが持っている果物の数は五つだからな。
そして選択し二はどうかと言うと、何もヒントがない。
俺としてはかなり困った状況になるわけだが、おっさんはこっちを表していると思う。
だって、もう分っている数をわざわざ改めて教えてくれる人はなかなかいないだろう?
今回は果物の数が分かっているから、残った選択肢の二である果物の値段をL字の手は表しているのだろう。
さて、何を表しているかは分かったが、肝心の数字が何か分からない。
しかしまぁ、最早あてずっぽうでしか答えられないな。
0じゃない数字で適当に。
まぁ、二本指で数字を表しているから2でいいか。
いい加減な理由だが、このまま考え込んでもしょうがない。
おっさんがずっと俺の相手をするのもなんか可哀そうだしな。
財布を取り出し小銭を見る。
おっさんが示している数字は2にしたが、果物五つが二円と言うのもおかしな話だ。
なら、二十円、いや二百円が相場か、俺の世界では。
まぁ、果物の種類によって違うけど。
とりあえず二百円を払うか。
と俺は財布から百円玉を二枚取り出しおっさん渡した。
おっさんはその硬貨二枚を見て訝しげな顔をしたが、何かに気付いたようにハッと表情を変えた。
「グ ジャナルー リューフェン ハラウンダム ジェンタル? フー アベン リューフェン ラウァングラ。」
そう言って目を輝かせながらおっさんは回り始めた。
そんなに嬉しいことでもあったのだろうか。
今起きたことと言えば、俺が百円玉渡しただけなんだが。
あっ、もしかして、この世界は金属が貴重品なのか!?
硬貨も金属だからな。
と思ったがテントの支柱はどう見ても鉄かアルミ。
やっぱりどの世界でもあるんだな、お前らは。
ならなぜこんなに喜んでいるんだと、疑問を抱きながら店の主を見ていると、彼は異様に高すぎるテンションのまま俺のそばに来る。
「フー クックダ ダッガ アンドレアル。セントール ダランゴ ヴァード オニサラー。」
大きな笑いと共に俺の背中をたたく店主。
その勢いで俺は吹っ飛びそうになった。
そんなこともいざ知らず、おっさんは俺の自転車の荷台に木箱を置いた。
空の木箱…。
この世界ではもしかして、二百円の価値ってそんなものなのか…!
ゴロ ゴト ダコ
肩を落とした俺の隣でおっさんは木箱に例の果物を入れていく。
その数五個どころか七個、八個と気にせず入れていく。
「ダランゴ。ダランゴ! グ ジャナルー リューフェン ヴァード?」
意気揚々と果物を入れるおっさん。
なんか疑問文を言ってた気もするが、俺の返事も聞かずにほかの果物まで木箱に入れ始めた。
いやいや、こんなにいらないんだけど。
重たくなるからやめて欲しい。
「アウ ノーフェル ゲータラブン ネー。」
箱がいろんな種類の果物であふれんばかりに盛られた。
しかも最後に黄色い皮のでかい果物まで手渡しされた。
大きさはスイカぐらいだな。
しかも片手で持てるサイズじゃなくて抱きかかえないといけない。
皮の色だけ見ればレモンなんだけどな。
こんなでっかいのに、味がすっぱいとか嫌だな。
まぁ、仕方ない。
レモン色のスイカは前かごに入れるか。
その代わりリュックサックを背負うことになるが、レモンスイカを抱えるよりはマシだろう。
リュックの方が重たいが背負える分、体にかかる負担は少ないし動きやすいしな。
それにしてもサービス過剰ってくらいフルーツの山ができたな。
まぁ、これで食うものには困らないか。
不味いだの固いだのと俺が食べれるかは別として。
「ありがとうな、おっさん。」
「フェク、サイカウンド グッタランゼ。」
俺の言葉が通じたかは分からないが、果物屋の店主も手を挙げて答える。
多分また来てくれとか言ってるんじゃないかな。
かなりすがすがしい笑顔だし、また来ようと思ってしまうな。
仏頂面のコンビニ店員が多い俺の世界よりも、気持ちよく店を後にできる。
いや、コンビニ店員も頑張っているのは知っているけどな。
どうしても比較してしまう。
さてさて、そんなことを思いながら俺はミケと共に歩き出す。
少し進むと、人通りが少ない通りが右に伸びているので、そちらに曲がる。
そして道の端に寄って自転車を止める。
「ようやくだがご飯にするか、ミケ。」
「ブニャ。」
荷台から果物が積まれた箱を降ろしながら俺はミケに話しかける。
相変わらず、ブニャとしか言っているように聞こえない。
ホント、果物屋のおっさんはどうやって会話したんだ?
