第23話 聖女は食料の毒を見ます!

「私は明言めいげんします」


 私は言った。


「あなたたちも――この村の村人たちも、毒をられている――! 何者かに!」

「な、なにっ?」


 オールデン村長は目を丸くして私を見た。


「ちょ、ちょっと待て。それは本当か?」

「ええ、間違いないと思われます」

「そ、そう言われると俺たちは何も食べられないじゃないか」

「あ、うーん……そうですね」


 しかし村人の体内に毒があることは確かなのだ。


 食物で摂取せっしゅしていると考えるのがもっと妥当だとうだろう。


 この村の食料はすぐに調査したほうが良い――私はそう判断した。


「皆さん、食料はどうやって手に入れるのですか?」

「村の食料は――村人が畑でれた野菜などを食料庫に置く。そして朝と夕、各自村人が食料庫から持っていく。それを各家庭で料理する。食料庫の使用料は村長の俺に払ってもらう」


 私は「へえ」と驚いた。


「面白い制度ですね」

飢饉ききんがきたときに困らないように、つねに食料は倉庫にあるように管理しておく。この村はまずしい。村人が協力し合わないと……」

「ちょっとその食料庫を見せていただけますか?」


 私は申し出た。


 パメラは集会所のすみで眠ってしまっている。


 だいぶつかれたんだろう。


 私は使用していない毛布を、寝ている彼女の体にそっとかけた。


 ◇ ◇ ◇

 

 今は夕方近くの十五時半――。

 

 そろそろ日が落ちそうだ。


 私とオールデン村長が集会所から外に出たとき、ウォルターが村の外の見回りから帰ってきた。


 ジャッカルはまだ村の周囲を探索たんさくしているという。


 私がウォルターに、グレンデル国王のことや彼の体内の毒のことを話すと、彼は非常に驚いていた。


「驚く話ばかりだが……。その食料の話も興味深い」


 ウォルターは深く考えているようだった。


「結局、君は食料があやしいと思っているのだな」


 ウォルターの言葉に私はうなずいて答えた。


「ええ、村人は全員、ひどくせているのです。また、彼らのアーダからも毒が見えます」

「ふむ……。やはり毎日の食事に、何らかの原因で毒が混入こんにゅうしていると考えるのが自然か。つまりそのもと――食料庫の食材に何かがある……」


 ウォルターは何かを考えているようだった。


「実はな、僕は食事を非常に研究しているのだ」

「えっ? それは初耳ですね」

騎士きし団員時代は体作りに気を使っていた。力を出すときに力が出ないといけない。そういうときに食事がもっとも重要なのだ。とにかく食料庫を見よう。――アンナ、君は食材に毒がないか見ることができるか?」

「えっ? しょ、食材に毒がないか……見る?」


 私は戸惑とまどった。


 人間に毒があるかることはできるが、食料に毒があるか調べるなんてしたことがない。


 そんなことができるのだろうか?


 ◇ ◇ ◇


 ――食料庫は、村外れの商店街の奥にあった。


 私はウォルター、オールデン村長、そして炭鉱たんこう近くの国王の家から戻ってきたレギーナさんと一緒に食料庫に入った。


 さて、食料庫の中だが――。


 多くはないが、二週間分の食料、食材が置かれている。


「ええっと……。人参、ジャガイモ、米、キャベツ、砂糖、塩、バター、そして何らかの肉がありますね」


 私は食材を一つずつ確認した。


 とくにジャガイモとキャベツ、塩は袋に山りになっており、二週間であれば十分な量だろう。


「野菜や調味料は、足りなくなったら近くの街で買い足す。肉はイノシシ肉だな。旅人に分けてもらう」


 オールデン村長は眉をひそめながら私に聞いた。


「ど、どうだ? 食材に毒はありそうか?」

「ええっと……」


 私は目をらした。


 塩、砂糖、野菜などの食材からそれぞれアーダ噴出ふんしゅつしている。

 

 ふむ……。


 食材からは深緑色のアーダが出ていない。


 つまりどの食材にも毒がないことが分かった。


 それにしても――私が食材の毒を調べるのは一応可能であることが分かった。

 

 これはなかなか興味深い発見だ。


「これらの食料の中には毒素はなさそうです」


 私はそう結論を出した。


「ふう、そ、そうなのか」


 オールデン村長は胸をなでおろした。


 ……そうなると村人は、毒をどこから摂取せっしゅしているのか?


 いや、そもそも村人は本当に毒を摂取せっしゅしているのか。


 私は余計な調査をして、村を混乱させているだけなのか?


「うーん……」


 私はちょっと自信がなくなっていた。


「大丈夫だ」


 さっしたウォルターがそう言ってくれた。


「自分を信じろ。アンナはたくさんの人を治癒ちゆしてきたのだろう。今日もこの村に逃げてきたグレンデル国王を治癒ちゆしたそうだな? それが君の力の証明だろう?」

「は、はいっ」


 私はウォルターの言葉を聞き、背筋せすじを伸ばした。


 私は気を取り直してオールデン村長に聞いた。


「これらの食材はどこで手に入れたのでしたっけ?」

「もちろんこの村の畑だよ。別の街で買ったものもあるが」

「そういえば――もっとも重要な食料がありませんね?」


 この世界のもっとも重要な食料といえば……パンだ。


 パンはこの世界でもっとも食べられている食料、食材であり、パンが無ければ一日が始まらないという人もいるほどである。


 私もネストールほどではないが、パンは一日一回食べなければ気がまないほうだ。


「我々の主食であるパン……そしてその原料の小麦粉ですが……それが見当たらないですね」

「うむ、実はたまたま昨日、パンがカビていてな。廃棄はいきしたんだ。よくあることだが」

「ふうん? たまたま?」


 私はオールデン村長をじっと見たが、娘のレギーナさんが言った。


「お父さんの言っていることは本当ですよ。この工業地帯は湿気しっけが多いので、パンがカビることはよくあるのです」

「そうですか。レギーナさんが言うなら信用してもいいかな」


 私が言うと、オールデン村長は怒りだした。


「おい! それってどういう意味だ、まったく」

「失礼しました。ところで、パンはどうやって手に入れるのですか? 手作りですか?」

「いや、それは……」


 オールデン村長は言いにくそうだった。


 おや?


 私はパンに何か秘密がある、と感じていた。

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