異世界の脇役者 -This is A Story of Supporting Role : He is from Different World-

白下 義影

一 いきなり異世界に来ても、異世界と分からないし生活できない

 サアアァァァァァ



 腰の高さまで成長した草が覆い茂る草原に風が吹く。

 幾度も繰り返す葉の揺れはまるで波のようで、緑色の海にいるのかと錯覚してしまう。

 上を見上げると、青々とした空が地平線まで続いている。

 唯一、俺の視界から地平線を遮っている物はレンガでできた巨大な橋。

 人の背丈は三倍もありそうな高さの橋が右から左へ、端が見えることなく続いている。

 古代ローマ人は水道としてレンガの道を作ったそうだが、この橋のようなものはどのような役割があるのだろうか。

 そんなことを考えつつも俺は途方に暮れていた。

 俺は金原きんばる春希はるき、県内レベルは中の上くらいの高校に通う二年生だ。

 クラス替えから一ヶ月経った教室で聞き取れない英語と急に難しくなった数学の授業を乗り切って下校していたはずだ。

 あっ、ちなみに俺理系な、もう数学でつまずいているけど。

 話がそれたな、戻そう。

 家に帰るため俺は愛用の自転車に跨り、整備された河川敷を走っていた。

 整備されたと言っても手入れはされてなく、雑草が勝手に生えている場所だがアスファルトで舗装された道をのんびりと進んでた。

 のんびりと言ったが俺自身は決してそう思っていない。

 ただ、回りと比べると半分くらいの速さなのでゆっくりなのだろう。

 多くの人は早く移動することを考えているようだが、俺は普段気にしない。

 それよりも河川敷に咲いている草につぼみが付いたなとか、この草の背丈が急に伸びたなとか、どうでもいいようなことを見ていたら、移動が遅くなっている。

 そんな俺が見てもいつもと何一つ変わらない橋を、今目の前にあるようなレンガ造りではなく二十一世紀の技術が詰め込まれた鉄筋コンクリート製の橋の下をくぐったら今いる場所に着いた。