首をひねりながら俺はミケの隣に座る。
よく考えたら、いや考えなくても半日くらい動いていたわけで、暫くは立ち上がれないだろう。
結構疲れた。
それに一日くらいろくに何も食べてないからな。
五、六種類くらい果物があるから一つくらいはまともに食べれたらいいな。
まぁ、一種類がバナナドリアンでもう一種類がレモンスイカだから事実上口にできるものは四種くらいだが。
レモンスイカは大きすぎるからここで食べるには適してないからな。
だから四種類。
さて、どれがおいしいか順々に食べてみるか。
「ブニャフ。」
どれを食べようかと果物を並べていたらミケが話しかけてきた。
まぁ、ただ単に鳴いただけだが。
「どうした、ミケ?」
「ブニャ、ブニャフ。」
ミケは地面に並べた果物を欲しそうに見つめる。
あっ、そうか。
たぶんこいつも腹が減ったんだな。
それにしても肉ではなく野菜が好きな犬もいるんだな。
いや、ミケは犬に似てるだけで、犬ではないか。
耳長いし。
しかし、こいつは何が好きなんだ?
パイナップルみたいな葉が生えたリンゴに、イチゴがブドウみたいに房で一纏まりしたやつ、それと…。
と俺が選んでいるとミケはある果物の前に座る。
それはバナナとドリアンを足して二で割った形をした、緑色の皮をした例の果物だ。
そういえば町の外でもこれを食べていたな。
そんなに好きなのか。
まぁ、俺にとっては不味かったから好きなだけ食べてもらうか。
「みけ、それは好きなだけ食べていいぞ。まだいっぱいあるからな。」
「ブニャッ!」
嬉しそうにバナナドリアンにガッつくミケ。
十秒もしないうちに二つも食べてしまった。
「それ、そんなに美味いか?」
「ブニャ? ブニャフ。」
ミケは俺に勧めるように、緑の果物を差し出す。
食べてみたら、と言うことか。
確かに、朝食べたのは青色だったからなぁ。
もし熟しているなら美味しくなってるかもしれない。
よし、食ってみるか。
ガブッ ダラッ ボタ ボタタタタ
まずい!
いや、味じゃなくて今の状況がまずい。
噛んだら汁が、果汁が中からボタボタと溢れてきた。
しかもこの果汁、色が赤いから血を吐いたみたいになってるじゃないか。
てか、どんだけカラフルなんだよ、この果物は。
って、そんなこと考えてたら、胸のあたりに汁が付いたじゃないか。
カッターシャツは白いんだからやめてくれよ。
ホントに血が出たみたいになってる
どこか、洗える場所ないかな?
さっき、噴水があったから最悪そこでいいか。
そんなこんなで騒動を起こしたが、思ったことが一つ。
俺はこの果物と相性が悪い。
もしかしたら、他の物も似たような結果になるかもしれないな。
俺、ちゃんとこの世界でご飯を食べれるだろうか?
スアァァァ
二つの満月が、今宵もこの大地を照らす。
草が伸びた草原に、見たことのない果物がなった果樹園、そして、境目が分かりにくいこの地と空の境目。
これらは昨日と同じだが、今日新たに付け加えるならレンガでできた賑やかな町か。
この世界の言葉で言うなら、マンズルームが月に照らされている、になるかなぁ。
そんな様子を俺は町の近くにある丘から見ていた。
丘と言うよりは崖か。
町に面した坂の角度はほぼ90度に近く、さらに整備もされていないから形も悪い。
これは崖と呼んでいいだろう。
さてさて、そんな崖の上には芝生が生えていて、大きな木が一本、この町を見守るように立っている。
それ以外は花が多少咲いているとか、(多分)虫の声がしているとか、特別述べるようなことはない。
まぁ、あえて述べるなら、この丘は町とは反対方向に下り坂になっているということか。
つまり俺がいる大きな木の下は、この丘で最も高いところとなる。
本当はどうにかして屋根があるところで寝たかったのだが、どうやら町明かりを眺めながら床に就くことになりそうだ。
おかしい、おかしすぎる。
町に着いたのに、なぜ俺は町が見えるところにいるんだ?
