第10話 私の番
「お疲れ様!めちゃくちゃすごかったよ!!」
「ふふ、ありがとうレイ」
パフォーマンスを終えて帰って来たセレスに私は労いと称賛の言葉を贈る。あんな大勢の前で魔法を披露するのはかなりの精神力を使うのか、セレスはとても疲れた様子でへらりと笑う。
「やっぱりセレスの魔法は綺麗だね、思わず見とれちゃったよ。いやぁ友人として誇らしいね」
「そんな余裕こいて……レイもこの後すぐでしょ?」
「うん、そうだよ」
実はこうしてセレスのパフォーマンスを見ているが私の出番は次の次という所まで差し迫っている。普通の生徒であれば控室に行って自分の演技の最終確認をしたり、来たる出番に向けて精神を整えたりするのだが、私は何が何でもセレスの晴れ舞台を見たいと思いこうして観客席に残っている。
「ほーら、急いで控室に行きなさい。スタッフの人を困らせちゃ駄目」
「えへへ……ごめんなさーい」
呆れたように私を急かすセレスに私は素直に従う。
「それじゃあ頑張ってねレイ、応援してるわ」
「うん、ありがとうセレス!最高のパフォーマンスを見せれるように頑張るね!!」
セレスの応援を受けた私は急いで控室へと向かう。もう既に前の人が舞台へと上がっているため、もう数分もすれば自分の番が来てしまう。余裕で間に合うだろうと思っていたがこれはかなり急がないといけないかもしれない……ぜ、全力ダッシュだ!!
「ぜぇ……ぜぇ……つ、次に出るレイです……」
「……レイさんですね、それではこちらにお願いします」
何とか、ほんっとうにギリギリで間に合った私は魔法大会のスタッフさんに鋭い視線を送られる。初出場でこの遅刻は前代未聞だろう、本当にごめんなさい。
時間ギリギリに来たせいか控室ではなく、舞台袖へと直接案内され、ここでアナウンスがあったらまっ直ぐ進むように指示をされる。もう既に歓声が聞こえていることから後1分もしないうちに私も大勢の観客の前に立っているだろう。緊張とワクワクが止まらない、体は震えているのに自然と笑顔になってくる。
「それでは前へお進みください」
スタッフさんの指示に従い私はゆっくりと前へ進んでいく。逆光が眩しい、その眩しさに耐えながら前へ進み続ける。
私は息を呑んだ。さっきまで見ていたはずの舞台なのに、上から見たときとでは比べ物にならないほどの圧力と臨場感が身体を襲う。この舞台でミス一つなく魔法を使うとか皆すごいなぁ……。
「さぁお次はまたまた1年生の登場だ!!」
司会進行の声を聞き、会場がざわめく。期待の声が聞こえれば、同情の声も聞こえる。おそらくセレスのおかげで私に期待してくれて、セレスのせいで私に同情しているのだろう。
「葬儀屋というこの場にはあまり似つかわしくない二つ名を冠する少女。彼女はこの舞台で一体どんな番狂わせを披露してくれるのか!?エントリーNo.34レイ!!!」
会場がさらにざわつきを見せる。「葬儀屋」というこの場にはあまりにも似つかわしくない二つ名を聞いた人達が困惑の声を上げる。そしてその声は私を応援する歓声へと変化することは無く、私に同情する声や私に失望したかのような声を上げる人達が続出する。中にはここがチャンスだと言わんばかりにお手洗いに行こうとする人すら現れた。
私は大きく息を吸い、そして吐く。
「レイはどうして火属性魔法にこだわるの?」
今朝のセレスの言葉が蘇る。なぜ、何故私がこんなにも火属性魔法にこだわるのか?その理由は小さい時から変わらない。
「火が好きだから!そして──────」
今日ここで私が見せる魔法で教えてあげるんだ。火は怖い物じゃない。火は誰かを傷つけるものじゃない。火は綺麗なものなんだと。火は人を魅了するものなのだと。
「皆に火の素晴らしさを教えるためだよ」
私の舞台が幕を開く。
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