 本来なら川沿いにマンションとか店の看板とかが見えるが、ここは先ほども言ったようにただの草原。

 一応、車が二、三台は通れそうな幅の道の上に俺はいるが、道は舗装されることなく土がむき出しで、人ひとり歩いてくる気配もない。

 きっとかなり田舎の道なのだろう。

 でも俺の住む街にレンガ造りの橋もしくは水道など存在しないので、俺はどこか違う場所に来てしまったようだ。

 それが違う県なのか国なのか、はたまた星なのか次元なのか、あるいはタイムスリップや異世界転移など選択肢が多すぎて分からないが。

 だがまぁ、そろそろここに来て十五分が経過した。

 あくまで俺の腕時計が正しいなら、の話だが。

 しかし、いくら考えても何もできないのでそろそろアクションを起こそうかと思う。

 先ず持ち物の確認。

 当然のことながら自転車はあるし、通学カバンのリュックも前かごに入っている。

 中身は見てないが、当然教科書や弁当箱と言った今日学校に持って行ったものは入っているだろう。

 あと、暑かったから脱いだブレザーも前かごにある。

 ズボンのポケットにはハンカチとティッシュ。

 男のたしなみだぜ。

 とまぁ、何の変哲もない、いつも通りのものしか持っていなかった。

 リュックにライターや携帯虫眼鏡とか普通の人が持ってなさそうな物が入っているとかの突っ込みはなしな。

 俺の趣味だ。

 とりあえず、使い慣れたものが多少あるので安心した。

 なら本格的に動くか。

 具体的にはあのレンガをくぐってみよう。

 俺は後ろにそびえたつレンガの橋、もしくは水道の下から出てきたことは分かっている。

 つまりレンガのトンネル状になっているところをくぐりぬけると、もといた場所、通学路の河川敷に戻れるのではないかと考えたわけだ。

 要するにあそこは俺の住む街とここを結ぶゲートだね。

 何も起こらなかった時を考えると少し不安だが、もうやるしかない。

 俺は決心して自転車のペダルを踏む。

 ゆっくりと動き出した愛車は坂道でもないのにスピードをあげつつレンガの橋の下に突入する。

 太陽の光が届かなくなり、暗闇の中、自転車のライトを頼りに出口へと進む。

 そして再び日の光の下に出るとそこは俺がよく見慣れた世界、地平線まで続いている青空と草原が見えた。

 …、だめだったか。

 ただ単にレンガの下をくぐっただけになってしまった。

 いや、向きが悪かったのかもしれない。

 もう一度こちら側からトンネルをくぐれば元の世界に…。

 戻ることはなかった。

 何回かチャレンジはしてみたが、一向に戻る気配はない。

 どうやら俺は別の方法をとらないと帰れないようだ。

 悲しい現実を突きつけられた結果となったが、意外とショックは小さかった。

 よく学校にテロリストが来たらとか巨大地震が起きたらとか、現実離れしたことを想像している影響か。

 何の関係もないが、現実離れしている状況を実は楽しんでいるのかもしれない。

 だが、まぁ、今やったのとは別の行動をしないといけないのも事実だ。

 考えられる選択肢は三つ。

 一、今いる道をこの場所に来た時に進んでいた方向と同じ方向に進む

 二、一とは逆で、来た時とは反対向きに道に沿って進む

 三、方向も分からなくなるが草原の中を突っ切る

 四、今ある道具でサバイバルできないか考える

 五、ここで誰かが来るのを待つ

 六、寝る

 おっと、これはやらかした。

 選択肢が三つと言ったのに六つも出てきた。

 考え出すと色々思いつくからなぁ。

 しかし、現実を考えると一か二だな。

 三はゲームとかだとよくやるが、現実世界で行うほど勇気はない。

 四と五は組み合わせてやってもいいが、未だにこの道を通った人はいない。

 それを考えるとこの後も人に出会えると考えにくい。

 もしここが夜になると極端に寒くなるようなら俺は凍え死んでしまう。

 それなら無人でもいいから小屋がある場所に移動した方が良い。

 六は論外。

 寝るのは好きだけどな。

 と考えた結果一か二を俺は選ぼうと思う。

 普通は街が近い方向を選ぶと思うが俺には土地勘も地図もない。

 そして見渡す限り水平線。

 街の影どころか蜃気楼すら見えない。

 つまりどちらを選んでも同じと言うことだ。

 まぁ、そもそも何回も橋の下をくぐったおかげで、どちらから来てどちらに向かっていたかなんて覚えていない。

 だからこのまま橋をくぐらずに進んでいこう。

 普段は優柔不断だが、たまにはサクッと物事を決めるのも良いな。

 よし、そうと決めたら進しかない。

 俺は再び自転車に乗り、ペダルをこぐ。

 いつものようにゆっくりと進み周りの様子、特に地面に注意しながら前に進む。

 周りの風景に気を付ける理由はいろいろあるが多くの人が納得するだろう。

 ではなぜ地面?

 それこそ至って簡単。

 石や金属などを誤って踏んで自転車のタイヤをパンクさせないためだ。

 タイヤがパンクしたら自分で治せないからなぁ。

 自転車屋があるとは保証もないし、現段階では大切に扱うしかない。

 それこそ、この場所の石や金属の見分けがつくのかと言われたら不安だが、草木は俺が知っている物とは大差ない。

 ならばそれらのものも見ればわかるだろう。

 ただ、大差がないだけで詳しい成分とか見れば違うかもな。

 実際その辺に生えている草も俺は見たことのない形をしている。

 もちろん俺が全ての草花を知っているわけではないが、少なくとも河川敷にないことは確かだ。

 細長い形をしてるが、よく見るとエッジの部分がギザギザしている。

 しかもうっかり触ってしまったら切れてしまいそうなくらい鋭い。

 草むらかき分けて進む選択をしなくてホントよかった。

 安心感を胸にペダルをこぐ足に力を入れる。

 そしてまた回りを気にしながら、長い道のりを進む。

 しばらく、と言っても三時間近くだが見ている風景が変わった。

 天然物か誰かが育てているのか分からないが、果樹園が広がり始めた。

 木々になっている果物も俺は見たことがない。

 いや、こんな果物世界中どこ探しても存在しないだろう。

 見た目はバナナとドリアンを足して二で割った形で、青い色をしている。

 信号みたいに緑だけど青と言っているのではなく本当に青い色だ。

 正直興味はあるが食べようとは思わない。

 それこそドリアンみたいにくさい臭いがしたらいやだからな。

 まぁ、気になる人がいるなら是非自分で入手して感想を教えて欲しい。

 そんなことを思いながら悪路を進んでいると、だんだん動物に会うようになった。

 ただ、こちらも植物と同じで俺の見たことない生き物ばかり。

 耳がウサギのように細長いイヌ。

 トナカイのようなツノが生えたカバ。

 変な笑い声の鳥。

 毛むくじゃらの人もどき。

 どちらかと言えばクマの方が近いか。

 一つ言えるなら、これらの生き物を写真にとって誰かに見せたら大騒ぎになるだろう。

 誰かに見せることができれば、の話だが。

 そう言えば、未だに俺は誰とも出会っていない。

 この明らかに俺の常識外の場所に人はいないのだろうか。

 仮にそれが正しいとすれば、この道はどうなる。

 整備されることなく土がむき出しで、凹凸が激しいがきちんと人工的な道である。

 獣道ならテレビでも見たことあるがもっと踏み固められた感じだ。

 だが、この道は自転車で通れるほどしっかりしている。

 整備されていないと言ったが、俺の知らにところで頑張っている人がいるかもしれないと思っていいほどだ。

 つまり、タイヤの付いた乗り物がここを通ると言うことになる。

 乗り物を作れるのは人しかいないだろ。

 それとも、ここは地球ではない星か異世界で、見た目こそ違うが人間並みの知能を持った生物がいるのだろうか。

 そうならば、もうすでに俺はその生き物にあっているかもしれない。

 実はあの毛むくじゃらのクマか!?

