第19話 ローバッツ工業地帯に到着

「大丈夫だ。僕に考えがある。このままローバッツ工業地帯に行こう」


 ウォルターはそう言った。


 私たちは馬車で、南にあるローバッツ工業地帯に行くことになった。


 ◇ ◇ ◇


 馬車はやがてなにも無いれ地に入っていった。


 向こうのほうに大きな山がそびえて見える。


「ローバッツさんだ!」


 パメラは馬のひづめひびく中で、大きな声で言った。


「あそこには有名なローバッツ炭鉱たんこうがあるはずだ。石炭がたくさん取れると聞いたが」


 私たちの馬車は山のふもとにある村に停車した。


「俺、パン屋探してくる」


 ネストールがさっさと馬車の客車から降りた。


 パメラが驚いてネストールに注意した。


「おい、単独行動はひかえろよ」

「腹減った。パン食いたい」


 ネストールはさっさとパンを探しに、村へ探索たんさくしに行ってしまった。


 ――しかし、村といっても何だかどんよりとした雰囲気ふんいきだ。


 人気ひとけもない。


 村の家々も古くち果ててて、薄気味うすきみわるく殺風景さっぷうけいだ。

 

「夜だったら幽霊が出たりして……。あたし、幽霊苦手なんだよなあ」


 パメラがふるえながらそう言ったとき――。


「なんだ、お前たちは!」


 ヤギのような長いアゴひげをしたせた老人が、村の家の前で私たちをじっと見て言った。


 彼は左手で杖をついて右足をひきずっていた。


「……お前ら、グレンデル城のヤツらか?」


 グレンデル城?


 ああそうか。


 この村や鉱山こうざんは、イザベラ女王が買い取ったと有名だ。


 しかしその後、この鉱山こうざん――炭鉱たんこうはさびれてしまったといううわさがあったようだが……。


「やっぱりそうか! お前ら、二度と来るんじゃねえ!」


 老人は怒りを込めて声を上げた。


 右手には農作業で使うかまを持っており、それをちょっと振り回した。


 あ、危ない……!


「イザベラ女王がここを買い取ってから、ここは病人ばかりになった! 何かがおかしい。しかも、グレンデル城のヤツらは病人を見てみぬふりだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください。わ、私は聖女アンナ。他の四人は私の友人たちです。あなたは?」

「俺はこの村の村長、カルドス・オールデンだ! お前ら、グレンデル城の役人か何かだろう?」


 私はこのオールデン村長が何か誤解ごかいをしていると思った。


「私たちは――」


 私がそう言いかけたとき、荒れ地の向こうのほうから人影が村に向かってくるのが見えた。


 その数、三……四……いや、十人?


 いや、人ではない!


「ああっ!」

 

 オールデン村長は声を上げた。


「魔物だ! ヤツらが来た。あいつら週に一度はここをらしに来るんだ! くそ、おーい! 魔物が来たぞ!」


 オールデン村長の声が周囲にひびいたとき、村の家々から人々がすぐに出てきた。


 この村の若者たちだ。


 八名いる。


 しかし……腕には包帯を巻き体もせ細り、とても戦える状態ではないように思える。


 もちろんオールデン村長は老人だし杖をついているので、戦えないだろう。


「来たぞ!」


 ジャッカルが叫んだとき、魔物たちはもう村の入り口にきていた。


 あ、あれは小鬼こおに――ゴブリンの集団だ!


 肌が緑色で二足歩行――小鬼こおに系の魔物だ。


 素早いし手にナイフを持っているので、非常に危険!


「い、行け! お前ら」


 村長の掛け声で、若者たちはゴブリンに飛び掛かっていった。


 若者たちはかまを持っている。


 確かにかまは武器になるが、彼らが手にしているかまは農作業用のもので武器ではない。


 ゴブリンは素早く、ナイフで若者たちの肩をいたり足をったりしてなかなか手強てごわい。


 完全に押されている。


 その理由は若者たちがもともと怪我をしており、体の線が細く体力が弱まっているからだ。

 

「見てられないな。いくぜ!」


 ジャッカルが舌打ちしながらウォルターに言った。


「ああ」

 

 ウォルターは木剣ぼっけんを手にした。


 まず一匹――ウォルターはゴブリンの脇腹を蹴り飛ばした。


 その横から飛びかかっておそってきたゴブリンを、木剣ぼっけんたたき落とした。


 ジャッカルの武器は鉄の八角棒はっかくぼうだ。


 ゴブリンのみぞおちをき、左からおそい掛かってきたゴブリンをなぐり倒した。


 そのとき――!


「キェーッ」


 一匹のゴブリンがナイフを構え、ウォルターに向かって走り込んできた。


 ウォルターは冷静にそれをけ、蹴り足でゴブリンを転ばせた。


 すると今度は後ろからゴブリンがナイフを振り上げ、飛び込んできた。


 しかしウォルターはそれさえも左にけ、そのゴブリンは勝手に岩場に激突げきとつした。


 ゴブリンたちは甲高い声を上げ、目を丸くしてウォルターたちを見やるとすぐに逃げていった。


「ふん」


 ジャッカルは静かに言った。


「たいした運動にはならなかったな」

「いかん、アンナ。村の若者たちをてやれ」


 ウォルターが言った。


 若者たちは地面にうずくまったり、寝転んだりしている。


 若者たち八名のうち四名は、血を流している者がいる。


 彼らはゴブリンのナイフでられたのだ。


 しかしさいわきずは浅く、死人は出なかった……。


「どこかに休める家は無いのですか?」


 私がオールデン村長に聞くと、彼は私たちをジロリと見てから言った。


「……集会所だ。村の東にある」

「とにかく、怪我けがをしている人を皆で運びましょう!」


 私は声を上げた。


 今すぐ処置しょちが必要なのは四人だ。


 彼らをすぐに運ばないと。


「パメラ、治癒ちゆの手伝いをお願い。怪我人のアーダを一緒に見て」


 私がパメラに言うと、パメラは「うん、分かった」と深くうなずいた。


 さすが魔法使い、本当に頼りになる。


「もしかしたら彼ら若者たちの体内から、何か見つかるかもしれないよ。あのマードック警備員の息子、ヘンデル少年のようにね」


 パメラは静かに、神妙しんみょうな顔で言った。


 ヘンデル少年のように……?


 私は嫌な予感がして仕方なかった。


 村の若者たちのせ方は――尋常じんじょうではなかったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る