第4話 いざ、99階層へ!

「あー……あ、あー……!出た、声出たー!!」


「キュ」だけの言語からいつも通り言葉を発することができたことで、語彙力皆無の喜び方になった。


 言いたいことを難なく言えることのありがたみを今一度知ることができた気がした。


 アリスに教えてもらった方法は、なんでも、魔素をコントロールして声帯を変化させるのだとか。


 言っている意味がさっぱり分からなかったが、代わりにアリスがコントロールしてくれたため、こうして人語を介することが叶った。


「あぁ……あまりにも短すぎる期間でした………。もう少し、あの初々しくなんとも愛おしいマスターを傍で見ていたかった……」


 どうやらアリスはあの「キュ」しか言えない俺が好みだったのか、人語が喋れるようになって少し落ち込んでいた。それでこんな裏技があることを隠していたのか。


 まあ、アリスがぼろを出してくれたおかげでこうして喋れるようになったんだが。


「またいつかやってやるから、そう落ち込むなよ。な?」


「ほ、本当ですか!?ありがとうございますありがとうございます!!じゃあ次回そのときにはぜひ私には母親役をさせてください!」


 おいおい……ごっこ遊びをするとは言ってないぞ。


 ぶっちゃけた話、この幼体ドラゴンの姿ではさっきまでの喋り方のほうがしっくりくると言えばそうなってしまう。


 これはただの俺の考えだが、この体の姿で人語を話すのは少し違う……気がする。


「───……!マスター、よろしいでしょうか」


「んぁ、なんだアリス?」


 少し怪訝な表情をしているアリス。何かあったのだろうか。


「いえ、その……彼──黒の古代竜種エンシェントドラゴンがマスターに会いたいと申しているのです」


「黒の古代竜種……?どこのどいつなんだ、そいつは」


 ネーミングがすごい強そうだが、一応……俺もドラゴンなんだよな。


「黒はこの階層の一つ手前──99階層にてダンジョンを守護する者です」


 99階層ともなると、ダンジョンのラスボスを目前に控えた最後の難関だ。


「そ、そうか……。でも同じダンジョンにいる以上、挨拶くらいはした方がいい……よな?」


「それはマスターにお任せいたしますが……彼がマスターに対してどういった顔を見せるか、正直私には分からないのです」


「え……それってどういう意味?」


 怪訝な表情をしていたのはこれが原因なのだろうか。


「その……彼は非常に気まぐれな性格でして、マスターの下につかないと決めてしまえば何をしでかすか……。も、もちろんマスターに従わないなどこの私が許しはしません!!しかし、流石に古代竜種エンシェントドラゴン相手では私も軽々……とはいきませんので」


 軽々いけなくとも、負けないとは言わないのねこの娘は……


 俺は目の前にいるこの美人メイドの強さが計り知れない。


「とりあえず会ってみてもいいんじゃないか。そのときにどうするかを決めればいいわけで、その人がどういう判断をするか今考えても仕方がないでしょ?」


 俺のことが気に食わないってなっても、さすがにいきなり殺しにかかるなんてことにはならないだろう。


「……そうですね、マスターのおっしゃる通りです。私が不甲斐ないばかりに申し訳ございませんでした。”もしも”の時が来ようとも、この身をもって全力でマスターをお守りいたします」


「おう、頼んだぞアリス」




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