 それとも俺には見えない、聞こえない、感じない、と言った未知なる生物が俺の周りをうじゃうじゃ取り巻いているかもしれない。

 そう考えると怖いな、本当に誰かいないのか?

 今度は胸が不安で膨らんできた。

 太陽もだんだん傾いてきて日没が近づいている。

 この場所にも昼と夜があることは分かったが、喜んでいられない。

 夜は暗く周りの様子も分かりにくい。

 それこそ猛獣に襲われる危険性もある。

 そんな考えが浮かんでくるにつれ、余計に不安になる。

 だんだんペダルをこぐ足に力が入り、スピードも上がってくる。

 少なくとも俺が安全だと思える場所に着いて欲しい。

 あわよくば人間に会いたい。

 思いが強くなればなるほど、自転車は速く動く。

 いつからかうさ耳の犬が俺に並んで走っているが、気にしている場合ではない。

 どうか誰かに会えますように!

 だが現実はそう甘くなかった。

 俺はかなり開けた平地で夜を越すことになった。

 芝生こそ生えているが、土の硬さと香りが十二分に伝わってくる。

 あ~、ついてないってレベルじゃないな。

 突然訳分からない所に着いて、右も左も分からずさまようことになって、そして野宿することになって。

 強いて運が良いな俺、と言えることがあるなら焚き火ができたことか。

 日没前に移動をやめた俺は落ち葉や木の枝を拾って、リュックサックに入っていた虫眼鏡を使うと普通に燃えたので完成。

 並大抵の動物なら火を怖がって近づくことはないだろう。

 なぜかうさ耳犬は俺の隣で丸くなって寝てるけどな。

 あれ? 実はここ、炎を恐れる動物はいないのか。

 かなり不安になるがこいつだけが特殊だと信じよう。

 それに俺が寝る時は火を消そうと思う。

 知らない間に燃え広がって、火事になったら大変だからな。

 いや、あえてもう火を消して寝るか。

 家ならだらだらとゲームをして時間を潰すこともできるが、ここでは肝心のゲーム機であるスマートフォンが充電できない。

 モバイルバッテリーは持っているが、そのバッテリーが充電できないからなぁ。

 何かと電池式のものを使うのは気が引ける。

 こんなことならソーラー式のバッテリーにすればよかったと思うが、そもそも電気が無いところに行くことを想定をしてなかったから後の祭りか。

 まぁ、いいか。

 腕時計は5時を指しているが辺りはもう真っ暗。

 しかも月が高々と登り始めている。

 白く、透き通るくらい輝いている満月が。

 そして、その下には燃えるように赤く光る満月もある。

 月が二個も見える場所を地球上に誰か確認したことがあるだろうか。

 いや、有史以来月は一つと言われている。

 つまり俺は異世界に来てしまったようだ。

 地球ではない星と言う考え方もできるが、それは最早異世界と言っても過言ではないだろう。

 ホントまいったなぁ。

 どこか他人事のようなセリフが口からこぼれるが、そんなことを気にせず寝転がる。

 見上げた空には遮るものが一切なく、真黒なキャンバスに目立つ二つの月と淡く輝く星が煌めいている。

 ただ、この星空は当然ながら俺が見慣れ、よく知っている星空ではない。

 そう考えると急に寂しくなる。

 知っている人のいない、孤独な世界。

 そして、もう会うことのできない元の世界の人達。

 しかも、今までいた世界の人達には何も告げることなく、俺はいなくなったことになる。

 共働きでいつ家にいるか分からない両親。

 学校ではほどほどの距離で過ごしているクラスメート達。

 たまに出会っては挨拶をする隣の家のおばさん。

 …。

 思い出すと俺は今までも一人だったような気がする。

 特別周りから浮いているわけではないが、どことなく壁や距離を感じる。

 なんとなく噛み合っていない、そんな思いを実は俺はしていたのかもしれない。

 いや、していたのだろう。

 だからこそ一人きりになった今、改めて考えると気づいたのだろう。

 果たして俺がいなくなったことに対して、悲しんだりしてくれる人はいるのだろうか。

 邪魔者がいなくなったと思われるだけかもしれない。

 もしかしたら感想など持たれないかもしれないか。

 そう考えると俺は嫌われたのかもしれないな。

 今まで出会った人々に、そして俺がいた世界に。

 だからその世界から追い出されて、異世界で苦しむ運命になったのだろうか。

 …。

 いや、それはないか。

 ちょっとなれない状況に出くわしてセンチメンタルになっているから、妄想が酷くなっただけだな。

 そう思いつつも胸には不安が募り、思わず隣で寝ているうさ耳犬を抱きしめた。

 柔らかい毛におおわれた中型犬のサイズ。

 でも体の模様は三毛猫みたいだから、名前は『ミケ』にでもしようか。

 名前を決めるとなぜか愛着が湧き、より強く抱きしめる。

「おまえ、結構暖かいんだな。」

 ふと思った感想が口から出ていた。

 これが俺がこちらの世界で話した最初の言葉となった。



 スサァ



 地平線から太陽が昇り、世界を明るくする。

 黒かった草むらは緑色に光りだし、動物たちは元気よく動き出す。

 空は今日も雲一つない青空。

 何か良いことが起こる日の朝は、これくらい気持ち良く始まるのかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺はまだ芝生の上で寝ていた。

 寝ていた、と言っても爆睡しているわけではない。

 ただ、何もせず空をぼ~と眺めているだけ。

 こうしてみると何一つ俺の知っている空と変わらないのだが、ここは異世界。

 その現実を思い出すとため息が出る。

 空に急に黒い雲がかかった様に俺の心は暗くなる。

 憂鬱な気分だと世界がバラ色でも俺の目には灰色に見える。

 何かいいことが起こる日と言ったが、今なら悪いことの方が起こるような気がしてきた。

 もし、世界に優しさというものがあるのなら、俺にも分けてください。

 あ~、こんなこと言っても仕方がない、今日こそ誰かに会おう!