何が起きたか思い出すか。
俺は町に来てから、色々散策して果物を買った。
そこまでは鮮明に覚えている。
まだ、自転車の荷台にはフルーツ盛の箱が置いてあるからな。
さらに前かごにはレモン色のスイカが入っている。
どうやって食べようか悩むな。
話がそれた、戻そう。
果物を買った後は近くの道端でその果物を食べたんだった。
俺の口に合うのはパイナップルみたいな葉が生えたリンゴ。
味は酸味が効いたリンゴで、食感もシャキシャキしておいしかった。
あの旨さなら一か月間食べても飽きなさそうだ。
イチゴがなっているブドウはいまいちだが、好き嫌いと好みが出ただけで人が到底食べれない味ってことはない。
食べれないものはやはり、バナナドリアンだな。
俺が齧ったやつは果汁がたくさんだった。
いや、たくさんどころの騒ぎではない。
皮以外のところは汁が詰まっていて、最早飲み物と言った方が正しいだろう。
味は相変わらず不味かった。
あれは人が食べる食べ物じゃないな。
ミケ用にしておこう。
実際ミケは他の果物に目もくれることなく、バナナドリアンだけ食べてたしな。
多分好物なんだろう。
もう、三つしか残ってない。
まぁ、昼と夜で食べてたから、当然と言えば当然か。
そもそも、30個以上はいいていたからな。
逆によく、自転車に積めたと思う。
…。
話がだいぶそれたな。
果物を食べ終わった後は、再び町の散策をした。
散策と言うよりは、野望を叶えるために動いていた、と言う方が正しいかもしれない。
その野望とは、この町のラウンドマークである城に行くことだ。
別に中に入りたいわけではないが、町を迷路にするほど徹底的に城に近づかないようにしてるから、門の前にだけでも行ってみたい。
ひそかにこの熱き夢を胸に抱いて町中を回った。
結果は御覧の通り城にたどり着くことなく、切り立った崖みたいな丘に着いたわけだが。
けっこう惜しいところまでは近づけた、と思う。
なんて言ったって、城壁まではたどり着いたからな。
町を囲っている壁じゃないぞ、城に侵入を防ぐ壁、城壁だからな。
その一辺にたどり着くことはできた。
このまま、壁沿いに歩けば門が見つかるかと思ったが、そうも上手くはいかなかった。
壁はどこかで曲がることなく、淡々と町の方向に続いていた。
こんな不便な作りが在っていいのかとは思うが、野望は門探しのため来た道を戻る。
反対方向なら曲がり角があるかもしれないと淡い期待を持ちながら、壁の隣を歩く。
そしたらなんと、城の形に合わせてきちんと角があった!
しっかり左に曲がっている角が。
ただまぁ、現実はそうも甘くはなかった。
曲がり角から奥側は森だった。
城の隣がすぐ森、ってことはなく少し空間はあったが、壮大な森が誰の侵入も歓迎しない雰囲気を出していた。
森に入ったら一生迷って、町には戻れない。
そんな雰囲気だった。
まぁ、城沿いに歩くには何も問題ないからな。
俺は道を左に曲がって、城を左手に、森を右手に見ながら壁が途切れるところまでミケと歩いた。
ときどき、ミケは城内が気になったのか見つめていたが、俺との距離がひらくと走ってきて、何事もなかったかのように隣に並ぶ。
犬だし、いい匂いでもしてたことに気付いたんだろう。
犬じゃないけど。
そんなこんなで、気が付いたらここに来ていた。
壁沿いを歩いてたはずなんだけどなぁ。
いつの間にか壁なくなってるし、坂登ってるし。
記憶が飛んでいる気がする。
昼に食べたもののせいか?
