第6話 危機迫る予感

 仲良くなるにはあだ名からって言うしな


「フッ……我に名前か、面白い……」


 あれ、少し強引だったかな……?あだ名から入るのはモラハラだっただろうか……


「ご、ごめん!そちらが嫌だったら無理にとは──」


「気に入った。いや、感謝いたす我が主よ。我にそのような名誉ある贈り物、誠に恐悦至極に賜る」


 巨体の首を曲げて深く頭を下げた。


 どうやら気に入ってくれたようでよかった。


「羨ましい……私もあだ名が欲しい……」


 なにやら頭上からそのような声が聞こえてきた。俺を抱きかかえながらぶつぶつとボヤいているアリス


「何言ってんだよ、お前にはアリスっていう名前があるだろ?たった三文字からどうやってあだ名を作れって言うんだよ」


 そもそもクロは名前らしい名前がなかったから黒の古代竜種エンシェントドラゴンからとってクロというあだ名をつけたんだ。アリスからとってあだ名を作ろうものなら二文字、果てには一文字になってしまう。


「アリスっていう名前で俺は十分可愛いと思うぞ?実に”アリス”っぽくてピッタリの名前だ」


 名前とその人の外観が合うのは中々ないものだ。相手から『〇〇〇自分の名前っぽくない』と言われるのはやっぱり少しショックだ。


 俺はまさにそれを言われ続けた過去がある……葉月なんて名前はどうしても女の子に間違われてしまう。


「我が主よ、少々お耳に入れてもらいたい情報があるのだが……」


 アリスの腕元から離れ、さらに目線が小さくなった俺に合わせるようにして、クロは身体を低くして伏せの姿勢でさらに顎を地面につけた。


 まさに犬の伏せの体勢をドラゴンがしてみせたのだ。


「なんだ?」


 すぐそこにクロの顔があることで見上げる必要はなくなった。


「我が主がダンジョンにきてからまだ日が浅いように思う。知らなくて当然なのだが、ここは他のダンジョンとは異なり迷宮化した深層ダンジョンであるがゆえに、人間からは少々厄介な目で見られている」


「迷宮化……?ほかのダンジョンは100階層までないってことか?」


「うむ。これまで一度たりともこのダンジョンが人間による侵攻を許したことはないのだが……」


「一階層を突破される恐れがある……と言いたいのか」


 クロは頷いた。


 以前アリスは、このダンジョンが一階層を攻略されたことはないと言っていた。


「──勇者の出現」


 アリスが唐突に、そう言った。


「わっ」


 再びアリスに捕まり、両腕と背後から伝わる柔らかい感触に包まれて抱かれた。


「やはりお主も気付いていたか、アリスよ」


「当然。しかし、勇者がダンジョンを攻略しに来る可能性は極めて低いはずだ。恐れることではないのではないか?」


「そう考えるのが妥当、されど王国からしたら領土に佇む異質な存在は早々に排除したいと思うのが必然であろう」


「国王が勇者に命じるというのか……ダンジョン攻略を」


「そういうことだ」


 ちょちょちょっと、お二人さん……俺を置いて話を進めないでくれよ


 勇者が現れた……?国王……?ダンジョンが攻略されるだ?


 何が何だかさっぱりなんだが……




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