第27話 海も怖くない


「ねぇリヒトくん! 今度は海に行かない?」


海、前世の海とこの世界の海は全然違う。


この世界の海は魔物が跋扈する恐ろしい場所だ。


流石の魔王も海の中にはその力は及ばないと聞く。


船で移動する時は聖水を撒きながら海の魔物が来ないようにすると聞いた気がするし、漁師の仕事はかなりハードな仕事として有名だ。


だけど、海辺は確かに綺麗だ。


砂浜位までなら行っても大丈夫かな。


「それじゃ、行ってみようか?」


海に入らなければ大丈夫だよな……


◆◆◆


「久しぶりの海です! 青くて綺麗ですね」


此処に来る時に見たと思うんだけど……


なんで『久しぶり』なんだろう。


「エルダさん、久しぶりのって……」


「さぁ、行きましょう!」


笑顔のエルダさんに手を引かれそのまま砂浜に……


砂浜なら、まだ大丈夫だよな。


「そうだね……えっ」


そのまま引っ張られ、海に浸かってしまった。


「リヒトくん、どうしたの? プールで泳いでいたから泳げなくないよね?」


「泳げるけど、海には恐ろしい魔物が居るって聞いた事があるんだけど?」


「嫌だなぁ~リヒトくん。海に居るのはお魚だけだよ! 魔物も居るかも知れないけど殆ど出て来ないから大丈夫だよ。プールも良いけど、やっぱり海の方が楽しいよ……大きいし」


「本当に大丈夫なの?」


本当に危ないって聞いたんだけどな。


「うん、大丈夫だから、本当にリヒトくんは怖がりだなぁ~」


エルダさんがそう言うなら問題無いのかも知れない。


確かに危ない存在も多く居るのかも知れないけど、前の世界だってサメをはじめ恐ろしい存在は沢山居た。


だけど、海水浴していた。


案外、そう簡単には遭遇しないのかも知れない。


「エルダさんがそう言うなら泳ごうか」


エルダさんの水着、水に濡れるとセクシーだし。


「うん、それじゃ行こう」


エルダさんに手を引かれてそのまま海へ……準備体操して無いけど大丈夫か? まぁ良いや、水遊びする位なら平気だよな。


「やっぱり海は違うね」


「そうでしょう? 大きくて全然違うよね」


確かにプールも良かったけど、本物の海は違う。


なんだか海で見るエルダさんは生き生きしていつもより綺麗に見える。


「確かに全然違うね。少し水が冷たいけど気持ち良いね」


周りを見ると誰も泳いでいない。


まるでプライベートビーチみたいだ。


こんなに気持ち良いのに何で誰も居ないんだろう。


「だよね~折角海に浸かっているんだから、なにかしない?」


「なにしようか?」


「う~んそれじゃ追いかけっこしようか? もしリヒトくんが私を捕まえる事が出来たら良い事してあげる」


「良い事?」


「うん! 凄く良い事してあげる」


「それじゃ……えっ! エルダさん危ない!」


俺は咄嗟にエルダさんの前に急いで泳いで回り込む。


どうにか回り込んだけど、すぐそこ迄巨大なサメみたいな存在が来ていた。


大きさは……バスを大きく超える。


恐らく20メートルを超えている。


駄目だ……海の中で丸腰じゃこいつに敵わない。


「リヒトくん……」


「駄目だ……エルダさん逃げて!」


「大丈夫だよ、リヒトくん! このお魚さんは……う~ん知っている気がするから……そうだ! リバちゃんの友達でしょう? 違うかな?」


まさに大きな口を開けた瞬間、サメに似た魔物の動きが止まった。


「リバちゃん……まさか海王リバイヤサン様の事か?」


「うんうん、そうだよ! サメはリバちゃんの子分みたいなもんでしょう?」


此奴、サメで合っていたのか。


それに話せるのか。


「海王様を馬鹿にしているのか! だが、その馬鹿にするような話し方海王様に無礼であろうが!」


「海王、今は王様なんだ。月日って凄いよね……だけど私リバちゃんの子供の時から知っているよ! 私リバちゃんにとってお姉さんみたいな存在なんだけど? 駄目なの?」


サメが何やら動揺している。


「殺されたく無くて嘘を言っているのだろう! 海王様への侮辱許せぬ……死を持って……えっ」


「何をやっている……」


今度は巨大な半魚人みたいな奴が現れた。


「ダゴン様、この者達が、海王リバイヤサン様の事をリバちゃんと……」


「海王様の事を……流石に無事に……」


「ダゴちゃん聞いてよ! そこのサメさん私がリバちゃんの知り合いだって言っても嘘だって信じてくれないんだよ?」


「ダゴちゃん……ああっ、エルダ……お婆様」


「ダゴちゃん……お婆様って何かな?」


エルダさん青筋がたっているし……


「エルダ……お姉さん……お前、謝れ、この方は本当に海王様の知り合いだ!」


「ダゴン様?」


「エルダお姉さんは海王様がまだ子供の時からの知り合いだ! ああ見えて俺の何倍も生きている」


「齢1200歳を超えるダゴン様よりですか?」


「海王様とも大昔からの知り合いだ……無礼を働くでない」


「解りました……そうとは知らずこの度は申し訳ございません」


「別にいいわ……ダゴちゃん、私暫くこの近くに居るから、海で遊ぶの邪魔しないように言ってくれないかな?」


ダゴちゃんと呼んでいるこの魔物。


多分、魔族の四天王クラスより強そうだ。


「解りました、所でそちらの人間は」


「うふっ、私の旦那様よ……今、新婚でラブラブなの! 名前はリヒトくんって言うのよ……」


「そうですか……」


なんで微妙そうな顔しているんだ。


「それでね、リヒトくんは私の旦那だから、海で安全に過ごせるようにしてくれないかな?」


「エルダお婆……お姉さんの夫なら海王様に連なる者は手を出しませんよ」


「だって、リヒトくん。これで安心して海で遊べるね」


「ははは……そうだね」


暫くエルダさんと遊んでいたんだけど、砂浜に行くと沢山の美味しそうな貝があった。


恐らくダゴンさんが持ってきてくれたんだろう。


魔王と言い海王と言い……エルダさん、凄く顔が広いんだな。



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