 そう意気込みながら起き上がる。

 この世界は相変わらず地平線が続いていて、遠くには昨日通った謎の果樹園が見える。

 ただ、反対側には真っ平らな地面しか見えておらず、道なりに沿って走っても景色が変わるには大分時間がかかりそうだ。

 そういえば今の時間はと思って腕時計を見ると、針は11時20分くらいを指している。

 俺は簡単に計算すると6時間半近く寝ていたことになるが、寝すぎて首が痛くなっているのが今の体調だ。

 感覚が、と言うか体調やその他もろもろもが狂いそうだ。

 まぁ、この世界の一時間が六十分でないだけかもしれないが。

 そうだとやりにくいなと思いながら立ち上がり、体を伸ばしたり回したりする。

 節々から嫌な音が聞こえるが痛みはないのでなかったことにしよう。

 そういえば抱き枕化していたミケがいないな。

 うさ耳犬をずっとミケと呼んでいいのかとは思うが、今はそれよりも重大なことが起きている。

 あれほど懐いていたのに急にいなくなるのはおかしい。

 いや、おかしくないか。

 よく考えたらあいつはもともと野生の犬。

 住処もあるだろうし、家族だっているかもしれない。

 俺のもとには一時的に遊びに来ていて、夜中の間に帰ったと考えれば不思議なところなんてないか。

 まったく、別れの挨拶もしないなんてみずくさいな。

 たった数時間の仲だけど。

 自分で突っ込みながらも奥歯をかみしめる。

 一人になった悲しみも我慢しないと、ミケも安心できないからな。

 しみじみと遠くを見つめていると、何かがこちらに向かって来ている。

 最初は小さくてよく分からなかったが、俺よりも小さい動物が走ってきているようだ。

 特徴はイヌのようにすらりとしつつも筋肉がしっかりている体とウサギのような長い耳、そして三毛猫のような模様。

 ミケだ。

 まだ遠いが、この距離でもはっきり分かる。

 今こちらに来ているのはミケ以外ありえない。

 まったく、別れを惜しんでたところに現れるなんてドラマみたいだな。

 嬉しくて涙が出てきた。

 そんな俺を見てミケもさらにスピードを上げて走ってくる。

 そして、勢いよくジャンプして、俺の胸に飛び込んだ。

 だが、勢いが強すぎて俺は受け止めきれずに後ろに倒れた。

 ちょっと背中が痛かったが、喜びの方が大きくて気にならない。

「どうした、ミケ。どこか行ったと思ったら帰ってきて。心配させるなよ。」

 文字面にすると厳しそうな言葉だが、俺の声は甘々だ。

 ミケは俺が何を言ったか分かったのか、しっぽを振りつつも俺の上から降りる。

 そして口にくわえていたものを地面に置いた。

 俺も起き上がりつつ地面に置かれた何かを見て息をのんだ。

 昨日見た、バナナとドリアンを足して二で割ったような青い果物。

 この果物自体にも驚いたが果樹園の距離を考えるとかなり遠く、そことここを往復してきたミケにも驚きだ。

「ブニャ。」

 聞きなれない声がした。

 いや、聞きなれてなくて当然だろう。

 俺も初めて聞いたし。

 まぁ、何の声かというとミケの声。

 こいつが口を動かしたときに聞こえたのだから、ミケの声としか考えようがない。

 変な鳴き声だなぁと思うが、ここは異世界。

 俺が思っている常識が通用しないことも多いだろう。

 しかし、まぁ、この謎の果物を持ってきたミケは俺にどうしろと言うのか。

「ブニャフ ブウ ウウウゥ。」

 …。

 分からない。

 何を言いたいのかがさっぱり分からない。

 困った俺はミケを見つめる。

 そのミケも俺を見つめるが、言いたいことを伝えれてないと悟ったのかジェスチャーを始めた。

 と言っても、果物を食べる真似。

 しかし、これだけで俺に何をしてほしいのかはよく分かった。

 こいつは持ってきた青い果物を食べてほしいみたいだが、ちょっと勇気がない。

 ただ、見つめられるとこっちも引くに引けないのでかなり困る。

 …。

 確かに俺はこちらの世界に来てから何も食べていない。

 だからお腹は空いているが、得体の知らないものを食べるのもなぁ…。

 でもよくよく考えたら得体の知らないものしかないんだろうな、この世界は。

 ミケだってウサギのように細長い耳を持ったイヌだし。