今後の体調が心配になってきた。
しかしまぁ、二日続けてセンチメンタルになるのも見っとも無い気がする。
今日は元気に寝よう。
寝るのに元気良くっていうのもおかしいか。
自分で言ったセリフにツッコミを入れながら、俺は今日も地面に倒れる。
まぁ、自分の言ったことなんて寝れば忘れるだろう。
目をつぶって、おやすみなさい、と。
…。
…。
「おやすみ、ミケ。」
「ブニャフゥ。」
…。
…。
寝れない。
と言うか、全然眠くない。
空はこんなに真っ暗なのに、俺は眠気が一切ない。
あんまり夜更かしするタイプではないと思ってるんだけどなぁ。
しかも今日は日の出くらいに起きて、日の入りを見てからこの丘に来たから、十五、六時間は起きているはずだぞ。
まぁ、時計と太陽の動きは合っていないから、参考になるか分からないけど今の時間を調べるか。
すやすやと寝息を立てるミケの様子を見てから、俺は自分の腕時計に視線を動かす。
12時32分。
おっ、もう十二時過ぎているじゃないか。
もう寝ないと明日、学校で居眠りして先生に起これれる。
特に日本史の原センは厳しいからなぁ。
って違う。
明日学校に行くことはない。
いや、これも違うことだが、もっと寝れない理由に直結する、重要なことが分かったではないか。
俺の起床時間は11時半くらい。
それから現在まで13時間経っていない。
一瞬、一時間や25時間も考えたが、それはないだろう。
日中は散策や買い物などでかなり時間を使ったし、一日以上起きていたならぐっすり眠れるだろう。
となると、起床から13時間経過が妥当だ。
これなら、俺が眠くない理由も分かる。
普段、15、6時間起きている人が、いきなり13時間で寝ろとは無理な話だ。
それに、腕時計とこの世界の時間の変化が合ってないとも感じていたが、こうしてはっきり断言できた。
気付くのが遅すぎると言われるかもしれないが、時計を見なかったら案外わからないもんだ。
ただまぁ、本格的に使い物にならないな、腕時計が。
残念だなぁ、中学の頃から使っていたから愛着もあったし。
まぁ、持っていていいか、この世界に時計があるとも限らないし。
時間計るぐらいなら使えるもんな。
ただ、まぁ、寝れないからなぁ。
どうやって時間をつぶそうか。
スマホはやっぱり使いたくないからなぁ。
ゲームはできない。
この世界にはやはり電気はなく、月明りかランタン(もちろん、火が使われている)で町の人々は過ごしている。
そして、町の人はミケ同様、眠りの時間に入ったようで、ほとんどランタンの明かりが見当たらない。
ただ、月明りで照らされている町を俺は見下ろしていた。
幻想的な世界、とでも表現しようか。
二つの色の月が町を照らしているので、ライトアップがされた中世ヨーロッパの町を模した世界を見ている気分だ。
知っている世界にこの世界を重ね合わせてできつ安心感と、夜が終わればこの幻想的な風景ともおさらばする虚しさが込み上げてくる。
その気持ちをまぎらわすように空を見ると、赤い月と白い月が並んで空に浮かんでいた。
なんか、こうやってまじまじ見ると眩しいな。
太陽ほどではないが、ずっと見ているなら目に毒だ。
俺の世界の月みたいに、もう少し落ち着きを持って欲しいな。
眩しくてずっと見てられないから、月にウサギがいるか確認できない。
そう言えば、ヨーロッパは月にカニや女性がいるって聞いたような。
なら、探すのはカニか?
