2・3、仮初の日常
2、仮初の日常・上(1/2)
産まれてからどれくらい戦争に晒されてきたのだろう。自分は7、8割だろうか。仮にも「平和」な日本がこうなるだなんて、と周りはそう言う。ただそれが分からない。あまりにも戦争だらけだったから。それは今相対している少女も同じなのだろうか。
戦争の時、男と女の扱いは一番別れる。男は武器を持て、女は支えろ、男に尽くせ、と。それは全世界見ても、どの時代であろうともそこまで変わらない。だから彼女がどうしてあそこにいたか、というのも容易に想像できた。
「ありがとうございます。お兄さんたちが救ってくれて」
「良いんだ。それが仕事だからね」
「でもお兄さん若いですね。おいくつですか?」
「14です」
「え、私と同じだ」
「そっか。……大変だったね」
「ううん。私は死なないだけましだよ」
少女とこう話しているのは理由がある。同じ年代だろう、ということにかこつけて同僚が警備はこっちに任せて3日一緒に過ごしてこい、と言われたからだ。
「それで、病院には行ったかい?」
「うん。とりあえず妊娠じゃなかった。後は性病がどうのこうの、って感じ。それでお兄さんはこれからどうするの?」
「3日間丸々休憩だよ。それに同じ年齢ならお兄さんって変だよ」
少女は少しだけ考えた後
「じゃああなた?」
「なんだそれ。夫婦みたいじゃないか」
「じゃあなろっか? この戦争終わったら」
「それ死亡フラグじゃないか。……仕方ないから『あなた』とかで良いよ」
「ふーん、そう。じゃああなたはセックスとかしたくないの?」
「興味ない。というよりそう簡単に身体売ってたら戦争終わって大変になるからな」
「別に思わないよ。それに自分の意思で売ってるわけじゃないし」
「ああ、そうだったな、ごめん」
「別に気にしなくて良いよ。てか、それタバコ?」
「まあ」
彼女は私が胸ポケットから出したのを見つけてそう言った。
「私にも吸わせてよ」
「ダメだね。こんなの吸ってたら抜け出せなくなる」
「でもあなただって吸ってるじゃない。同じ年齢なんだからさ」
「悪いけど渡せない。君に吸わせるもんじゃないから」
「ケチだなー」
「分かったから。君といるときは吸わない」
私は仕方なくタバコを箱にしまい込んで、彼女とこの小さい街を巡っていた。
ここには娯楽の何もない。あるのはきっとサービス店だけだ。こういう街には何度か入ったことはある。それで共通するのはそのサービス店、つまり売春婦であろう。それに加えて店ではない、なんといえばいいのかラブホ的なスペースがある。一般人は避難しているからここは性産業をメインとして運営されている。まるで昔の米軍の街だ、と先輩は言っていた。やっぱりどこの国の人もいうほど変わりはしないんだな、とは思う。
「それで、結局私とはしないの?」
「しないよ。かわいそう、だなんて言わないけれど君を傷つけたくはない」
「優しいね」
「優しくなんてないさ。本当にそうだったら反戦デモぐらいしてるよ。それに君を救うため、ではなかったけれど突入した時少なくとも1人は殺した。だから将来地獄行きだね」
「昔はどこの国でも兵役あったじゃない。その時代の人がみんな地獄ならそっちがオーバーで回らなくなるね」
「そうか」
私は少しだけ気分が軽くなった。相手の国は職業軍人、それか軍事会社の連中だ。だから概念的にはやる気がなくてこうしている訳ではないのだろう。しかしそれは「一応」だから貧困で仕方なくやっている人もいるにはいるのかもしれない。無論敵であることには変わらないが。
「でもあなたと出会えて良かった。上の年齢の人としかだったからね」
「それで君はどこ出身なの?」
「ここから結構離れた場所。あなたは?」
「沖縄だよ」
「沖縄? 随分遠いね。どうしてここまで?」
「ある程度人を殺しちゃったからね。だからこっちの方の増援に」
「へー。じゃあ合計どれくらい殺したの?」
「分からない。でも敵じゃなかったら死刑確定になるぐらいは」
「それでも、私はあなたのこと人殺しって思わないよ」
「そうか」
私近くの食堂まで彼女を連れて行って、彼女はその前で私を引き止めた。
「私お金ないよ」
「分かってるよ。まあ給料使うこと無いからね」
「じゃあ奢ってもらっても良いの?」
「別に構わねえよ」
彼女は定食を頼み、私はうどんを頼んだ。
「うどん? もっと肉とか食べないの?」
「ここ数か月食ってないんだよ。胃もたれしそうだから」
「そう……私のこと詳しく聞かないの? 何があったかとか」
「別に興味ない。君がどうしてあそこにいたのかは正直簡単に予想できる。だから特別聞くことはしない。君だってわざわざ話すことは苦痛だろ? いかにそういうことが務め、と言われても」
「ううん。配慮させちゃってごめんね」
「良いんだ。どうせ3日だけの関わりだし」
そう話している内に料理を受け取り、数か月ぶりにまず腹を壊さないような食事にありつけた。
「美味しい! 次はいつだろうね。落ち着いて食べれるの」
「別に君は避難できるでしょ?」
「うん。でも親はどこ行ったか分からないし、また売り飛ばされるかもね」
「俺は君のことを守れないから無責任だけど、なんとなく君には元気にしてほしい」
「何? 好きってこと?」
「別にそういう話じゃねえよ。ただ俺みたいな年齢の奴がいるのはかわいそうだからな」
「じゃああなたもじゃない。1人だけ大人になってさ」
彼女はそう言って笑い、食べ終えた頃にはすっかり空が暗くなっていた。当然だ。電気もまともに使えないのだから、夜になったら眠るしかない。それか手回し発電機でどうにかするしかないが、すっかり高級品だ。
今日と明日はこの街のラブホに泊まることにした。こういう場所は1人で女が泊まっていたら襲われることもあるからというのと、どうせ兵士は安く泊まれるというのもある。これも一つの軍需産業なのだ。
受付を済ませるとその廊下には見知った顔が数人、それ相応の好みの女を連れていた。その中だと一般だと逮捕されるような趣味の女もいて流石に背筋が凍りかける。
ダブルベッドの部屋に入るとラブホらしくゴムとかプレイ用の物が置いてあって、防音だけはちゃんとしていることを祈った。
「へー、ここがラブホか」
「悪いな。まともにこういう場所は泊まれないものでな」
「ううん。ある程度は大丈夫だよ」
彼女はそう言ってベッドに飛び込む。
「こっち来る?」
「別に前々から言ってるけど興味ねえよ」
「そっか。……あのさ。少しだけ話しても良い? 気分が少しだけ楽になるから」
「良いよ」
「ごめんね、はけ口にしちゃって」
「構わねえよ。どうせいつ会えるか分からないんだ」
「うん」
私はベッドに腰かけ、彼女はどうしてあの場所にいたか、その顛末をゆっくりと話していった。
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