 しかも柄がネコだし。

 ならこの果物を食べることも悪いことではないのかもしれない。

 いや、ここはチャレンジ精神を発揮しよう。

 いまだに期待の視線を送るミケの前で、俺は青い果物を皮をむくことなくかぶりついた。

 触感よりも果汁が多くぼたぼたこぼれるが、そのぶん口の中にも広がって味がわかる。

 その肝心な味はなんと形容しようか。

 そうだな、一言でいえば不味い。

 あれだな、バジルみたいに好き嫌いが分かれる感じだな。

 他の人の感想なんて聞くこともできないから、あくまで俺の予想だけど。

「まぁ、いいや。これはあげるよ、ミケ。」

 俺はそっとかじりかけの青い実をミケに差し出した。

 ミケは本当に要らないのと言いたいような表情をしたが、お腹が空いていたのだろう。

 一口で食べてしまった。

 それにしても、ミケは結構鋭い歯が並んでいるな。

 本気を出したらその辺の大木でもかみ砕きそうだ。

 噛まれないように注意しよう。

 さてさて、腹ごしらえも一応したことだし、動き始めるか。

 あまり散らかしていない荷物をまとめ、自転車に乗り込む。

 昨日は押して歩いていたから時間がかかったからな。

 今日はそれなりのスピードを出して走っていこうと思う。

 そして。

「ミケ、着いてくるか。」

「ブニャフ。」

 ミケは本当に俺が言っていることが分かっているかのように頷く。

「よし、じゃぁ出発だな。」

 ゆっくりとペダルをこぎ始め、昨日日没であきらめた道の続きを進む。

 隣ではミケが俺に合わせて歩いてくれているが、きっとライオンぐらいの速さで走れるんだろうな。

 こうして、俺の異世界生活二日目が始まった。

 しかし、かっこ良くは言ってはみたものの、やることは自転車に乗るだけ。

 隣に謎の生物がいること以外は朝の通学と何一つ変わらない。

 ただひたすらペダルを思いっきり踏み、前に進む。

 太陽が高くなると春、と言うよりゴールデンウィークが終わったあたりの嫌な暑さを感じるようになったので、ブレザーを脱ぐがそれでも暑い。

 ミケは意外と毛が長いが暑くないのだろうか。

 この後森を二つ抜け、だだっ広い草原を走っているとちょうど太陽が南中した。

 まぁ、その方角が南かは分からないが、最も高い位置に太陽が来ているのは間違いない。

 俺の腕時計だと5時前を指しているから、最早時間と世界の様子が合っていないどころか役立たずのものになってしまった。

 俺が時間計るだけなら、まだ使えるけど。

 例えば、朝走り始めてから5時間半以上経っているとか。

 途中で休憩したとは言え、そろそろ長い時間の休憩を入れてもいいかもしれないな。

 腹減ったし。

 と言っても食べるものがないんだよなぁ、と思いつつ自転車を止める。

 ブレーキ音が少し騒がしいがここにはミケしかいない。

 近所迷惑にはならないだろう。

 自転車を止めると急に静かになり、少し物寂しく感じる。

 タイヤと地面がこすれる音って意外と耳に残るんだな。

 元いた世界では車や工事の音、店に入るときに流れる音楽とかいろいろな音があふれていたからな、気が付かなかった。

 こうして静かな世界に来るとどれだけ自転車が大きな音を出しているかがわかる。

 別に相対的になので、自転車が騒音であるとかはけして思わない。

 ただ、この世界だと乗りにくいなぁと思うところはあるが。

 周りの人が嫌がればの話だが。

 まぁ、自転車の話は置いておこう。

 俺はこの草原でどうやって昼食を手に入れるかを考えなければならない。

 腕を組みながら色々選択肢を作るが、どれも現実的ではない。

 一番しっくりきそうなのが朝みたいにミケに何かを持ってきてもらうだが、あんまりあれこれさせるのも可愛そうだからなぁ。

 今も舌を出しながら呼吸を整えているし。

 こうしてみると、まさに犬だな。

 さて、どうしようか。

 ミケを見つめながら考えていると、おかしな音が聞こえる。

『おかしな』とはまさにおかしい表現だが、俺が聞こえて良いはずでない音が聞こえる。

 今ここには俺とミケしかいないから音源もこの二人(と俺の物)になるが、そこ以外からカラカラカララ…、と音が聞こえるのだ。

 何かが回っている音か?