まぁ、とりあえず月を見るのはやめよう。
目が痛くなってきた。
しかし、星は昨日も見たからなぁ。
昨日と違うところは、月明りのせいで見える星が少なくなっていることか。
やっぱり月は一つで十分だな。
そんなことを考えながら星空を眺める。
見慣れない星の並びに違和感や気持ち悪さを感じるが、だんだん慣れてきた。
そのうち、オリジナルの星座を作り始めていた。
と言っても、ドーナッツ座や鬼座など誰かがもう作ってそうな星座だが。
しかしまぁ、昔星座を作った人達も、今日の俺みたいに眠れなかったから空を眺めて、星々を繋げたのかもしれないな。
そして、繋げた星を星座と呼び、物語を作ったのかもしれない。
ただの暇人がなんとなくやったことが、星座作成と言う偉業をなしたのかもしれない。
ロマンのかけらもないな。
まったくバカなことを考えたもんだと思いなが、俺は再び大地に転がる。
広い大地に寝っ転がるちっぽけな俺。
そして、空には数数多の星と二つの月。
こんな世界を見せられたら悩みなんか吹っ飛ぶなぁ。
いや、吹っ飛ばないな。
やっぱり、屋根のある所で寝たいなぁ。
こうやって、星を見ながら綺麗な歌声を子守唄にして寝るのもいいけど、ちょっと寒いんだよなぁ。
風が吹くと寒い。
昨日の草原では風なんて吹いてなかったから、この違いは何だ。
寝るのに苦労するのも困ったもんだ。
まぁ、歌もだんだん近づいているし、子守唄にして寝るか。
って、ちょっとまて。
歌がなぜ聞こえて聞こえるんだ?
町の人はもうほとんど寝てるし、音楽が流れる機械なんて見てない。
この世界のスピーカが俺の知っている形とは限らないから、断言はできないけどな。
ただ、この歌声は明らかに生の声だ。
しかも明らかにこの丘の上で歌っている。
たぶん、歌ってる人はこの木をめがけて歩いているのだろう。
だんだん聞き取れるようになったから、だいぶ近い。
声は女性で、子守唄と言うよりはJ―POPかアニソンに近い。
曲のスピードは遅めだからか、伴奏がない今はバラードって言われても納得するな。
歌詞は当然聞き取れない。
だって俺、ここの言葉『ユニャール』と『マンズルーム』くらいしか知らないからな。
今だって、『あなた』とか『私』とかしか聞き取れない。
ん?
『あなた』も『私』も日本語だぞ。
それに、他の言葉もだんだん聞き取れるようになってきた。
聞き取れなかった理由は言葉ではなくて、距離が遠かったからか。
ってことは、この歌を歌っている人は日本人か!
ついに言葉が通じる人が現れるとは。
感激だ!
それにしても、綺麗な歌声だなぁ。
思わず聞き入ってしまう。
♪ 小熊座の星々が 争うとき
彼は 異なる世界から 来るだろう
赤と白の月が 並ぶ夜に
エルの町を 見守る木の下に
いがみあう私達の 心を繋げ
みんなを笑顔にする 優しい心のあなたが
どうか 私の手を引っ張って
幸せに 向かって歩きたいから
ずっと 私の隣にいてほしい
この手のぬくもりを 感じたいから
たとえ どんな残酷な運命でも
私の
歌い終わった彼女は大きく深呼吸する。
表情は歌い切った感あふれる笑顔だ。
可愛い人だなぁ。
俺はそう思った。
年齢は俺と同じか少し上か。
年上に見えたのは、彼女がきちんとした格好だったからかもしれない。
この世界の人達はノースリーブに短パン、ミニスカと割と肌を出した服装である。
しかし、彼女は深い緑色をベースとしたドレスを身にまとっている。
髪も腰まで伸ばしたロングヘアで、心なしか緑がかって見える。
美人と申すには十分な顔立ちで、優しそうな目が印象的だ。
全体的に落ち着いた雰囲気が、年上と思ったもう一つの理由でもある。
彼女は明らかに、町の人とは一線を画した格好、いや存在である。
やはり、俺と同じ日本人か!?
