第33話 聖女は再び逃亡します!

「さあ早く! 女王と女王親衛しんえい隊はおそかれ早かれ、ここに来てしまうぞ!」


 グレンデル国王が歩き始めたと同時に、「炭鉱たんこうのほうを探せ!」という声が聞こえてきた。


 女王親衛しんえい隊がこっちに来る!


 私、パメラ、ウォルター、ジャッカルの四人は、ネストールと別れてグレンデル国王に急いでついていくことにした。


 私たちは炭鉱たんこうの中に入っていった。


 ◇ ◇ ◇


 炭鉱たんこうの通路――炭坑たんこう薄暗うすぐらかった。


 岩の突起とっきがありパメラが転び、私たちはコウモリにおそわれた。


 やがて通路の向こうのほうに光が見えてきた。


 炭坑たんこうから外に出ると、光と青空の青色が私たちを包む。


「ここは……!」


 ローバッツ工業地帯の裏の岩場だ。


 後ろを振り向くと、岩場には大きな穴が空いていた。


 私たちはそこから外に出てきたらしい。


 太陽の光が岩場の草木の緑を、よりいっそうかがやかせていた。


「さあ早く逃げよ!」


 グレンデル国王は声を上げた。


「南に五キロメートル行くと牧場があり、そこで馬車が借りられる。牧場から南西に二十五キロメートルほど行くと、そこにゾートマルク村があるはずだが……。さあ、その村へ逃げよ! すぐに追手おってが来るぞ!」

「国王様、ここは危険です! 私たちと一緒いっしょに逃げましょう」


 私がそう言うと、グレンデル国王は首を横に振った。


「いや、世話になったレギーナのことが心配だ。私はここに残るよ。だが、こんな話をしているひまは……」


 国王がそう言ったそのとき!


「聖女はどこだ!」

らえよ!」

「この穴の外にいるはずだ!」


 ――炭鉱たんこうの穴から女王親衛しんえい隊たちの声が聞こえてきた。


「さあ、行くがよい!」


 国王が声を上げたので、私たちは急いで南に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 私たちはグレンデル国王と別れ、私たちは徒歩とほで牧場に行き、馬車を借りてそのまま南西に向かった。


 御者ぎょしゃはジャッカル。


 私たちは客車の上でられながら、ようやくホッと息をつくことができた。


 そこから馬車で二十五キロ移動した。


 そして五、六時間、南西に移動しただろうか――。


「あ、あれは……村? いや、街……か?」


 ジャッカルが叫んだ。


 南西のほうに家々が見えてきた。


 おや? 村というよりは大きな街に見えるが……。


 あれがゾートマルク村?


 村で見かけるような木造の家はなく、モルタルと石づくりの白い立派な家々がたくさん建っている!


 こんな荒野こうやの真ん中に、いつの間にこんな大きな街ができたのだろうか?


 私たちは目をうたがった。


「確かゾートマルクは、『村だ』とグレンデル国王が言ってたよね?」


 パメラが首をかしげた。


 確かグレンデル国王はさっき、こう言っていた――。


「牧場から南西に二十五キロメートルほど行くと、そこにゾートマルク村があるはずだが……」


 と言っていたはずだ。


 しかし目の前にあるのは村ではなく大きな街に見える。


 国王の勘違かんちがいだろうか?


 私たちが首をかしげていると――。


「このゾートマルクに何か用ですか?」


 白いローブを羽織はおった長髪の若い青年が、白い大きな建物から出てきた。


 背が高く、性格は何となく真面目そうな人だ。


 整った顔立ちをしている。


 建物は――恐らく礼拝堂れいはいどうだ。


「それともあなた方……。死霊病しりょうびょうにかかった人たちですか?」


 若い青年は私たちに向かってつえを突き出した。


 杖の先を見ると――魔法の火がさかっている。


 危険!

 

 これは火炎魔法だ!


「火の精霊よ、邪魔者を退しりぞけたまえ!」


 青年はそうとなえ、火の魔法を杖からはっした。


 轟音ごうおんとともに、火のたまが私たちの足元に着弾ちゃくだんする。


「待って! 待ってください!」


 私が青年にそう言ったとき、彼は再び杖を振り上げるのを止めた。


 そのときウォルターが素早く木剣ぼっけんを取り出し――。


 彼の杖をはらい落した!


「う、むっ……! 強い!」


 青年は顔をしかめた。


 彼の杖は地面に落ちた。


「君は本当に火の魔法を当てるつもりはなかった。そうだろう?」


 ウォルターが青年に言った。


「……あなた方、何者……?」


 青年は私たちをにらみつけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る