第3話  こんにちは!

「千春さん、日曜はプールに行きましょう!」

「水着が目当てか!」


 前日のビンタの後の、まだ少し腫れた彦麻呂の頬を、私は気にせずビンタした。


「はい! 水着が目当てです。その後は、我が家で夕食です」

「行くか!」

「それが行くことになるんですよ。千夏さん、千秋さんも一緒ですよ。兄と弟が来るんですよ-!」

「うわー! 千春、行こう、行こう」

「千春、このチャンスを潰したらしばくで」

「なんで、しばかれなアカンねん。わかったわ。行くわ。行ったらええんやろ」

「土曜は水着を買いに行こうよ」

「あ、皆さん、水着は兄と弟からのリクエストでビキニじゃないとダメです」

「えー! 仕方ない、期待に応えようか」

「僕もついていきましょうか?」

「来るな!」


 またビンタ。


「おおおお! またビンタ」

「あんた、こんだけビンタされてるのに懲りへんなぁ」

「ビンタは愛情表現だと思っていますので」

「愛情表現ちゃうわ!」


 またビンタをする私だった。



「うわー! 来てしもた……」


 プールに入場してからの待ち合わせ、私達は少し早く着いてしまった。


「千春、もっと楽しもうや」

「そうやで、千夏の言う通りやで」

「あんたら、気楽でええなぁ」

「だって、玉の輿に乗るチャンスやで」

「あいつの兄貴と弟やで。絶対に変態やで」

「でも、彦麻呂君イケメンやから、お兄さんも弟さんもイケメンやと思うで」

「彦麻呂がイケメン?」

「イケメンやんか、千春、そんなことにも気付いてなかったん?」

「そうかぁ、確かに言われてみれば……ちょっと顔が腫れてるけど」

「顔が腫れてるのは千春がビンタするからやろ」

「あ、来た!」


 イケメンが3人やって来た。まず、身長が180センチくらいで筋肉質な色黒イケメン。そして、身長が170センチくらいの色白年下筋肉質イケメン。最後に身長175センチくらいの筋肉質イケメン……と思ったら彦麻呂だった。


「千夏さん、兄の公麻呂です」

「は……」


 見つめ合う2人。私は、人が恋に落ちる瞬間を初めて見た。千夏は公麻呂に恋をした。そして公麻呂も、多分、恋に落ちたのだと思う。


「はじめまして、公麻呂です。大学の3年生です」

「はじめまして、小島千夏です。よろしくお願いします」


「千秋さん、弟の歌麻呂です」

「は……」


 私は、人が恋に落ちる瞬間をまた見てしまった。


「歌麻呂です。高1ですけど、よろしくお願いします」

「羽田千秋です。よろしくね」


「彦麻呂です。千春さん、よろしくお願いします」

「あんたはええねん!」


 とりあえずビンタ。頬が腫れているからちょっと優しく叩いた。


「ほんで、なんで敬語やねん」

「いやぁ、今日は僕が仕切りますので、司会進行らしく敬語を使おうと」


「さあ、皆さん、水着姿を披露してください」

「うるさいわ、見せたらええんやろ!」


 私達は羽織っていたバスタオルを取った。私はピンクのビキニ、千夏は黄色いビキニ、千秋は白のビキニだった。男性陣に拍手された。何の拍手なんだ?


「いやぁ、皆さんやっぱりスタイルがいいですねー! で、ここからは3組に別れますよー! 千夏さんと兄貴、千秋さんと歌麻呂、僕と千春さんの3組です!」

「うわー! 予想した通りや-!」

「千春さん、まずはスライダーへ。滑りに行きましょう!」

「わかった、わかったから引っ張るな」


「千春さん、滑りますよ-!」

「お前、くっつくなー! 乳揉むな-!」

「はい、着水!」

「ずっと私の胸揉んでたやろ!」


 パンパンパンパン!


「うん、揉んだ。何故なら揉みたいから」

「アホかー! そんなんで女を口説けるわけないやろー! ムードが無いねん!」


 頬が腫れていたので頭を叩くことにした。


 それから、プールから出るまで、何回彦麻呂の頬と頭を叩いたかわからない。



 水着を脱ぐと、この前買ってもらったドレスに着替えた。そのまま彦麻呂の家へ。そこは、街でも有名だった館だった。しばらく誰も住んでいなかったので、彦麻呂一家が引っ越して来たのだ。


 私達は、大食堂に案内された。金閣寺父と母の登場だった。私達は緊張した。


「父さん、母さん、千春さん、千夏さん、千秋さんだよ」

「小島千夏です」

「羽田千秋です」

「佐倉千春です」

「まあまあ、美人揃いね。あなた達、兄弟揃って面食いなのね」

「3人とも、気楽にしてください」

「でも……私達は庶民ですから」

「ほほほ、心配しないで、私も庶民だったから。だけどね、お父さんにプロポーズされて結婚したのよ。ほら、少しは気楽になったでしょう」

「そうだったんですか」

「ウチは家柄とか気にしないの。本人が良ければそれでいいのよ」

「彦麻呂、プールは楽しかったか?」

「うん、千春さんの胸を揉めたから」

「親に言うな!」


 思わずビンタしてしまった。私は、“やってしまった”と思った。


「ほほほ、彦麻呂と千春さんは、私とお父さんの若い頃にそっくりね。私も、よくお父さんに往復ビンタを喰らわせたわ」

「すみません、つい、手が出てしまいました」

「大丈夫、ビンタは愛情よ。そうでしょう? ほほほ」


 どうやらこの家はビンタOKらしい。助かった。ビンタOKってどんな家族やねん? でも、私の彦麻呂へのビンタは愛情なのだろうか? 私は彦麻呂のことをどう思っているのだろう? 私は少し考え込んでしまった。


「お母さんにはわかるわ、この3組なら結婚まで続くわ。今日はお祝いね」



 それから、公麻呂が千夏を褒め、歌麻呂が千秋を褒め、彦麻呂に私がビンタしまくった。終わってみれば、楽しい食事だった。素の私を受け入れてくれる彦麻呂の両親には感謝した。







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