第34話 白魔法医師の青年、ラーバス

「……あなた方、何者……?」


 青年は私たちをにらみつけていた。


「待ってください!」


 私は叫んだ。


「落ち着いて! 私たちは敵ではありません。――その死霊病しりょうびょうの原因を探りに旅をしているのです」

死霊病しりょうびょうの原因……?」

 

 青年は地面に落ちている自分の杖を拾い上げながら言った。


 この青年の年齢ねんれいは恐らく――二十代後半くらいだろう。


 着ている白ローブの形、腕につけている紋章もんしょうを見るとこの青年は白魔法医師に間違いない。


 白魔法医師とは治癒ちゆ魔法をあつかう医師のことだ。


 この白魔法医師は誰の味方だろうか?


「僕たちは旅の者だ。仮住かりずまいをしている村に病人がおり、協力者を探している。僕たちは人をきずつけることはない」

 

 ウォルターが淡々たんたんと言った。


 それを聞いた青年の顔から、警戒けいかいの色が消えたように思えた。


 素性すじょうかくしてこう言えば良かったのか……さすがウォルター……。


「ふむ。私は見ての通り白魔法医師です。自己紹介くらいはしておきましょう。私はラーバス・アンテルムという者です」


 ラーバスはおだやかに、それでいて力強く言った。


「あなたたちのお知り合いにも病人がいると。……しかしここには近づかないほうがいい。早く帰りなさい」

「なぜだ?」


 ウォルターが聞くと、ラーバス白魔法医師は答えた。


「このゾートマルクは死霊病しりょうびょうの街だからです」


 死霊病しりょうびょうの街……。


 い、一体どういう街なんだろう?


 私が考えていると、ウォルターは一歩前に進み出て聞いた。


「そのことについてくわしく教えていただきたい。僕たちも手ぶらでローバッツ工業地帯に帰れない」

「ほほう? ローバッツ工業地帯から来たのですか? あそこはもうさびれてしまったと聞くが……しかしね、この街は危険なのですよ。帰ったほうが身のためだ」

「どう危険なのですか? あなたも白魔法医師ならば、ローバッツ工業地帯に来て私たちの友人の娘さん――ターニャを助けてあげてください」


 私は少し腹を立て、ラーバスを見やって言った。


「ターニャは死霊病しりょうびょうだと思われるのです」

「何ですって?」


 ラーバスは私を見た。


「ローバッツ工業地帯の村に、死霊病しりょうびょう患者かんじゃがいるのですか?」

「私はその死霊病しりょうびょうというものがどういうものか知りません。しかし、死霊病しりょうびょうを見たことがある人が、ターニャを見て『これは死霊病しりょうびょうだ』と言いました。また、村人のほとんどが体内に毒素を抱えています」

「……ふむ……」

「もっと助けがいります。あなたも協力していただけませんか」

「無理ですね」


 ラーバスは冷たくそう言った。


「帰ってください。邪魔です」

「そんな言い方はないじゃありませんか。あなたは白魔法医師でしょう? 人助けをするのがお役目では?」


 私は自分の言い方は、大変ぶしつけで傲慢ごうまんだと自分でも分かっていた。


 しかし何としても協力者が欲しかったので、こんな言い方になってしまった……。


「私には仕事がある。君たちの相手はしていられないのです」


 ラーバスはもう礼拝堂れいはいどうのほうに戻ろうとしていた。

 

 そのとき――。


「きゃあああ!」


 叫び声がしたので後ろを振り向くと、パメラの背中に何かがいる!


 ひ、人型ひとがたの魔物が抱きついている?


 こ、この魔物、どこから出てきたんだろう?


「ちょっとおお! あたしが何したっていうのよ!」


 パメラはわめいているが、魔物はパメラの背中にべったりと抱きついて離れない。


 その魔物ははだが紫色で爪が伸び、きばが生えている。


 しかし服を着ているし、髪の毛が生えている……。


 えっ? 


 ――人間?


 魔物はパメラの首を、腕で後ろからめようとしている。


「どけえっ、この野郎! パメラ、地面に倒れろ!」


 ジャッカルが声を上げた。


 パメラは男性を背負ったまま、よろよろと地面に倒れ込んだ。


 ジャッカルはその魔物を、自分の武器の八角棒はっかくぼうなぐろうとした。


「攻撃するのはおやめなさい!」


 ラーバスがジャッカルに向かって声を上げた。


「地上の者よ、眠れ!」


 ラーバスが呪文をとなえた。


 するとジャッカルとその紫色の人型ひとがたの魔物は、一緒に地面に突っ伏して眠ってしまった。


 い、今のは強制睡眠すいみん魔法――! 高度な白魔法だ!


 この人型ひとがたの魔物は一体?


 パメラはあんまりびっくりしたのか、わんわん泣いている……!


 ジャッカルも寝てしまっているし、ど、どうなってしまうの?

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