第32話 イザベラ女王、怒りの大捜索

「私が食料庫を見よう。もしアンナが出てきたら……あの聖女を牢獄ろうごくに入れて地獄じごくを見せてやる!」


 こ、この声は……!


 イザベラ女王だ!


「おい、かぎがあるぞ。気付かなかった。かぎ付きの戸か、珍しいな」


 鍵穴かぎあなかぎれ下がっている。


 そのかぎを穴に差し込むと引き戸にかぎをかけられる「ネジしまじょう」というものだ。


 ジャッカルは素早くネジしまじょうをかけた。


「そこにいるか?」


 外から聞き覚えのある声がした。


 格子こうしの窓に誰かが近づいてくる!


 私は心臓が飛び出そうになったが、窓に近づいてきたのは……ネストールだった。


 すると彼は格子こうし隙間すきまから、「村人の大声が聞こえたら炭鉱たんこうへ」とつぶやいた。


「おい! お前……少年!」


 外で太い男の声がした。


 女王親衛しんえい隊のギルバル副隊長の声だ。


「少年、窓のところで何かしたか? 誰か中にいるのか?」

「いえ何も。だけど虫がすごくいるので、近づかないほうがいいですよ」

「えっ?」


 ギルバル副隊長は少し弱々しい声を上げた。


「む、虫か。苦手なんだよなあ……。少年! お前、そんなところでうろちょろしているんじゃない! とにかく食料庫は入らせてもらうからな!」


 ギルバル副隊長が窓を離れていく足音がした。


「ネ、ネストールの言った『大声』って何?」


 私がつぶやくようにウォルターとジャッカルに聞くと、ウォルターが考えながら言った。


「彼が言ったのは、『村人の大声が聞こえたら、食料庫の外に出て炭鉱たんこうに行け』――そういう意味だと思うが……うーむ」

「――食料庫内を探せ!」


 そのとき、このジャガイモ部屋べやの外で――つまり食料庫内でイザベラ女王の声がした。


 そして数名の足音が聞こえた。


 女王親衛しんえい隊の数名が食料庫に入ってきたのだろう。


「どこだ? ここにもいない……み上げられた箱の裏側を探せ!」


 女王がイライラした声を上げたが、女王親衛しんえい隊の一員らしき男は言葉を返した。


「だ、誰もいないようです」

「箱の中身は何だ? 箱の中に人間が入っている可能性は」

「野菜や穀物こくもつ類です。箱は大人が中に入れる大きさではありません」

「この食料庫に部屋はあるのか?」

「あ、あるようです!」


 私は思わずドキリとした。


 すぐにガタガタという引き戸の扉を開ける音がした。


 女王たちが、別の引き戸の部屋を開けているらしい。


「この部屋にはいません!」

「じゃあこっちは!」

「いえ、ここにもいないようで」

「ええい! では最後のここは」


 ガタガタガタ……。


 わ、私たちの引き戸部屋……ジャガイモ部屋べやに入ろうとしている!


かぎがかかっているな。ブチやぶれ!」


 女王がそう叫んだとき――。


「アンナだ! アンナ・リバールーンがいたぞーっ! 集会所の横だ!」


 窓の外――食料庫の外で「大声」がした。


 え?


 私は食料庫の中にいるのに……。


 声の主は……多分、オールデン村長?


「外だ! 全員、外に出るぞ! アンナを見つけたらしい」


 女王の声がして食料庫内は静かになった。


 窓の格子こうし隙間すきまから外をのぞくと――。


 道端みちばたに何となく私に似ている女性が、おろおろと立っている。


 あ、あの人は誰?


 やがてその女性は女王親衛しんえい隊に取り囲まれた。

 

 そのときウォルターが素早く引き戸部屋のかぎを開けた。


「よし! ネストールの言葉の通り、炭鉱たんこうのほうへ走ろう!」


 私とジャッカルはうなずいて、すぐに食料庫内に出た。


 食料庫内には誰もいない。


 そっと外に出ると集会所の近くに、たくさんの女王親衛しんえい隊たちが集まっている。


 女王の姿もある。


「さあ早く」


 ウォルターが私の手をとって走り出した。


 私はうなずくとすぐに集会所とは真逆まぎゃくの方向に走り、裏道を通って炭鉱たんこうに向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 私とウォルター、ジャッカルは炭鉱たんこう近くに急いだ。


 炭鉱たんこう前の集落にはパメラとネストールとグレンデル国王がいた。


 その三人以外は誰もいない。


 女王親衛しんえい隊は、あの謎の「もう一人の私」を調べているのだろう。


 一体、彼女の正体は……!


「さあ、炭鉱たんこうの西通路から外に出られるぞ。私が案内する。ついてきたまえ」


 グレンデル国王が言った。


 私は疑問に感じて聞いた。


「で、でも、さっきの女性は一体どなたなのですか?」

「あの人はレギーナさんだよ。オールデン村長の娘さんだ」


 ネストールが答えた。


 ええっ?


「彼女は自分から、『アンナ様の身代わりになります』と言ってくれたんだ。時間がなかったから、了承りょうしょうしちゃったけどね……。ちなみに大声の主はオールデン村長だ」

「レ、レギーナさんを助けなくちゃ」

「いや、俺が村に残って見ておく」


 ネストールが言うとグレンデル国王もうなずいた。


「私もレギーナの提案ていあんに驚いたよ。しかし女王と女王親衛しんえい隊に、何もしていないレギーナは逮捕たいほできないからな」


 そして少しうつむきながらも力強く言った。


「レギーナは……うむ、きっと大丈夫だ――。さあ、私についてきなさい。外に出るための抜け道を教えてやるぞ」

「し、しかし外に出たとして、私たちはどこに行けば良いのですか?」

「この村に死霊病しりょうびょうの子どもがいるのだろう。それに村人の毒素を取るために、たくさんの協力者が必要だ。私が死霊病しりょうびょうを見たゾートマルク村に行け」

「ゾートマルク村……!」


 聞いたことがある。


 南西のジャームデル王国が管理しているとうわさされる謎の村だ。


「さあ早く! 女王と女王親衛しんえい隊はおそかれ早かれ、ここに来てしまうぞ!」


 グレンデル国王が歩き始めたと同時に、「炭鉱たんこうのほうを探せ!」という声が聞こえてきた。

 

 女王親衛しんえい隊がこっちに来る!


 私、パメラ、ウォルター、ジャッカルの四人は、ネストールと別れてグレンデル国王に急いでついていくことにした。


 私たちは炭鉱たんこうの中に入っていった。

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