第5話 ありがとう!
私達は、3対3で夏祭りに行った。みんなで一緒に花火を見た。浴衣は彦麻呂達が用意してくれた。彦麻呂は私達の写真を撮りまくった。私は白い浴衣、千夏は黄色い浴衣、千秋は青い浴衣だった。3組のカップルの2ショット写真も忘れなかった。後で、写真は私達や彦麻呂の兄弟に配ってくれる。
「花火より千春さんの方がキレイだよ」
と言われて照れくさかったのでビンタしておいた。
体育祭で2人3脚をして、不器用な彦麻呂にイラッとしてビンタした。
文化祭でメイド喫茶をやった時に、エロイ目で見てくる彦麻呂にビンタした。だが、メイド姿の写真は何枚も撮られた。文化祭には彦麻呂の兄弟も来てくれた。千夏も千秋も2人だけの空間に入ってしまった。私は他の女子を彦麻呂が見ていたのでビンタした。
「なんでビンタなの?」
「他の子に見とれてたやろ?」
「違うよ、あの子、鼻毛が出てたから気になったんだよ」
「それは大変や、あの子に“鼻毛出てるよ!”って言わなアカンで」
「じゃあ、行ってくるよ」
彦麻呂は、鼻毛の女子にビンタされていた。予想通りで笑ってしまった。女子がいきなり男子から“鼻毛出てますよ!”と行ったらビンタくらいされるだろう。
修学旅行では、彦麻呂が女子の大部屋に侵入してきて私と同じ布団で寝ようとした。私は拒絶したが、クラスメイトは盛り上がって、
「ええやん、ええやん」
と言ったので、私は彦麻呂と一緒の布団で寝なくてはいけなくなった。朝になって先生にバレて、彦麻呂が怒られたのだが、私も一緒に怒られた。ムカついたから、また彦麻呂にビンタしておいた。
それでも、毎日放課後は一緒、休日も一緒にいた。私達は高校3年生の1年間、ずっと一緒にいたのだ。千夏と千秋の方も順調らしい。
そして進路を決める頃、放課後の帰り道で彦麻呂が言った。
「千春さんは、どこの大学に行くの?」
「私は大学には行かへんで。就職や」
「どうして? 成績いいのに」
「大学に行くお金なんて無いもん」
「それなら任せてよ! 学費はウチが払うよ」
「そんなこと頼めるわけないやろ」
「なんで、僕達は家族じゃん、遠慮しなくていいよ」
「家族?」
「うん、千春さんは僕のお嫁さんだからね。僕達は家族だよ。さあ、遠慮せずに同じ大学に行こうよ。僕は千春さんと同じ大学で4年間を過ごしたいんだ」
「そんなこと言われても……」
「迷わないでよ、僕がそうしたいんだから」
「わかった。ほな、お嫁さんとして一生面倒見ろよ!」
私は、照れ隠しにビンタした。
そして挙式。3組合同の結婚式となった。公麻呂が大学を卒業して社会人になったので、その機会に彦麻呂と私、千秋と歌麻呂の結婚式も一緒に行われたのだ。勿論、私や千秋、彦麻呂、歌麻呂は学生結婚だ。
公麻呂23歳。千夏と彦麻呂と私と千秋、20歳、歌麻呂18歳。それぞれに新居も決まっていた。盛大な式、披露宴となった。
「千春さん、ウエディングドレス姿、とてもキレイだよ」
「またHなこと考えてるやろ?」
「うん、それを脱がすときのことを考えると、ワクワクしちゃうよ」
「ワクワクするな!」
ビンタして、焦った。“しまった! 披露宴の最中だったー!”ところが、どつきツッコミがお客様方からウケた。正真正銘の夫婦漫才になってしまった。
勿論、私達も成長している。彦麻呂の頬はもう腫れていない。私が手加減をおぼえたからだ。彦麻呂は相変わらず私のビンタを気にしない。ビンタされるとわかって言っているのだろうか? まあ、美しい記憶として残る、いい結婚式だった。
それから10年以上経って……。
「あ、お兄ちゃん、またHな本を読んでる」
「これは、パパの部屋に置いてあったんだ。Hな本じゃない」
「裸の女の人ばかり写ってる本じゃん」
「これは……芸術だよ。芸術の本を読んでるんだよ」
「そんな本、読むな-!」
妹が兄にビンタした。
「コラコラ、桃花、ビンタはダメって言うたやろ」
「でも、ママもパパにビンタしてるやんか」
「あれは……愛情やねん。私達の年齢やからええねん。桃花にはまだ早い」
「でも、お兄ちゃん、ずっとHな本を読んでるよ」
「清麻呂、読むな-!」
私は息子にビンタした。
「パパやったらええの?」
「パパにも後でビンタや」
「ビンタ、ビンタ!」
「こら、桃花、あんたはまだアカンって言うてるやろ」
「ママがビンタしていいのは、ママが外国人やったから?」
「ママは外国人ちゃうで」
「嘘! 結婚式の写真、ママは金髪やもん」
「あれは……ファッションやねん。あの頃は流行ってたんやで。でも、もう今は流行ってないから、あんたは金髪にしたらアカンで」
「えー! 金髪にしたい」
「アカン、それよりももうすぐご飯やで。パパが帰ってくるから」
「ママ、どうしてパパはママをお姫様抱っこしながら寝室に入るの?」
「それは……ママとパパが仲良しだからよ」
「桃花、あれは夫婦で雰囲気を盛り上げてるんだよ」
「何のために」
「そりゃあ、セッ……」
「言うな!」
パン!
「ママとパパは仲がいいから、お姫様抱っこもしてしまうねん。そんなことよりも晩ご飯やで」
「ただいまー!」
「ほら、パパが帰って来た。手を洗ってきなさい」
「「はーい!」」
「あなた、おかえりなさい」
「千春さん、今日も愛してるよ-!」
「え!」
「……」
「子供の前でキスするな!」
パーーン!
私の家では、何年経ってもビンタの音が鳴り響く。
大阪在住のちょっぴり不良の私と、東京から来たお坊ちゃま! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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