第15話 女王の祭壇部屋

 私とパメラは急いで不気味な石造りの階段をくだっていった。


 階段を降りると大きな通路があった。


 周囲は薄暗い。


「明るくしよう」


 パメラは言った。


「天使ちゃん、あたしとアンナの周囲を照らして! ――『ルメン』!」


 パメラが唱えると、彼女の左手が光り周囲を明るくらし出した。


 パメラは魔法使い。


 昔、洞窟探索どうくつたんさくをしていたとき、この魔法をよく使っていたらしい。


 これで通路がよく見える。


「あっ、あれ!」


 パメラが声を上げた。


 目の前には鉄の扉があった。


 かぎがかかって開かない。


「どうしようか?」


 私が考えていたとき――私とパメラの肩を、誰かがさわった!


「ふんぎゃあ!」


 パメラが叫んだとき、「俺だよ」と聞き覚えのある声が聞こえた。


 後ろを振り返ると、そこにはネストールが立っていた。


「俺がかぎを開けるよ」

「あ、あんた何してたのよ!」


 姉のパメラがネストールに聞くと、彼はポケットから針金はりがねを出しながら言った。


「パーティー会場でパン食ってた」

「あ、あんたねえ」


 あきれるあね尻目しりめに、ネストールは扉の鍵穴かぎあな針金はりがねを突っ込み始めた。


 この「かぎ開け」は盗賊とうぞくから教わった特殊技能スキルらしい。


 そして一分もしないうちに、鉄の扉は内部からするどい音を立てた。


 私はパメラと顔を見合せた。


「こ、この先にイザベラ女王の祭壇部屋さいだんべやが……!」

「開けるよ」


 ネストールがさっさと扉に手を掛けた。

 

 ついに扉が開かれる――。


 ◇ ◇ ◇


 私たちの入った部屋は、とても広かった。


 その部屋は真っ赤な色で染め上げられていた……。


 ステンドグラス、祭壇さいだん、床、壁――すべでが毒々しい血色ちいろいろどられている。


「お、おい! あれ!」


 パメラは部屋を進みつつ前方を指差した。


 私たちの正面には、一人の真っ赤なドレスを着た女性が立っている……。


 あの女性を――私は知っている!


「イザベラ女王……!」


 私はつぶやいた。


 まさにイザベラ女王その人が、私たちを見てだまって立っている。


 彼女の後ろには大きな祭壇さいだんがあり、赤く染まった人骨、動物の骨やらがたくさん配置されていた。


 部屋の左右には牢屋ろうやがあり、獰猛どうもうけもののようなものが入っていてうごめいている。

 

 魔物だ!


「ここをかぎつけてきたのか。いや――来る予感がしていたぞ、聖女アンナよ」


 イザベラ女王は言った。


 イザベラ女王のすぐ手前には真っ白いベッドがあり、そこに男性が寝かされていた。


 ウォルターだ!


「や、やっぱり、ここにいたのか」


 パメラが額の汗をきながら言った。

 

 ウォルターは眠っているが、足や腕がくさりつながれていた。

 

「ウォルターを返してください!」


 私が叫ぶとイザベラ女王は笑って言った。


「残念だのう。返すわけにはいかんのじゃ」

「なぜです!」

 

 私が聞くとイザベラ女王は静かに言った。


「この男――ウォルター・モートンと悪魔を契約けいやくさせ、私の親衛しんえい隊に配属はいぞくさせる。彼は非常に有能で勇敢ゆうかんな男だ。お前にはわたさぬ」


 そして言った。


「ウォルターならば、親衛しんえい隊の親衛しんえい隊長になろう――。そしてこのグレンデル王国を最強最大の国家とするきっかけとするのだ。私は新しい悪魔国家、グレンデル王国の女王となる!」


 私はハッとした。


 女王親衛しんえい隊は真っ赤なかぶとかぶっていて、顔を見せない集団だ。


「まさか! 女王親衛しんえい隊の正体は全員、あなたが悪魔と契約けいやくさせた人間!」

「その通り! 私自身が悪魔と契約けいやくし、悪魔と契約けいやくする方法を知っているからねえ」


 イザベラ女王は笑いながら言った。


だまって見ているといい、聖女どもよ。ウォルターは悪魔とすぐ契約けいやくできる――」


 女王は右手にナイフを持った。


 ま、まずい!


 女王はベッドの上に寝ている、ウォルターの胸にナイフを振り下ろした!


めよ! 天使たち!」


 私は詠唱えいしょうし魔法を飛ばし、イザベラ女王の右手首をおさえ込んだ。


 彼女のナイフを振り下ろそうとした右腕が、ガクンと止まる。


 ふうっ……あぶなかった……!


「ほほう、魔法か。聖女め」


 私の聖女の魔法が、イザベラ女王の右手首をおさえつけている。


 しかしいつまで持つか……!


「バカな小娘じゃ。ウォルターは悪魔の力を得て新しい人間……いや、魔物に進化できるというのに」


 女王は私をにらみつけた。


 私は近づきながら、魔法を強めた。


 そしてついに私とイザベラ女王は、ウォルターが寝ているベッドをはさむような形で対峙たいじした。


「アンナ、気を付けろ! 女王の呪術じゅじゅつが来る!」


 パメラが叫んだ。


 女王はナイフを右手で持ちつつ、左手を突き出した。


 すると私は急に首が息苦しくなった。


 私は、女王の呪術じゅじゅつで首をめられている!


「ぜ、絶対にウォルターを守る!」


 私はかすれた声で宣言した。


 く、苦しい!


 私の首がきしむ音がする……!


 私は聖女の魔法で女王のナイフをとどめ、女王は呪術じゅじゅつで私の首をめつけている。

 

 膠着こうちゃく状態だ……!


 だが、負けるものかああっ!


「天使よ、力を貸してください!」

「うむっ?」


 私が魔法の力を込めると、イザベラ女王の顔がゆがんだ。


 彼女のナイフを持った右手が震えた。


 私は女王の右腕をしびれさせたのだ。


 女王はナイフを床に落とした!


「――『空気ルフト』!」


 パメラがすきをみて魔法を唱え、イザベラ女王の前に空気を発生させた。


 空気圧の爆発が起こり女王は吹っ飛んだ!


 彼女は祭壇さいだんに背中から突っ込んだのだ。

 

「ネストール!」

 

 パメラが声を上げると、素早くネストールがウォルターの手足のくさりかぎを解いた。


「きっ、貴様ら……! 私の計画を……」


 女王は骨にもれながら声を上げている。


「は、早く起きて、ウォルター!」


 私はベッドの上のウォルターの肩をすった。


 するとウォルターはやっと目を覚ました。


「き、君たちは……」

「ウォルター! 早く逃げましょう」


 私がそう言ったとき、女王は立ち上がった。


 そして何を思ったのか指を鳴らした。


「フフフ……私が手を出すまでもない。やれぃ! 私の手下――」


 一人の男が祭壇さいだん横の扉から出てきた。


 イザベラ女王が声を上げる。


「悪魔兵士ジム・ロークよ!」


 えっ?


 見覚えのある男性の兵士が、私たちの前に立っていた。


「ウォルターさん! グレンデル城の詰所つめしょぬすんできたよ!」


 ネストールは声を上げ、ウォルターに木剣ぼっけんを投げ渡した。


「うむ」


 ウォルターは息をつき木剣ぼっけんを受け取ると、「彼」に向かって構えた。


 その悪魔兵士と呼ばれた男は――私を牢屋ろうやに案内してくれた、あの親切な男性兵士。


 グレンデル王国を追放されたはずのジムだった――。

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