第2話 これだから貴族は

 私はセレスを連れてウッキウッキで訓練場までやって来た。私はこの学校の授業の中で1番実習の授業が好きだ。何故なら私の魔法を思う存分に試すことが出来るし、何より──────


 火属性魔法を誰にも咎められずに使うことが出来るから!!


「ふーんふっふふーん」


「相変わらず実習の時になるとご機嫌ね、レイは」


「だって心置きなく火を愛でることが出来るからね!もう今からワクワクが止まらないよ!」


 もう既に私の心の火はメラメラと燃え盛っている!早く、早く私に火属性魔法を使わせてちょうだい!!


 魔法には属性というものがあり、大体は火、水、土、風、無の基本5属性と光、闇、氷、雷と言った特殊属性という区分分けがなされている。大体の人は1〜3属性に適正があり、その中の一つを伸ばしていくというスタイルを取っている。


 優秀な人……例えばセレスなんかは基本属性は全て使えてその中でも水属性が1番得意と言ったように基本属性を全て使えるという人も少なからずいる。


 特殊属性というのは文字通り特殊であり、制御するのが難しいとか、そもそも使える人が少ないとか何かしら使い勝手が悪かったりする。そのため特殊属性が使えるだけで一目置かれることもざらにあるらしい。


 あ、ちなみに私は基本属性はもちろんのこと特殊属性もいくつか扱えます。なんたって私は優秀ですからね!!


「ふん、今日も喧しい女だな」


「……げ、出た」


「出たとはなんだ!!」


「はぁ、お互い様でしょ?そっちも人のことを喧しいって言ったんだから」


 私のことを喧しいと言った男子へと目を向ける。この茶髪の男はザルド、事あるごとに私に難癖をつけてくるクラスに1人は必ずいる厄介な奴である。ちなみに絡んでくる理由は、平民である私が貴族である自分を差し置いて優秀な成績を収めていることに納得できないからだとセレスから聞いた。こちらとしては厄介極まりない。


 というかセレスが珍しいだけで大抵の貴族生徒は私のことを良く思っていないらしい。私に絡んでくる前に魔法の練習をした方が良いと思うのになぁ……と思っているがそれを口にすると面倒なことになるからと前セレスに言われたため黙っておくことにする。


「それで何の用?特に用がないなら話しかけてこないで欲しいんだけど?」


「貴族に向かって何だその生意気な態度は!」


「ここじゃ貴族も平民も関係ないって先生が言ってたじゃない。聞こえてなかった……じゃなくて聞いてなかったの?」


「っ!お前……今日という今日は許さないぞ!」


「別に許してもらうつもりは微塵もないんだけど?」


 こちらをきっと睨んでくるザルド、だが私は一歩も引かず彼の目をじっと見つめる。


「こーら」


「った!もう、セレスいきなり叩かないでよ~」 


 10分ぶり二度目、私の後頭部に衝撃が走る。私は頭を優しくさすりながらセレスへとジト目を向ける。


「あんまり真に受けないの、どうせまともなことなんて言ってこないんだから」


「セレス、いくら君であっても私を侮辱するのは許されないぞ?」


「侮辱?私はただ事実を言っただけよ?」


「……貴様ら二人は本当に癪に障る発言しかしないな!!」


「皆集まってるかー?授業始めるぞー?」


 ザルドの表情がさらに厳しくなったところで先生がやって来る。これ以上口論を続ければ評価が下がると言う事は分かっているのか、ザルドは舌打ちをしてこの場を離れていった。


「……ザルドって本当に嫌な奴だよね」


 私はザルドの後ろ姿へ向かってべーっと舌を出し、嫌悪感を露わにする。


「彼はプライドが高いから仕方がないわよ」


「貴族の人は皆セレスを見習うべきだよ。セレスもそう思わない?」


「私に聞かれてもちょっと返事に困るわ……でもまぁ変にプライドを張るのはあまり良くないとは思うけどね」


 けれどそうはいかないと言った感じで肩をすくめるセレスに私は「だよねぇ」と返して授業に集中することにした。プライドが高いのはどうでもいいんだけどこっちに絡んでくるのはやめて欲しいよねぇ……。






「今日こそ貴様のことを叩き潰してやるぞ平民が!」


 ……こんな風にね?


 実習の時間が始まり、今日は実戦形式で魔法の訓練をした後に各自で魔法の練習を行うというプログラムが先生から伝えられた。


「セレス、一緒にやろ?」


「ええ、もちろ──────」


「おい平民」


 ペアを作れという指示が出た次に私はペアを組まないかと提案し、セレスが二つ返事で了承してくれそうだった丁度その時、ザルドがこちらへと歩み寄ってきた。


「……何?」


「俺とペアを組め。調子に乗っている貴様の鼻をへし折ってやる」


「あ、私セレスとペア組むから他当たってちょうだい。ほらいこ?セレス」


「ふん、負けるのが怖いのか平民?入試の時にずるをしてトップになったのがばれてしまうからか?それならそうと言ってくれれば配慮してやらんこともないぞ?」


 ピタリと私の足が止まる。こんな安い挑発に乗るのはあまり良くないと頭では分かっている。だがしかし、ここで勝負を受けないという選択肢を取ってはいけないと心が叫んでいた。


「良いよザルド、私があなたのブクブクに膨れ上がったその傲慢さを燃やしてあげる」


「そう言ってられるのも今のうちだぞ……!」


 と、いう訳でザルドと向き合い、互いに杖を向け合っている現在の状況に戻る。


「今謝るなら許してやらんこともないぞ?」


「その言葉そっくりそのまま返すよ、お願いしますレイさん許してくださいって泣きながら謝ったら手加減してあげる」


「っ!……どうやら情けはいらないようだな」


「そんな顔してると老けちゃうよ?」


「貴様は絶対に潰す!!」


 煽ってきたザルドにカウンターを喰らわすと彼は面白いくらいに顔を強張らせる。人を煽るのだから煽られる覚悟を持ってほしいものだね。これだから貴族は……。


「二人共準備は良いかい?さっきも言ったけど死に至らしめるような魔法の使用は禁止、参ったと言わせるか戦闘の続行が不可能にさせた方の勝ちだ。それでは……始め!!」

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