第43話 聖女は死霊病とグール化を解き明かします!①

 私――アンナ・リバールーンはゾートマルクの街の死霊しりょう患者かんじゃ治癒ちゆするため、調査を行った。


 そして昼、内周ないしゅう地域の住人の正気しょうきがない状態――死霊しりょう病に関して私は普段、彼らが飲んでいる赤ワインに問題があるとにらんだ。


 ただし、それは半分しか解決していないことに気付いてしまった。


 ウォルターがルバイヤ村に旅立った翌日の朝、私とパメラは宿屋の一室で考えていた。


死霊しりょう病……つまり人の無気力状態に関してはある程度は分かったけど、グールについてはほぼ何も分かっていないわ」


 私はため息をついてパメラにつぶやくように言った。


「どういうこと? 死霊しりょう病は解明できたと言っていたじゃないか」


 パメラは驚いた顔で私に聞いてきたので、私は答えた。


「よく考えたら、それは半分だけ解決できたということ。死霊しりょう病とグールは、分けて考えなければならない別の病気だと気付いたわ」

「え? そ、そういう考え方もあるか。っていうか、何で赤ワインが死霊しりょう病の原因なんだよ。あたしはまだそれを知らないぞ。早く教えろよ」

「それはまだ言えない」


 私はきっぱり言った。


 死霊しりょう病とグールは分けて考えなければならないが、実際に起きている問題は同時に出ている。


 だからどちらも答えが出ないと、真の正解に辿たどり着かない気がしたのだ。


「グール真相しんそうが分かってから、あなたにも皆にも話すわ」

「ったく……。あんたは何でも一人でかかえ込むクセがあるからなあ」


 パメラがそう不満を口にしたとき……。


「おいアンナ、パメラ! 起きてるか。す、すごいぞ!」


 ジャッカルの声が部屋の外からひびいた。


「ウォルターが戻ってきた! 白魔法医師をたくさん連れてきているぞ。早く外に来い!」


 私とパメラは顔を見合わせた。


 ◇ ◇ ◇


 私たちは街の入り口に急いだ。


 すごい!


 ウォルターと六名の白魔法医師たちが街の入り口付近に立っている!


「ほほう、ウォルターはやりましたね」


 私たちと一緒いっしょに来ていたラーバスはうなった。


「おお、何と。グラモネ様がいらっしゃる! あの方は元白魔法医師長ですよ」

「ラーバス、久しぶりだな。元気かね?」


 グラモネという老人はラーバスに挨拶あいさつした。


 ラーバスはグラモネ老人に向かって、深くこうべれている。


 二人は知り合いか……。


「ちっ、何だ。本当に白魔法医師を連れてきちまいやがったのか。ゾートマルクの医師は俺だけで十分じゅうぶんだっていうのに!」


 医師のゴランボス氏は舌打ちして不満をぶちまけた。


「あなたがアンナさんか。聖女だと聞いている」


 グラモネ老人は私に近づいてきて言った。


「私はグライモス・グラモネだ。ウォルターから君が様々な人の病気を治癒ちゆしてきたと聞いている。会えてうれしいよ」

「ど、どうもありがとうございます。光栄です」


 私はそう答えつつ、ちらりとウォルターを見た。


 ん……? ええっ?


「ウォルター! 何だか体がかがやいて見えるけど……」

「え? そ、そうか?」


 ウォルターはずかしそうにした。


 私はハッと気づいた。


「あっ、そうか。聖騎士パラディンになれたのね?」

「ま、まあそうらしい。実感はそれほどないのだが。これから修業次第しだいで真の聖騎士パラディンになれそうだ。――そういえばアンナ、このようなものを手に入れた。大変危険な薬剤やくざいだが……」


 ウォルターは袋からびんを取り出した。


 中には緑色のドロドロの液体が入っている。


「こ、これは!」

「これがグールの原因、『魔族の薬剤デモン・メディカ』という薬剤やくざいだそうだ。グールはこれを注射することによって発現はつげんする。白魔法医師たちの研究で分かったことだそうだ」

「ウォルター! すごいわ!」


 私は思わず声を上げた。


 これで死霊しりょう病とグール……二つの病気の原因が分かったことになる。


 しかしこの魔族の薬剤デモン・メディカの重大な謎について、私はまだその時点では気づいてなかったのだが……。


「では、誰かに頼みたいことがあるのだけど」


 私は周囲を見回し、看護師のポレッタを見やった。


「ポレッタ、申し訳ないけどたのみがあるの」

「何でしょう? 私が力になれることだったら、何でも言ってください」

「――それは良かったわ。私は死霊しりょう病とグールなど、このゾートマルクの街全体にはびこる問題について、人々に説明したいのです」


 私は川の外周がいしゅう地域の一番大きな建物を指差した。


 あれはどうやらこの街の公民館らしい。


「あそこの公民館の会議室を借りて、人を呼べないかしら。それから新品の赤ワインを、外周がいしゅう地域と内周ないしゅう地域のものを二種類手に入れたいのだけど」

「はい、どちらもおまかせください」


 ポレッタは静かにうなずいた。


 ポレッタならこの街に長く住んでいて顔が広いし、看護師として信頼されているから適任てきにんだと思ったのだ。


「え? 何だ? ワインが二種類? 初耳だぞ!」


 パメラは目を丸くして私を見た。


 ――私はこれから皆に、死霊しりょう病とグールについて、私の独自どくじの調査結果を話すつもりだ。


 ◇ ◇ ◇


 三時間後、私は自警じけい団の若者たちに、外周がいしゅう地域の公民館の会議室へと案内された。

 

 ポレッタがうまく手配してくれたのだ。


 私が会議室の檀上だんじょうに立つと、すでに会議室の椅子いすにはウォルター、ジャッカル、パメラ、ラーバス、ポレッタ、ゴランボス氏が座っていた。


 そして外周がいしゅう地域の住人数名、グラモネ様、ルバイヤ村の白魔法医師たち五名もぞろぞろと会議室に入ってきた。


「くだらん、まったくもってくだらん! 聖女などというまじない師が、死霊しりょう病とグールを解明しただと?」

 

 ゴランボス氏は腕組みして、ギシリと椅子いすにもたれかかった。


「しかも俺に講義こうぎをたれるだって? まったくえらそうに!」


 私はゴランボス氏に、「講義こうぎではなく調査報告です」と言った。


「これより死霊しりょう病と人のグールかしをいたします!」


 私は会議室にいる人々に宣言をした。

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