 そう思いながらあたりを見渡すと、道の先の先、地平線あたりが少し動いて見える。

 う~ん…、見にくいなぁ。

 仕方がない、授業には関係がないものばかりはいっている俺の通学リュックから秘密道具を出そう。

 双眼鏡、と言っても倍率が高くも変えることもできないオペラグラスみたいなものだが。

 SAで買った、720円くらいで。

 早速オペラグラスを覗くが、当然動いているものが何か分からない。

 しかし、シルエットだけはとらえたぞ。

 四角い箱に座っている人影らしき黒いそれは、揺れながら地平線に沈もうとしている。

 人影が見える四角い箱かぁ、車にしては弱弱しい音だから馬車あたりか。

 カラカラカララの音の正体も分かったし、俺は昼ご飯でも…。

 いや、昼ご飯なんて考えている場合ではない。

 人影、人影が見えたんだ。

 この世界の人がどのような背格好をしているか知らないが、馬車らしきものに乗って移動しているんだ。

 もうこれは追いかけて実際に出会うしかない。

「ミケ、休んでないで行くぞ。人に会えるかもしれないからな。」

「ブニャフ~?」

 大あくびをしていたミケを呼んで俺は全速力で自転車をこぐ。

 なんとしてでもあの人に追いつきたいからな。

 それが分かったのかミケも自転車の隣で、いや少し前で華麗に走る。

 やっぱり俺の言葉が分かってそうだ。

 いい子だ。

 そんなことを考えている瞬く間に馬車がはっきりと見えてきた。

 俺が住んでた世界と同じようにリアカーのような形をした馬車に緑色の布がかぶされている。

 そのリアカーを引いている馬は全身ロン毛で、天然パーマだったらラマとかに間違えられそうだ。

 顔の形は馬なので混種か。

 そして、俺が一番合いたかった人物はロン毛馬の手綱を引いていた。

 馬車にかけられた布と同じ緑色の上着を羽織った男性。

 白髪と白い髭がふさふさしていて、正面に回るとしわが深く刻まれた顔が朗らかに笑っている。

 荒波だらけの人生も優さと気配りで乗り切ったような老人だ。

 俺の世界での常識を当てはめたらの話だが。

 まぁ、色々思ったことはあるが、人は感動すると声が出なくなるのは本当だと実感している。

 俺は嬉しさのあまり息をすることも忘れていたが、さすがに苦しくなり我に返る。

 少し息を荒げていると、馬車のおじいさんが心配そうに俺を見た。

 その優しそうな目に安心感を覚える。

 ただ、一つ不安があるならば、ミケを始めとするこの世界の動物は俺の世界の動物と差があるのに、この老人を見る限り人は姿形大きさ何一つ差がない。

 もちろん、俺とこの人が全く同じ背丈や体格ではないが、これは個人差と片付けても問題ないだろう。

 では、見た目が同じなのに何が不安かと思うだろう。

 俺は見た目が同じだから不安なのだ。

 だって見た目が同じということは、他のところが全然俺と違うかもしれない。

 水の中で呼吸ができるとか口から火が吹けるとか、満月の夜に狼になるとか。

 そう言えば、昨日の夜は二つとも月は丸に近かったような…。

 今夜が心配だ。

 まぁ、その可能性もあるがここは異世界、魔法を使える人が五万といても不思議ではない。

 と言うか、異世界なのだから魔法使いぐらいいてほしい。

 そうでなきゃ、ただの海外旅行だ。

 しかし、この爺さんを見る限り魔法使いではなさそうだな。

 根拠は何もないけど俺の勘がそう言っている。

 特別勘がよく当たるってことはないが、自分ではそれなりの正答率を出していると自負している。

 大体五割越えかな、悪くはないだろ?

 こんなことを一人で考えていたためか、おじいさんは首をかしげながら口を開いた。

「ユニャール ド ウォンラン。 ジャナループ メント イクジェート メンタルト。」

「ええっ~と~っ。なんて言いった?」

 いきなり話しかけてきたことにも驚いたが、それ以上に話していることが分からなくて涙が出てくる。

 そうだなぁ、まるで英語のリスニングをしている気分だ。

 あれは聞き取れる気がしないが、このおじいさんは何語を話しているんだ?

