第4話  こんばんは!

 或る日の放課後、また彦麻呂に捕まった。


「さあ、千春さん、一緒に帰ろうね」

「うん……そりゃあ、帰るけど」

「千夏さんは兄貴と、千秋さんは弟と約束があるらしいよ。僕等は今日はどこへ行こうか? どこか行きたいところはある?」


 そこへ、5人組の男が現れた。同じ学年の不良共だ。


「おい、千春、なんでお前がこの東京野郎と親しくしてるねん?」

「別にあんたに関係無いやろ」

「俺をフッておいて、こんな奴を選ぶんか? それが気に入らんねん」

「あんたには関係無いやろ?」

「お前、調子に乗るなよ」


 リーダー格の英次が私の髪を掴んだ。


「何すんねん、離せや!」


 その時、彦麻呂が英次の肩を叩いた。


「なんやねん」


 振り返った英次の鳩尾に彦麻呂の拳がめり込んだ。呻いてくの字に背が曲がる英次。顔の位置が下がる。そこへ彦麻呂の膝蹴り。英次は鼻血を噴き出して倒れた。驚く長身の男の側面に上段蹴り。更に驚く小柄な男にはかかと落とし。彦麻呂は、一瞬にして3人の不良を粉砕した。残った2人は、倒れている3人を引きずりながら退散した。


「千春さん、大丈夫?」

「大丈夫や、あんた、カッコええ所もあるやんか!」


 私はビンタした。


「いいことしたのに、なんでビンタなの?」

「あ、間違えた。いつもの癖で。ごめんなぁ」

「千春さん、ヒドイよ」


 その時、私は自分の気持ちに気付いた。私は彦麻呂に惚れている。



 自分の気持ちを自覚したからといって、態度を変えるのは恥ずかしい。私はしばらく今まで通りどつき漫才を続けていた。


 そんな或る日、彦麻呂がトイレでいない時、千秋が思いがけないことを言った。


「千春、私、昨日は彦麻呂とデートしたから」

「え! どういうことなん?」

「昨日の日曜、彦麻呂とテーマパークに行っただけ。千春がいつも冷たいから、彦麻呂がかわいそうだと思ったんよ」

「ふ、ふーん、別にええんとちゃう? 私は彦麻呂と付き合ってへんし」

「ほんでなぁ、なんかええ雰囲気になったからキスしてしもたわ」


 私は立ち上がった。そこへ彦麻呂が戻って来た。


「ああ、スッキリした。ねえ、千春さん、今日はどこに行く?」


 パシーーーン!


 今回は全力のビンタだった。無防備だった彦麻呂が吹っ飛んだ。私は涙が目に浮かびそうだったので教室から走って出た。そして、辿り着いたのは屋上。なんだろう? 涙が止まらない。


「千春さん、どうしたの?」

「来るなや!」

「千春さん」

「触るなや!」

「なんで泣いてるの? 泣いてるの? 怒ってるの? どうしたの?」

「あんた、昨日千秋とデートしたんやろ?」

「千秋さんと会ってたけど、デートじゃないよ」

「嘘! 千秋とキスしたくせに」

「キスなんてするわけないじゃん。僕が好きなのは千春さんだし、千秋さんには歌麻呂がいるじゃん。ねえ、キスって何のこと? 千秋さんは、千春さんのことをいろいろ教えてくれたんだよ。好きなものとか、嫌いなものとか、後、意外に男性経験が無いとか」


 パン!


「男性経験の話は余計やろ! 私達3人はみんな処女や!」

「後、千春さんも僕のことが好きだとか……聞いたんだけど」

「あんた、千秋とはほんまになんにもなかったん?」

「無いよ。僕の好きなのは千春さんだよ」

「ほな、目を瞑ってや」

「え! 何? また殴るの?」

「目を瞑って歯を食いしばれ!」

「うん」


 私は彦麻呂にキスをした。彦麻呂が愛しくて、ちょっぴり長いキスになった。



「千秋、騙したな-!」

「結果的に良かったやろ? 私に感謝してや。千夏と私の方は順調に愛を育んでいるのに、千春だけ進展が無いから手を貸したんやで」

「うん、千秋、ありがとう」

「もう、素直になれるやろ?」


 そこへ彦麻呂が戻って来た。


「千春さん、さっきのはキスだったの? 僕、初めてだからよくわからなかったよ」

「教室で喋るな-!」


 パーン!


「私のファーストキスが台無しやんか」

「じゃあ、これでどう?」


 彦麻呂が私の唇を唇で塞いだ。ビックリして私は固まってしまった。


「これで、いいよね?」

「いいわけないやろー! ここは教室やないかー! みんな見てるやんかー!」


 パーン! パーン!


「痛い」


 パーン! パーン!


「死ぬ」

「あ、やり過ぎた」



 彦麻呂はダウンした。







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