炎の輝きに魅せられて!

ちは

第1話 二度もぶった!!

バチッ……パチパチッ……!!


 高いとも低いとも言えない心地の良い音が鳴り響く。視界に映ったのは見慣れた光景だった。木のテーブルや椅子、そして暖炉と言った生活するのに必要最低限のものしかないとても殺風景な場所だ。


 ここは私の家……?


「レイ、お帰りなさい。もう少しでご飯できるからゆっくりしてて」


「ああうん、ありがとうお母さん」


 疑問が私の脳をよぎるとほぼ同時に後ろから声がかかる。振り返るとそこには慈愛に満ちた表情でこちらを見つめるお母さんの姿があった。


 あれ?私帰省してたんだっけ?……まぁ細かいことはどうでもいっか。


 違和感は残ったが私は深く考えず、吸い寄せられるように暖炉の方へと向かった。


「……綺麗だなぁ」


 私はその場にしゃがみ込み、美しく輝く赤い光に恍惚とした表情を浮かべる。ゆらゆらとした不規則な動き、見るものを魅了する紅の輝き、そして体の芯から温めてくれる熱に私はまるで恋に落ちたかのような感覚を覚える。


「なんて綺麗なんだろう……。このフォルム、暖かさに色!このまま一生この炎を眺めてたいなぁ…くふふふ」 


 私の口角が凄まじい角度をつけて上がり、それに比例して私の目尻は優しそうなおばあちゃんのように下がっていく。


「元気にしてたかい暖炉ちゃん?私は君のことが恋しくて恋しくてしょうがなかったよ」


 頬擦りをしたい衝動が溢れてきたが、流石に火傷どころの話じゃなくなってくるので、昂る気持ちをぐっと堪えて炎を楽しむことにした。


 バチッ!


「はぁ……いい音。耳が天国ってこういうことを言うんだぁ。なんだか眠くなってきちゃったなぁ」


 私は床に寝転び、重くなってきた瞼に逆らうことなく目を閉じる。固い床の感触が体全体に伝わる。寝心地が良いと言えば嘘になるが、今の私にとってここはベッドの上と同等、いやそれ以上の心地よさを感じていた。


「あぁ……この感じ!気持ち良すぎるぅ〜」


 暖炉に近いからか、床はとても暖かく寝るには最適な温度になっていた。


 この暖かい床に加えて、暖炉から伝わる熱……こんなの耐え切れるはずがないよ。


 熱を当てられた氷のようにでろ〜んと溶けていく。手足に全く力が入らない……けどこの心地よさが最高なんだよね。


「懐かしいなぁ……昔もこうしてよくとろけてたなぁ……」


 あ、本格的に眠くなってきた。お母さんもご飯できるまでゆっくりしててって言ってたし、一眠りするとしましょう。


 私はゴロリと寝返りを打ち、寝落ちしやすいような態勢を取る。もう数分も経てば私の意識はどこか遠くへと飛んでいってしまうだろう。


 これが幸せと言うものか……最高すぎる。


「……イ……レイ……きて!…レイ!」


 あえ?もうご飯できたの?もうちょっとゆっくりしてても良かったのに……というかそんなに大きな声出さなくても起きるのに……あ、でももうちょっとだけ────


「いい加減起きな、さい!!」


「ふべっ!?」


 私の後頭部に衝撃が伝わる。そして少ししてからその衝撃による痛みがジンジンと広がっていく。


 一体何が起こったんだ!と顔を上げてみると目の前には顔をひくつかせ、こわーい顔でこちらを見下ろしている金髪の女性の姿があった。


「えっ……と……おはようございますシャル先生」


「ええ、おはようございますレイさん。……あなたは確かに成績は優秀です。だからといって授業を全く聞かずに20分も熟睡することが許されるわけではないですからね?」


「はい……すみません……いてっ……二度も叩かなくてもいいじゃないですか……」


「これで追加の課題を無しにしてあげたんです。感謝してくださいね」


「ありがとうございます!」


 これじゃあまるで叩かれて喜んでる人みたいだ……でも変に課題が増えるよりもこっちの方が良いね。


「はぁ……何回も起こしてあげたのにレイってば全く起きないんだから」


「いやぁごめんねセレス、太陽の日差しが気持ち良すぎてつい……」


「まったく……しっかりしなさいよね?」


「ごめんごめん」


 呆れたように顔を背けるセレスに私は謝罪の言葉を伝える。こうして怒ってる素振りはしてるけどなんだかんだ私に優しくしてくれるところ可愛いなぁ。愛い奴め~。


 私はレイ。魔法の才能を見初められ、田舎の村からはるばるランプロス魔法学校へとやって来た優秀な女の子である。自分で優秀って言うのはどうなの?と思うかもしれないが学園の歴史から見てもかなり上位に位置するほど優秀なのである。


 入試成績はトップオブトップ、なんと平民出身で入試トップを取るのは学校史上初めての出来事らしい。私ってすごいし可愛いし優しいしすごいのだ。


 そして隣にいる私と同じくらい可愛い女の子はセレス・フリュード。私の赤い髪や瞳とは対照的な青い髪と青い瞳を持つこの少女、なんと伯爵家のご令嬢なのだ。最初はどんな風に話せばいいのかと困っていたが話してみればとても話しやすい子だと分かった。なんかこう……セレスは貴族って感じがしないんだよね……もちろん良い意味でね?


 それにしても──────


 やっぱりセレスは可愛いなぁ……。白く透き通った肌に、宝石を想起させる青くて長い髪。本で読んだことしかないが、まるで海と砂浜みたいだ。私も髪を長くしたらセレスみたいになるのかなぁ……う~ん似合わなさそうだからやっぱりやめておこ。というかセレスまつ毛ながいなぁ。


「今日はこれで終わりです。次回までに復習を済ませておくよう。特にレイさん、いいですね?」


「はーい」


 緩く返事をしたせいか、鋭い視線を返されたがそれ以上何かを言うつもりはないらしくシャル先生はそのまますたすたと教室を後にした。


「レイ、シャル先生じゃなかったら大変なことになってたよ?」


「え~?ちゃんと返事したじゃん!」

 

「態度の話よ……まぁいいわ。そういえばレイ。さっきから私の事見てたけど顔に何かついてたかな?」


「ただ可愛いなぁって見てただけ」


「っ!?そ、そういうことを気安く言わないで!」


「え~?減るもんじゃないしいいじゃ~ん」


「よくない!」


「ごめんごめん」


 頬を膨らませこちらを睨んでくるセレスだが、全くと言って良いほど怖さを感じない。何故なら彼女のこれはただの照れ隠しだからだ。「やっぱりセレスは可愛いなぁ」と口に出したくなったが、これ以上言うとさらに機嫌が悪くなってしまいそうだったので、代わりに謝罪の言葉を伝える。


「まぁいいや。ほらレイ、次は実習の時間だからそろそろ行かないと遅刻しちゃうよ?」


「実習!やったー!!」


 実習という言葉を聞いた私はまるで散歩と聞いた犬の様に興奮を露わにする。


「早く行こうセレス!」


「あ、ちょ…そんなに引っ張らないで!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る