 当然この世界の言葉なんだろうが、俺には分からないから日本語で会話できる人であってほしい。

 と言うか、普通は異世界に来ても日本語で大丈夫な世界になっているものだろ!?

 約束が違う。

 何の約束だと突っ込みを入れられそうなくらい慌てている俺を見たからか、老人は笑い半分、困惑半分な表情を浮かべた。

「グ ジャナループ アベン ラント コスムルグ? ジャナループ リューフェン フッタン ベン アベン ラフステー。」

「何言っているか分からないけど、心配されていることだけはわかります。」

 白髪の老人の身振り手振りや話し方、眉の動きを見ていると俺のことをかなり気にかけているように感じる。

 やっぱりこの人はいい人だな。

 このままお世話になりたいけど言葉が通じないからなぁ。

 きっとおじいさんも困ってしまうだろう。

 一人でもやっていけるって雰囲気は出した方がいいよな。

 結構厳しいと思うけど。

「まぁ、安心してくれよな、おじいさん。俺、この世界で頑張ってみますから。」

 作り笑いとガッツポーズを何とか作る。

 それを見たおじいさんは優しく微笑む。

「フッタン アンドレアル ガワナリュー ダラウ ジャナルーペ。ゼレ ジャナループ リューフェン ララコム。」

 しわが多い手で俺の頭を優しくなでる。

 だが、その腕からは力強さを感じた。

 あぁ、きっとこのおじいさんには俺の空元気がバレたんだろうな。

 それでもなお、気づかないふりをして応援してくれるとは出来すぎた人間だ。

 俺にはもったいなさすぎる。

 申し訳なくなってうつむくと、おじいさんは髭を触りながら道の先を指さす。

「セントール ラウェン ペルン。ラウ ノーフェル レズン、マンズルーム。」

 老人が指さした先には確かに大きな影があった。

 大きな人工物の塊っぽいな。

 かなり特徴的な形をしているが見覚えもある。

 尖がった頭の建築物の周りに小さな箱がたくさんある。

 分かった、お城を中心に家が並んでいるんだ。

 その周り城壁で囲んでいるから最初、大きな塊に見えたんだな。

 となると、あそこは城下町になるわけだな。

 見覚えがある理由は歴史の教科書に載っていた中世ヨーロッパのお城の写真だな。

 きらびやかさはないけど白一色に染められた壁は汚れも傷跡もなく、その頑丈なたたずまいに圧倒される。

 周りの家や城壁がレンガ造りで、余計に城の存在が浮き出ているな。

 かなりの富豪が住んでいるんだろう。

 いや、もしかしたらあの町は王国の首都かもしれない。

 もしそうならちょっと怖いな、絶対王政とか歴史で習った気がするし。

 庶民を弾圧している王様でないことを祈ろう。

「マンズルームン サンダリー リューフェン ケントウム。ジャナループ ガワナリュー リューフェン ジャンジャーラル ダン レルン。」

 おじいさんは城を見つめながら俺に話しかけた。

 やはり何を言っているかは分からないが、とりあえずあの町に行ってみるか。

 町なら人も多いだろうし、もしかしたら俺みたいに突然この世界に来た人がいるかもしれない。

 淡い期待を胸に抱きつつも、今はこの老人と共に旅路を進むとしよう。

 カラカラカララの音を発する馬車の後ろをついていく。

 時々おじいさんが話しかけてくるが、お互い何を言っているのか分からないので会話にならない。

 だが、唯一分かったことがある。

『マンズルーム』が『町』を指す言葉と言うことだ。

 もちろん、町そのものなのか、あの町がマンズルームと言う名前なのか、もしかしたらお城そのものや町の一角を指しているのかもしれない。

 考え出したらきりがないが、まぁ、マンズルームは町だと思っている。

 この後も、のんびり進む馬車の後ろをゆっくりと自転車のペダルを踏んで追いかける。

 ミケは途中で疲れた素振りを見せたので、自転車の後ろについている荷台に乗せた。

 バランスをとるのが大変だろうが、前籠には入らないからなぁ。

 ちょっと我慢してもらうしかない。

 ただ、顔色は良くなっているから自分で歩くよりは楽なのだろう。

 このまま町に着くといいな、ミケ。

 こうして俺はお腹が空いたことも忘れて、マンズルームと呼ばれる町に着いた。

 正確には町を囲っている城壁の前。

 壁に大きな穴が開いていて、トンネルのように潜って内側に入るようだ。

 しかしまぁ、お腹空いたなぁ。

 って、もう六時か。

 時計だけ見ると夕ご飯と言われてもおかしくないな。

 ただ、太陽も傾いているとはいえ、まだ高いところにある。

 この世界に時計があるならぜひとも欲しい。

「コレン ムール デ レズン。ダッガ ジャレントン。」

 おじいさんは俺に手を振ってトンネルに入ろうとする。

 あぁ、ここでお別れなんだな。

 短い間だったが色々お世話になった気がする。

「ありがとう。」

 俺はそっと呟いた。

 さて、俺もおじいさんに続いてトンネルを潜って町に入ろう。

 あれ、トンネル潜って町に行くだけならここで別れる必要はない。

 ならどうしてここでお別れなんだ、町に着いてからでもいいと思うが。

 そんなことを考えていると、おじいさんを乗せた馬車が止まった。

 トンネルを入る直前だったので驚いた。

 何か事故か?

