第12話 元騎士団長様をお助けします!②

 ここは宿屋、「光馬亭こうばてい」――。


 私とパメラ、ネストールの三人が、ジャッカルとグレンデル城への侵入しんにゅうについて話し合ったその二日後。

 

 デリック王子の婚約こんやく記念パーティーが始まる四時間前――。


 私たちはウォルターを取り返す作戦を開始することにした。


「……よし、それでいい」

 

 ジャッカルが宿屋にきて、私を見て言った。


「こんな格好で行くの?」


 私は自分の格好を宿屋の姿見鏡すがたみきょうに映した。


 私とパメラはおどり子の格好に着替えていた。


 肌もあらわで、へそも出して結構ずかしい。


 私もパメラも髪を後ろでまとめ、髪型をいつもと違うようにした。


「……俺、この格好嫌だ」


 そう言ったネストールの服装は曲芸師のものだ。


「三人とも、ブツブツ文句言うな。ウォルターの命がかかっているんだからさ」


 ジャッカルは腕組みをして言った。


 私たちの衣装いしょうは、宿屋の隣の服屋に借りたものだ。


 ロッドフォール王国の中央地区、リンドフロムは水商売と娯楽ごらく産業がさかんなので、おどり子や曲芸師の衣装いしょうを貸し出している服屋が多い。


おどり子か曲芸師などに変装へんそうすれば、城の正面から堂々と入れる」


 ジャッカルは私たちを見て真剣な表情で言った。


「なぜならパーティーには、おどり子や曲芸師が多数呼ばれているからだ。それにまぎれていけば、容易よういに城に入り込めるはずだ」

「おへそ……」


 私は姿見鏡すがたみきょうを見てつぶやいた。


 おなか――おへそが丸出しなのがずかしくて仕方なかった。


 世の中の殿方とのがたというのは、このような格好の女性が好きなのだろうか。


「このバカみたいな格好をしただけで、城に入り込めるの?」


 ネストールは自分のへんてこな曲芸師の格好を姿見鏡すがたみきょうで見つつ、顔をしかめながら言った。


「いや、それだけじゃ不完全だ。パーティーの招待券しょうたいけんというものがある。俺は十枚ももらっているから、お前らにやるよ」

招待券しょうたいけんを十枚? 何でデリック王子は、そんなに配っているんだ」


 パメラは眉をひそめてジャッカルに聞くと、彼は答えた。


「デリック王子の人気のなさは半端はんぱじゃない。招待券しょうたいけんを俺たち騎士きし団に手渡し、貴族や王族に配布せよと依頼いらいしてきた。まあ豪華な夕食ができて、おどり子と曲芸師のショーを見られるパーティーだから来て損はないって感じか」


 ジャッカルは壁掛け時計を見た。


「さあグレンデル王国に行こう。俺の紹介だと言えば、ほとんどあやしまれない。だが、顔は知り合いの侍従じじゅう侍女じじょなどに見られないようにしろよ。お前らは顔が割れているからな」