妙な期待を胸に持ちながら彼女を見つめていると、目が合った。
彼女は俺の存在に初めて気が付いたのか、驚いた表情をしたがすぐに不思議そうに見つめてきた。
よく、表情の変わる子だな。
そのせいか、少し幼い印象も受ける。
「ブニャ? ブニャンニャン!」
「おっ、びっくりした。」
突然、起きて走り出したミケに俺は驚いて、声が裏返った。
しかもそれを知らない人、しかも女の子に見られたのだから、恥ずかしいを通り越して悶えそうだ。
走り出しはミケは迷うことなく、緑のドレスをまとった彼女へダイビングする。
「エルベーグ! グ ジャナループ リュー ムール デ デデカン? フー リュー バラグランズ ジャナループ。」
「ブニャ、ブニャン。」
勢いよくぶつかってきたミケによって倒された彼女は、顔を舐められながらもうれしそうに話す。
ミケもかなり懐いているようで、もしかしたら彼女が飼い主なのかもしれない。
ミケ、お前誰かに飼われていたんだな。
ならなぜ、果樹園にいたんだ?
ふと思った疑問に俺は腕を抱えていると、彼女は優しく微笑みながらミケを抱いて、俺の方にやってくる。
「グ ジャナループ プルト エルベーグ?」
あっ、俺の知らない言葉だ。
彼女は日本人、いや、少なくとも日本語が話せると思ってたが、どうやら思い違いのようだった。
しかし、肩を落としていた俺に彼女はためらいなく訪ねてきた。
「日本語だったら、通じるかな?」
「えっ、ああ。そっちなら。日本語でお願いします。」
軽く首をかしげる彼女に、俺はミケが急に起きて走り出した以上の驚きを隠せないまま返事をする。
「やっぱり? もしかしてと思ったんだけど、当たってよかった。それにしても、日本語が分かるなんて珍しいね。もしかして、日本出身なの?」
「そうそう。なんで分かった?」
おしゃべりな彼女がぶつけてきた疑問に俺は答え、さらに質問を返す。
「だって、最初私が話した言葉が分からなくて、日本語が分かるなら、そう思わない?」
「確かに。」
日本にいても、英語話している人はアメリカかヨーロッパの人、中国語なら中国人と思うし、当たり前か。
いや、俺が異世界と思っているここで、日本はメジャーなのか!?
ってことはもしかしてここは地球の可能性も?
「なぁ、ここってもしかして…、」
「あっ、昔、日本出身の人が『異世界に来てしまった』って言ってたくらいだから、ここはあなたが住んでた世界とは違うと思うよ。それに、日本って国は彼からしか聞いたことないよ。」
察しのいい彼女は、すべて答えてくれた。
ただまぁ、日本からこの世界に来た人がいたのかぁ。
なんか驚くことが多すぎて、もう慣れたような気がする。
実際、今回はそれほど驚かなかったし。
だんだん、何でもありな雰囲気に慣れたか?
「そうそう、あなたがこの子を見つけてくれたの? ありがとう。えっと、お名前伺ってもいい?」
「あっ、ああ。」
笑顔で感謝の言葉を述べる彼女に、ドキッとしてしまった。
いかん、いかん。
あまり女の子と接点がなかったことがバレてしまう。
そんなことより、名前を聞かれてるんだったな。
「俺は金原春希。よろしく。」
「私はポラリス・ウルサ。よろしくね。」
何気なく出した俺の右手を、彼女、ポラリスは右手で握ってくる。
「これが握手って言うのかな? 私、初めてだけど、やり方あってる?」
「ああ、完璧だよ。もしかして、この世界には握手はないのか?」
「ううん。握手はあるよ。でも私は…。」
「ブニャッフ。」
ポラリスが何か言ってるときに、ミケがくしゃみをした。
しかも俺に唾がかかったぞ。
「あっ、ごめんなさい。エルベーグ、人がいない方向にくしゃみをしなさいって言ってるでしょ。」
注意を促す彼女の言葉を聞き飽きたように、ミケは大あくびをする。
彼女が悪いわけでもないし、うさ耳犬に怒るのもなんか違うような気もする。
「まぁ、しょうがない。動物だし。」
「えっ、でも…。」
「俺は大丈夫だから、気にするなって。それより、そいつ、エルベーグって名前なのか?」
「そうそう。ゼンドーラルベグの男の子。私が子供のときからいるの。」
「へぇ。」
わけ分からない言葉も多いが、彼女が笑顔で話すから良しとしよう。
だって可愛いからな。
何でも許せそう。
「春希はエルベーグのこと、なんて呼んでたの?」
春希!
