第3話 綺麗だね
「歯向かったことを必ず後悔させてやる!アースピラー!!」
アースピラー、地面から柱を出現させる土属性魔法だ。基本中の基本の魔法ではあるが使い勝手が良く、さらには応用もかなり効くため非常に実用的な魔法の一つである。
私はその場からぴょんと跳びながら離れる。すると私のいたところから角材のような細い土の柱がボコンと生える。普通であれば槍の様に先端を尖らせたりするのだが、今回は命のやり取りではないためしっかりと配慮しているのだろう。生意気なのにそこら辺はきっちりとするんだなぁ。
「ふんっ!防戦一方だな!!」
次から次へと生えてくる土の柱に私はぴょんぴょんと跳ねて回避していく。無属性魔法の身体強化が無かったら今頃土の柱によるアッパーを喰らって大変なことになっていただろう。
へぇ……口だけじゃなくて割と魔法使えるんだなぁ……。
私は柱を避けながらそんなことを考えていた。アースピラーは応用の効く魔法だ。例えばザルドがやっているように最小限の魔力で細い柱を何本も出し、攻撃しながら相手の足場を奪うという厄介な作戦を取ることも出来れば、たくさんの魔力を込めて家を丸ごと吹き飛ばせるような大きな柱を出現させることもできる。
ザルドは自分の魔力ではそこそこの大きさの柱を数本出したら終わりだと言う事を理解しているのだろう。こうして細い柱で確実に私を仕留めに来ている。あんな生意気な態度を取ってなかったら素直に称賛できてたのになぁ……。
「ちょこまかと……!アースピラー!!」
全く攻撃が当たらないことにイライラし始めたのか、ザルドは先ほどよりも速い速度で柱を生み出してくる。が、私は先ほどと何も変わらないと言った感じでぴょんぴょんと避け続ける。
まぁ多少は面白い魔法だったけどそろそろ終わりにしてあげても良いかな?
私は柱を蹴りつけ、上空に高く飛び上がる。ザルドや、この試合を見ているほとんどの人間は私の行動は隙だらけで自ら負けに行ったと思っているだろう。
「やはり平民には考える頭はないみたいだな!これでおしまいだ、アースピラー!!」
勝ったと確信したのだろうか、ニヤリと顔を歪ませたザルドは私に向かってアースピラーを放つ。
「……なっ!?避けただと!?」
しかしすさまじい勢いで迫る土の柱は私を捉えることはなかった。柱がぶつかる直前に風魔法を使い体を横にずらすことで柱を回避したのだ。
「ふふふ、ほんの少し楽しませてくれたお礼に良いものを見せてあげる……ファイヤボール」
私はニコニコと笑みを浮かべながら呟く。すると私の目の前に人間の体を3つは余裕で飲み込んでしまうほど大きな火球が生まれる。続け様に軽く杖を振るうと、メラメラと燃え盛る火の塊はザルドの頭上目掛けてどんどん落下していく。まるで太陽が自分に落ちてきている感覚と恐怖を今頃ザルドは味わっているだろう。
「う、うわああああああ!!!!」
「危ない!!!」
火の玉が迫り恐怖の色に染め上げられたザルドはその場に尻もちをつき、顔を腕で覆う。先生はこのままではザルドが死ぬと判断したのか慌てた様子で杖を火の玉へ向け、魔法を放とうとする。が、しかし火の玉はぶつかる直前、ザルドの周りを囲む炎の円を描くよう放射状に広がった。
「炎の檻の完成!いやぁ綺麗に円を描けたなぁ……我ながら完成度が高いねぇ。うーん100点……いや120点かな!!」
炎の檻がザルドを捕らえる。魔法を放とうとしていた先生やこの戦いを見ていた生徒たちはまさかの結末にぽかーんとしているが、そんなことなど気にせずザルドの周りで輝いている炎に私はうっとりとした表情を浮かべる。我が子はなんて美しいんだろう……誰かこの炎への讃美歌を書いてくれる人はいないかなぁ?
「それにしても……私がルールを破ってザルドを殺すわけないのに……私ってしんなに信用ないのかなぁ?」
風魔法を使い、ゆっくりと降下していた私は頬を膨らませながら地面へと着地する。そして青ざめた表情を浮かべているザルドへとゆっくり近づく。
「ひ、ひぃ!?」
「降参する?しないならどうなるか……もう分かるよね?」
「ま、参った!参りました!!だからどうか……どうか命だけは!!!」
ふふふ、いい気味だ。ねぇねぇ今どんな気持ち?あんなに息巻いてたのに無様な姿を晒しちゃって今どんな気持ち?と煽りたくなったが、煽ったら多分私の評判がすこぶる下がってしまうため、特に何も言うことなく彼を囲んでいた火を消してあげることにした。
「せんせー!参ったそうでーす!!……ってあれ?先生?」
ぽかんと現場を見つめている先生にザルドが降参したことを伝えるも聞こえていないのか、あるいは聞こえているけど無視しているのかピクリとも反応がない。よく周りを見ていると式典でも行われるのかというくらいにシーンとしていて、先生と同じように私とザルドをぼーっと眺めていた。
「えーっと……あのぉ……終わったんですけどぉ……?」
全員から視線を集めていることと、この沈黙に気まずさを感じた私は頬を掻きながら再度試合が終わったという報告をする。
「へ、あ、しょ、勝者レイ!!」
数テンポ遅れて先生が勝敗のジャッジを下す。普通であればここで拍手が起こってもおかしくはないのだが全くと言って良いほど拍手は起こらず、どよめきと私に対してドン引きと言った視線が送られるだけだった。あれ……私勝ったんだよね?
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