第7話 懐かしい

 魔法大会への出場が決まり、私はワクワクが止まらなかった。セレスやシャル先生が言うにはかなりの規模の大会らしく、当日は学校の外部からも人が見に来るとのこと。大会というよりもはや一種のお祭りと言った方が正しいのかもしれない。


 生まれて初めて大勢の前で魔法を披露する。そう考えると怖いという感情が襲い掛かって来るが、それ以上に楽しみが勝つため私の口角は常に上がりっぱなしだ。


 これでようやく葬儀屋とかいう物騒な二つ名とはおさらばできる!ふっふっふ、魔法大会で優勝して可愛くて綺麗な二つ名に変えてやるぞ~!


「とは意気込んだものの……全くと言って良いほどアイデアが湧かない……」


 十数分もの間ああでもないこうでもないと頭を悩ませるが、結局何の成果も得られずただ空をぼーっと眺めていただけになってしまった。あぁ……空って綺麗だなぁ……。


 魔法の美しさを披露するコンテスト、今までの人生で大道芸のような魔法を使ったことが無いのでどういう風なパフォーマンスをすれば高得点を取れるか全く検討に着かない。というより──────


 火ってそもそもが綺麗だからそれ以上どうやって伝えたら良いか分からない!!


 そう、火属性魔法でパフォーマンスをするも何も元々が綺麗なのでこれ以上どうやってアレンジをすればいいのか分からないのである。


 大きい炎を出してみる?いやそれじゃあ工夫が足りなさすぎると思うし……じゃあ炎を体に纏わせてみる?いや、それじゃあ綺麗どころか皆を驚かせるだけになっちゃうし……。


「むむむむむ……だーめだ!全く思いつかない!!」


 全身から力を抜き、ぐでーっとその場に倒れこむ。以前セレスに教えてくれたこの場所はとても寝心地が良い。程よく木々が直射日光を避けてくれるし、ふかふかとした芝生が身体をしっかりと支えてくれる。そして肌をくすぐる生暖かい風が段々と眠気を誘ってくる。お昼寝をするには百点満点の場所と言っても差し支えない程心地よい空間が広がっていた。


「ふわぁ……眠くなってきた……ちょっとだけ……寝……よ……」


 程よく高くなった体温と重くなった瞼が私を優しく夢の世界へと誘う。甘く、優しい誘惑に逆らう力を持たない私はそのまますぅっと意識を手放した。








「勇者は王様から貰った聖剣で鱗を切り裂き、大賢者から教わった火の魔法で悪いドラゴンを丸焼きにしたのです」


 懐かしい記憶だ。私が小さい頃、お母さんに言い伝えを聞かせて貰っていたころの記憶。


 私の小さい頃はとてもやんちゃな女の子だった。何か気になるものがあればすぐに触り、気になる場所があれば何度も駄々をこねて連れて行ってもらったり。気になるものがあればどうしてそうなるのかと気が済むまで質問を繰り返した。


「お母さん、どうして勇者はドラゴンを丸焼きにしたの?火は皆の生活を便利にするための物でしょ?」


「便利なんて難しい言葉よく知ってるわね」


「この前おばあちゃんに教えてもらったの!火は皆の生活を支えてくれるすごいものなんだって!」


 小さい頃から私は火というものに魅了されていた。……いや、物心がついた時からと言った方が正しいかもしれない。初めて火という物を見た時の美しさと感動は今でも鮮明に覚えている。そこに命があるように揺れる鮮やかな赤い光が、薪というご飯を食べて嬉しそうに踊る赤い生き物が綺麗で綺麗で仕方が無かった。


 だからこそ私にとって勇者の行動が不思議でしょうがなかった。剣で戦うのは分かる。何故なら自分の身を守るための、敵を倒すための道具だからだ。でもなんで火で敵を燃やす必要があるのだろうか?火は生活を豊かにするための立派な道具であるのだから、ドラゴンを倒すために使う物ではないと当時の私はそう思っていた。


「レイ、火はね?生活を支える道具であるけど、魔獣を倒すための武器としても皆の力になってるの」


「……むぅ」


「あら?なんだか不機嫌そうね、一体どうしたの?」


「魔獣を倒すために火が使われるの……なんか嫌だ……」


 自分の好きな物が何かを傷つけるために使われているのが嫌だった。それが人間に害を成す魔獣が攻撃対象だったとしても私はとても不快な気持ちになった。


「ふふ、レイは優しい子なのね。でもみんなは火は便利なものだって思っていると同時に火を怖がっているのよ」


「……こんなに綺麗で可愛いのに」


 お母さんの言葉を聞いて私のへそはさらに曲がる。多分この時の私は一目見ただけで分かるほどに顔をむすっとさせていただろう。


「ふふ、じゃあレイがみんなに教えてあげないといけないね?」


「私が……?」


「そう、火はこんなにも綺麗な物なんだって。誰かを傷つけたり、魔獣を倒すためじゃなくて皆が喜んでくれる使い方をしなくちゃだめだって」


「……うん!私が皆に教えてあげる!!」


 あの言葉はお母さんの本心ではなくただ子供をあやすためだけの言葉だったのかもしれない。それでもお母さんの言葉は幼かった私の心に優しく暖かな灯をもたらしてくれたのだ。


「じゃあ魔法のお勉強頑張らないと……ってあら、そろそろ時間みたいね」


「……?どうしたのお母さん」


「レイ、頑張ってね。私はいつでもあなたのことを応援してるわ」


 私の目の前の光景が蜃気楼のように消えていく。温かかった時間が、私のことを包み込むような笑顔を向けていたお母さんが煙の様にどこかへいなくなっていく。


「お母さん!」


「……レイ、私はあなたのお母さんじゃないわよ」


「……へ?」


 手を伸ばした先に居たのは腰に手を当て、呆れた顔をしているセレスだった。


 夢……か……。


「授業が始まるのに帰ってこないと思ったら……まさかぐっすり寝てるとはね」


「ははは、いやぁ気持ち良すぎてつい……」


 恥ずかしいところを見られてしまったなと私はカリカリと頬を掻く。見られたのがセレスで良かったと言うべきか、それでも恥ずかしいという感情は残り段々と顔周りの熱が上昇していくのを感じる。


「ほら、早くしないと授業に遅刻するわよ?」


「え、もうそんな時間なの?」


「ええ、今から行かないと遅刻しちゃうかなりギリギリの時間よ」


「やばいじゃん!」


「だからこうやって起こしに来てあげたのよ。感謝してよね?」


「本当にありがとうセレス!ほっぺにチューとかどう?」


「ほっ!?い、いらないわよ別に!」


 私の言葉を聞いたセレスは顔を赤らめ、必要ないと声を荒げる。なんと初心で可愛い生き物なのだろうか。


「でもありがとうねセレス」


「どういたしまして……それと冗談はやめてよね」


「えぇ?でもびっくりしてるセレス可愛かったよ?」


「っ!?ま、またそういう事言って……」


 私とセレスは教室へ向かって歩き出す。


「ねぇレイ、コンテストでどんなことをするかは決まった?」


「……うん、さっき決まったよ」


 コンテストでどんな魔法を披露するか、どうすれば火の魅力を皆に教えることが出来るのか。懐かしいあの頃の記憶が、暖かかったあの夢がどうすればいいのかを教えてくれた気がする。


「すっごい魔法を見せるから楽しみにしてて、セレス」


「楽しみにしてるわ。でも私も負けるつもりはないわよ?」


「もちろんだよ、お互いに良い魔法を皆に見せようね!」


「ふふ、そうね」

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