第37話 聖女はグール化現象を解明しようと立ち上がります!

「ルバイヤ村に人間の力を引き出してくれる人がいます。それに加え、ルバイヤ村の者ならあなた方の要望にこたえて、たくさんの協力者を派遣はけんしてくれるかもしれません」

「そ、それはすごい!」


 私は思わず声を上げた。


 ルバイヤ村に行かなければ……!


 だが一方でここ、ゾートマルクの街の魔物――グールした人々のことも調査したいという気持ちもあった。


 聖女として、人を苦しめるこの謎の現象げんしょうほうってはおけない……!


 ◇ ◇ ◇


 川の内周ないしゅう地域の住人は夕方からグールする!


 となると問題は、私たちが夜をどう過ごすか。


 私たちが宿泊する場所を探さなければならない。


 ちょうど、川の外周がいしゅう地域に「陽馬亭ようばてい」という宿屋があったので、そこで宿泊しゅくはくすることになった。


「ご主人はグールが怖くないのですか?」


 私は宿泊しゅくはく手続きをするさい、宿屋のせた主人に聞いた。


 しかし宿屋の主人はまったくそれについては答えなかった。


「……お前たちの宿泊しゅくはくする部屋は102号室と103号室だ」


 そして彼はこう付け加えた。


「この街で余計なことをするな。分かったな。変な真似まねをしたら……報告するぞ!」


 こ、この主人――ジャームデル王国の監視人かんしにんだ!


「僕たちは常に監視かんしされている――そう覚悟かくごしておけばいい」


 ウォルターは受付から離れた窓の前で静かに言った。


 窓からは川の向こう側の内周ないしゅう地域の家々が見える。


 すでに開閉式の石橋はね上げられ、川の外周がいしゅう地域と内周ないしゅう地域のはできないようになっていた。


 そのとき!


「う、う、う……ぐ、ぐぐ……」


 ……うなり声が窓の外から聞こえた!


 それはほぼ間違いなく、グールした人間の声だった……。


 ◇ ◇ ◇


 ウォルターとジャッカルの部屋――102号室で私たちは相談した。


 ウォルターが口を開いた。


「明日、僕が一人でルバイヤ村に行こう」

「そ、それは危険じゃない?」


 私は心配してあわてて言った。


「魔物のゴブリンが道中どうちゅうにいるかもしれないし、ルバイヤ村はジャームデル王国の国境こっきょう付近の村らしいわ。ジャームデル王国はグレンデル王国と友好国。国王はイザベラ女王と深い仲だというし……危険よ」

「アンナ、ウォルターにまかせておけ」


 ジャッカルが言った。


「アンナとパメラはここ、ゾートマルクで色々やることがあるんだろ。この街には俺が残ってやるから安心しろ」

「ジャッカル、あんたが~? 余計心配だなあ」


 パメラがそう突っ込んだので私たちはクスッとき出した。


 ウォルターは話はまとまった、という風にうなずき言った。


「僕がルバイヤ村に行き白魔法医師たちに協力者をつのろう。アンナたちは、この街のグール現象を解明するんだな?」

「ええ。明日の朝、グールからけた人々の様子を見ます」


 私がそう言った……そのとき!


 窓の外でガラスが割れるような音が聞こえた。


 私たちは窓から川の向こう側――川の内周ないしゅう地域を見た。


 薄暗い中で、何かがうごめいているように見えた。

 

 ……人間……いや、グールだ! 


「グールが家の外に出ているのか!」


 ジャッカルが声を上げたとき、またガラスが割れる音がした。


 グールした人間が、家の窓ガラスを割っているのだ!


 これは思った以上に深刻しんこくな状況だ……。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝――快晴。


 私、パメラ、ウォルターはラーバスを診療しんりょう所の外に呼び出した。


 ジャッカルは朝の見回りに行ってしまっている。


「アンナ、あ、あなた方がグールした人間たちの診察しんさつをするというのですか?」


 私がうなずくとラーバスはため息をついて言った。


「まったく無茶ですね。朝はグールがおさまるといっても、彼らは正気しょうきを失っています。また、時折ときおりグールする者もいる。危険ですよ」

「僕はルバイヤ村に一人で行きます。ここからニ十キロ南に行けば良いのですよね?」


 ウォルターはラーバスに言った。


 ラーバスは首を横に振りつつも、観念したようにつぶやいた。


「まったくウォルター……あなたも……。確かに私はあなたに聖騎士パラディン転職ジョブチェンジすることをすすめました。しかしその道中どうちゅうには魔物のゴブリンもいて危険です。それに、白魔法医師のかくざとという名前の通り、物凄ものすご警戒けいかいが強い村なのです。……私が紹介状を書きますが、追い返されるかもしれませんよ」

おんに着ます。馬車で早めに帰ってきます」


 ウォルターはラーバスに頭を下げた。


 すぐにウォルターはラーバスに紹介状を書いてもらい、馬車の停車場に行ってしまった。


 そのとき……!


「何だ、お前らは!」


 私たちの後ろで、ダミ声が上がった。


 後ろを振り向くと、そこには太った強面こわもての中年男が立っていた。


 おや? 医者のような服を着ている。


 白魔法医師ではなく普通の医師の格好だ。


「ああ? 新参者しんざんものが街に来たと聞いてきたが……何だぁ? お前ら」


 中年医師は怒鳴った。


「こ、これは、ゴランボス先生!」


 ラーバスがその中年男に頭を下げて言った。


「か、彼女たちが、昨日話したグール現象を解明したいと言っている人たちです」

「はあ? グール現象を解明したいだと?」


 この太った医者は私たちをにらみつけて叫んだ。


「できるわけねぇだろうが! 俺が二年もかけて研究しているのによ。さっさと帰れよ。邪魔だよ、お前ら!」


 な、何だ、この中年男は?


 本当に医師なのだろうか?

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