 ◇ ◇ ◇


 私たちはネストールが御者ぎょしゃをしてくれた馬車で国境こっきょうに行き、マードック氏に事情を話し通してもらうことにした。


 やがて二時間かけて、馬車はやっとグレンデル城近くに着いた。


 グレンデル城前の庭園にはすでにたくさんの人々が集まっている。


 デリック王子とジェニファーの婚約こんやく記念パーティーの参加者だ。


 ほとんどが貴族やどこかの王族だと思われるが、平民らしき服装の者もちらほら混ざっていた。


 他にはおどり子、曲芸師、奇術師、占い師、歌手、演奏家などがいる。


「申し訳ありません。パーティー招待券しょうたいけんをご提示ていじください」


 庭園で周囲を見回していると、見回りの若い男性兵士が私たちに声を掛けてきた。


 あわてて招待券しょうたいけん提示ていじする。


おどり子さん、曲芸師さん……? あんたら名前は?」


 若い兵士は私やパメラ、ネストールをうたがうような目で見た。


 まずい――。


 すると……。


「彼女たちは俺の知り合いなんだよ。城の中に入らせてやってくれないか」


 私たちの後ろについてきたジャッカルが言った。


「なんだ? あんた……」


 若い兵士は後ろを振り返り、ジャッカルのほうを見て――。


「あっ、これはジャッカル殿どの! こ、これは失礼しました!」


 彼はあわてて敬礼した。


「こ、このたび騎士きし団長から降格されたということで、私はとても残念に思っております!」

「あ、ああ、まあな。――とにかく彼女たちを通してやれ。仕事で来てるんだから」

「申し訳ありませんでした! まさか皆さん、ジャッカル殿どののお知り合いとは! ではこちらに」


 若い兵士は私たちに対して頭を下げ、城の門の前に案内してくれた。

 

 そして門番に話し、門を開けてくれた。


 時刻じこくはもう夕方の十七時――夕刻ゆうこく過ぎだ。


(やるじゃん、ジャッカル)


 パメラはジャッカルの腕をひじで突っつき、彼に小声でそう言った。


(ゆ、油断するんじゃない。本番はこれからだろ)


 ジャッカルは腕をさすりながら言った。


(何とか中に入れるわね)


 私はパメラに小声で言った。


 さて……ウォルターはどこにるのか。


 地下の牢屋ろうやだろうか?


 ◇ ◇ ◇


「パーティー会場は一階大ホールです。よろしくお願いします」


 さっきの兵士は敬礼をして庭園に戻っていった。


 私たちは安堵あんどの息をつき、大ホール前の廊下に向かった。


「おい」


 ジャッカルは一通り見回りをしてきて、大ホール前の廊下にいる私たちに言った。


「すぐの地下の牢屋ろうやに行って、ウォルターを救いたいところだ。しかし、マックス・ライクという腕っぷしの強い牢屋ろうや番がいる。それに、ヤツは牢屋ろうやかぎを持ち歩いていない」

かぎはまかせてよ」


 ネストールは言った。


「さっきも話したけど、俺は牢屋ろうやの鍵でも何でも開けられるからね」


 ネストールの特技はかぎ開けだ。


 昔、盗賊とうぞくからかぎ開けを教わり、自分の特殊技能スキルにしたらしい。


「うむ。かぎについては頼んだぞ少年。ただな、さっき友人の騎士きし団員に会い、情報を聞いたんだが――」


 ジャッカルは少し考えこみながら言った。


「ウォルターは前回の地下ちかろうにいるとは限らんようだぞ」

「どういうことです?」


 私はジャッカルに聞いた。


「アンナ、あんたは城の左手にある地下一階の牢屋ろうやでウォルターに会ったと思う。しかしどうもその牢屋ろうやにウォルターがいないらしいんだ。俺もさっきの友人の騎士きし団員もウォルターの居場所については、あまり知らされていなくてな……」

「じゃあ、別の場所に幽閉ゆうへいされている可能性も?」

「そうだ。だからウォルターの居場所を誰かから聞き出さなくてはならない」

「おいおい」


 パメラは顔をしかめた。


「ウォルターの居場所を教えてくれる親切なヤツなんているのかよ?」

「いや、一人思い当たる人物がいる。彼女はこの城の侍女じじょでな……。確かジェニファーと仲が良いロザリーという女性で……」


 ジャッカルがそう言ったとき、私たちの後ろから声がした。


「よぉ、おどり子の姉ちゃん。二人とも美人だねえ。俺と遊ばねえか」


 振り返ると、そこにはっぱらっている太った貴族の男が立っていた。


 ネストールはナイフをふところから取り出す仕草を見せた。


「こら、無視すんじゃねえ。姉ちゃん、遊ぼうよ~」


 貴族の男は真っ赤な顔でヘラヘラ笑っている。


 パメラは「ぶんなぐって失神させるか……」とつぶやいているが、騒ぎを起こすわけにはいかない。


 私は「外気ルアーダ」を体に取り込み始めた。


 聖女の魔法を使って――この場を切り抜ける!

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