 そんなことを思ったが、もっと単純な理由だった。

 門番に呼び止められた。

 たったこれだけだ。

 確かに町を守るために怪しい人物を入れないことは大切だ。

 ただ、ここではこのトンネルを潜る人全員に対してやっているのか。

 大変だな。

 感心していると馬車は動き出し、俺も後に続く。

 まぁ、おじいさんが町に入る前にお別れをした理由が分かった。

 門番が馬車を止めてまで通る人を確認しているほどセキュリティーに気を付けているところだ、見慣れない風貌をした人物を通らせようとは思わないだろう。

 俺もブレザーの制服を着た、言葉の通じない人。

 どんなに甘い判断をされても通行できる可能性は低い。

 もし通行できたとしても身の潔白を証明できてからだな。

 そりゃぁ、別れたくなるな。

 と頷いていたら門番に呼び止められた。

 さあ、怪しい人物だぞ~、ってこんなことを思っている場合ではない。

 俺、町に入れないどころか怪しい人物として捕まってしまうぞ。

 おじいさん、面倒見るなら最後まで見てくれよ。

 信じていたのに。

 涙目になるが、門番は気にせず俺に話しかける。

「ユニャール ド ガンパン。グルドダラウ デ マンズルーム。」

「ああ、どうもっす。」

 なんとなく返事をしてみたが、やはり日本語は伝わらなかったようだ。

 門番は驚いた後、俺が怪しい人物のように眺める。

 頭から足の先まで、舐めまわされるように。

 そしてこの後何をされるか分からない恐怖感が俺を襲う。

 俺はどうすればいい、どうやってこの状況を切り抜ければいい。

 一、 このままトンネルに入り、町へ入って人ごみに紛れる

 二、 門番を倒してから町の中に潜り込む

 三、 自転車の向きを変え町から離れる

 四、 門番を倒してから町に入らず逃げる

 五、 門番に賄賂を渡して見逃してもらう

 六、 門番を襲って、着ている制服を拝借して成り済ます

 七、 門番を人質に取って町に入る

 …。

 どれも難しいな。

 半分くらい門番を襲うことが条件になっているが、これができるだろうか。

 一回殴るくらいはできるかもしれないが、相手は槍のような武器を持っているうえに鎧まで着ている。

 喧嘩をして勝てる相手ではないだろう。

 まぁ、殴った後に移動するだけなら問題はないか。

 しかし、門番を敵に回した後何が起こるかは分からない。

 彼の味方が増援に来るかもしれないし、俺の顔がこの世界に広まるかもしれない。

 あまり、と言うかほとんどいいことないな。

 なら一と三と五が選択肢に残るな。

 しかし、どれも上手くいくものだろうか。

 町に入っても侵入者として探されるだろうから袋のネズミ状態だし、自転車をUターンさせていると絶対捕まるだろうしな。

 賄賂なんて何渡せばいいんだ、この世界のお金なんて持ってないぞ。

 不味い、八方塞がりだ。

 こんなに選択肢を考えても追い込まれるなんて初めてだぞ。

「ブニャ~~フ。」

 張り詰めた空気がミケの欠伸で消される。

 それでも俺の心臓はバクバクしているが、さっきよりはマシだ。

 門番も今のでミケの存在に気付いたようで、じっと真剣に見つめている。

 荷台に乗っているミケは暇そうに欠伸をしたり首を後ろ脚でかいたりしているが、落ちる気配が一向にない。

 バランス感覚強すぎるな。

 もしかしてここに来る間ずっとそんなにのんきにしてたのか?

 それなら乗せた甲斐はあったが。

「ドヨヨヨヨヨヨ!!!!???」

 急に門番が奇声を上げてふらつく。

 そのまま腰が抜けたように座り込む。

「ハッ、ハー エルベーグ! サラランドリー ジャナループ プルタ ハー バレルン!? セントール フェン ガラン!」

 …。

 どうしたんだ、急に!?

 しかも、門番は腕を震えさせながらもトンネルへ入るように促してくる。

 門番はミケを見てから、こんなふうに脅えているようになった。

 ミケ、お前何かしたのか!?

 ただまぁ、ミケは答えることなくあくびをしている。

 言葉が通じないから当然と言えば当然か。

 何か釈然としないが、俺はトンネルを潜って町に入ることにした。

 何が出てくるか分からない期待と不安を胸に抱いて。




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