第36話 ゾートマルクの街の秘密が解き明かされる!

 パメラは白魔法医師のラーバスに、体にきずがあるか確認してもらった。


 何も問題ないということで、私は一安心だ……。


 私たちは夕方、ラーバスに街の川の外周がいしゅうにある小さな料理店にまねかれた。


 女性看護師のポレッタは家に帰ったらしいが、この街は不気味だし魔物がでるので心配だ。


 料理店にはちゃんと料理人もいるし、お客は少ないがきちんと経営している。


 客は街の住人だろう。


「こんなに食料があるなんて。グレンデル城の城下町みたい」


 私は料理を食べながら言った。


 牛肉や野菜のコース料理や、パンもあり、今のご時世では考えられない豪勢な食事だ。


 ラーバスは言った。


「物資や食材はジャームデル王国から届いています」


 物資や食材が届く……?


 しかも悪名あくみょう高き戦闘国家、ジャームデル王国から? 


 確かあの国はイザベラ女王と関係が深いと聞く。


(おい、アンナ。料理をあんたの能力で調べたほうがいい)


 隣に座っているパメラが、私に耳打ちした。


 私はあわててうなずいた。

 

 うたがうのはいけないと思ったけれど、料理に毒があるかを透視とうし魔法で見た。


 料理から緑色の「アーダ」は出ていない。


 毒はまったくなさそうだ。


 私とパメラはホッと息をついた。


「この街は二年前に、ジャームデル王国がさびれたゾートマルク村を改造して造り上げた街なのです」


 ラーバスがそう言ったので、私は思わず聞いた。


「なぜジャームデル王国がそんなことを?」

「私はジャームデル王国にやとわれただけの白魔法医師なので、くわしくは知りません」

「ラーバス、あなたはジャームデル王国の人間なの?」

「私は安い金でジャームデル王国にやとわれた、単なる白魔法医師ですよ。しかし医者としてほこりをもって人を診察しんさつ診療しんりょうします」


 そしてラーバスは静かにこう言った。


「この街はジャームデル王国の実験施設しせつなのです」


 私たちは眉をひそめた。


「実験施設しせつだと? 一体何の実験施設しせつなんだ?」


 ジャッカルはなかば声を強めて聞いた。


「先程の魔物……グールは、この村の川の内周ないしゅうに住む街の住人なのです。それをジャームデル王国は監視かんししています。私が知っているのはその程度です」


 驚く私たちを尻目しりめに、ラーバスは静かに続けた。


「夕方から住人はグールとなり、朝になると普通の人間に戻っていく。しかし人間に戻っても正気しょうきはないが」

「お、おいおい! それが本当ならやばいじゃないか。今は夕方だろ? そのグールとやらが川の内側うちがわから来るぞ!」


 ジャッカルが声を上げると、レストランにいた数名の客はこっちを見やった。


(アホ! 声がでかい!)


 パメラがジャッカルをひじ小突こづいた。


 ラーバスは再び言った。


「石橋は開閉式になっており、夕方は川をわたれません。グールは川をわたることはほぼありません」

「では、昼にパメラを襲っていたグールは?」


 私が聞くとラーバスは答えた。


時折ときおり、昼にグールする者がいるのです。そういうときには私の魔法で眠らせます」

「あたしをおそったグールは? 担架たんかであいつの家に運び込んだんだな?」


 パメラは少し怒っているようだった。


「そういうことです。元は人間ですからね。彼にも家があります」

「周辺住民は危険じゃないのか?」

「私の魔法で眠っているから大丈夫です。朝になればグールけます」


 私はローバッツ工業地帯の村のターニャを思い出していた。


「となると……私の知り合いの娘さん、ターニャもグールになっていたのですね」

「私もそう思います。なぜここから離れたローバッツ工業地帯の村に、グールした子どもがいるのかは不明ですが」


 うーん……確かに謎だ。


「あなたたちはローバッツ工業地帯の村人を治癒ちゆする協力者を探しているのでしょう? この街のニ十キロメートル南に、ルバイヤという村があります。そこには白魔法医師たちのかくざとがあります」


 白魔法医師たちのかくざと


 私はそんな場所があるのか、と驚いた。


「ウォルターさん、ジャッカルさん、あなたたちはかなり腕が立つとみえるが」


 ラーバスはウォルターとジャッカルを見やった。


「私から見ると、まったく力が解放されていない。特にウォルターさん、あなたはまだ力を秘めていますね。――私の知り合いには『聖騎士パラディン』という職業ジョブについている者がいます。あなたは今の騎士きしから、聖騎士パラディン転職ジョブチェンジするべきだと思う」

聖騎士パラディン!」


 ウォルターは驚いたように声を上げた。


「伝説の職業ジョブじゃないか。騎士きしよりもずっと強く位の高い職業ジョブだ……! ぼ、僕にそんな資格があるのか?」

「あなたならその力を備えているのでは? ルバイヤ村に人間の力を引き出してくれる人がいます。それに加え、ルバイヤ村の者ならあなた方の要望にこたえて、たくさんの協力者を派遣はけんしてくれるかもしれません」

「そ、それはすごい!」


 私は思わず声を上げた。


 ルバイヤ村に行かなければ……!

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