今、俺名前で呼ばれたぞ。
女の子から名前で呼ばれるなんていつ以来だ。
しかも呼び捨てかぁ。
文化が違うこともあるけれど、これは悪くないな。
てか、嬉しい。
「ん? どうしたの?」
多分俺がにやけてことにポラリスは気づいたのだろう。
彼女は腰を曲げ、上目遣いで俺の顔を見つめる。
まぁ、ちょっと待ってください。
「えっと、そいつをなんて呼んでたって話だっけ。俺はうさ耳犬のミケって勝手に名前つけたけど。本名があるなら、俺もそうやって呼んだ方がいいよな。」
「う~ん。ミケか~。とっても新鮮な感じがするわ。この子も嫌がってなさそうだし、これからミケって名前にしようかな?」
「名付けた俺が言うのも何なんだけど、結構ありふれた名前だけど、俺の世界では。」
「ううん。気に入ったよ。普段はどうしても名前って勝手に決められるから。」
笑顔でポラリスはミケの頭をなでる。
俺は彼女がどういう生活を送っているか知らないが、愛犬の名前も自分で決めれないのは可哀そうだと思った。
だから、このうさ耳犬をミケって呼ぶのを止められなかった。
まぁ、俺の世界で犬をネコの名前であるミケって呼ぶのはおかしいけど、こっちの世界はそう言う常識がないから、問題ないって言えば問題ないな。
しかも、ミケは犬じゃないしな。
「なら、今日からお前はミケだ。」
「ブニャ~。」
俺もミケの頭をなでながら語りかけるが、当の本人はあくびをして、目を閉じる。
「眠たいのか…。」
命名って言う名シーンのはずなのに、間間抜けな感じになって、俺は苦笑いするしかなかった。
まぁ、確かにミケは今まで寝てたからな。
「普段はもう、寝ている時間だもんね。お休み、エルベーグ。」
ポラリスがそっと呟く。
眠りについた我が子に語りかける母親のような優しい声で。
…。
最近、俺にこんな優しい声で『おやすみ』って言ってくれた人がいただろうか。
そう思うと、胸が苦しくなる。
「春希はどこで寝てるの?」
ミケを抱えなおしながら彼女は訪ねる。
「俺? 俺はその辺で…。」
「それなら私の家に来ない? 部屋は余ってるから、好きなだけ泊まっていいよ。」
「えっ、本当か! それはありがたい。でも良いのか? 俺みたいなどこの出立ちか分からないような人が、勝手に家に行っても…。」
「それなら心配しないで。私の家、人数少ないし、春希みたいな人しかいないから。あっ、でも異世界の人は久しぶりかな。」
俺みたいな人が多い、すなわち身分がはっきりしていない人が沢山いるってことか。
どんな家なんだ!?
ポラリスって、良いとこの出身ポイがそんな人が多くていいのか。
もしかして、奇人コレクター?
まぁ、彼女に限ってそんなことはないだろう。
過去にも異世界人泊めてたみたいだし、慣れているのだろう。
多分さっき話してた日本人のことかなぁ。
どんな人かまた後で聞こう。
「うちに来る?」
ドキッ。
首を傾ける彼女に鼓動が大きく跳ね上がる。
可愛いのに、斜め下から見上げてくるアングルでこんなことされたら誰だってこうなるだろう。
初めて、この世界に来てよかったと思った。
まぁ、下心なしで考えても、普通に家で寝泊まりできるのはありがたいしな。
「お言葉に甘えて、家に泊まらせてもらおうかな。自転車とか荷物が色々あるけど。」
「それなら心配しなくていいよ。あっ、でも自転車ってその乗り物でしょ? 近道で帰るには難しいかな。」
彼女は木の下に停めてある俺の愛車を見て呟く。
「そんなに足場が悪いところ通るのか? 場合によっては自転車担ぐけど。」
「本当!? そこなんだけど。」
「…。まじか。」
彼女はすらりとした手で崖を指さした。
もう驚き飽きて、びっくりしないと言った俺だがこれだけは言わせてもらいたい。
ポラリス、君はこの崖を降りるのか!?
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