第25話 勇者SIDE 連れ戻す方法は......浮かばない

やはり、リヒトが居ないと生活が不便だ。


だから、リメル達と話し合いリヒトの近況を冒険者ギルドで調べて貰った。


もう一度戻って貰うにしても何かしら譲歩が必要だろうからな……


そして今日、冒険者ギルドから調査が終わったと連絡を受けたので近場のギルドに来た。


「リヒトの調査の結果を貰いに来たのだが……」


「はい、それなら此方をどうぞ! 記録水晶と報告書になります」


「ありがとう」


報告書と記録水晶を受け取りリメル達と酒場のスペースへ移動した。


報告書には、リゾート地タミヤで楽しく暮している様子が書いてあった。


「リゾート地で暮らしているのか……」


「そんな楽しい毎日を送っていたら、もうこっちに戻ってこないかな」


「辛い魔王討伐より楽しい毎日、私達と違ってリヒトは四職じゃないから莫大な恩賞は貰えないから、旅を続ける意味はないもんね」


確かにそうだ。


リヒトだって能力は俺達より劣るがA級冒険者。


充分金だって稼げる。


それなら、金を稼いで『魔王とは無縁の地』で楽しく暮した方が良い。


俺だって多分、そっちの道を選択する。


『本当につまらないな』


街では支援を受けられるから、此奴らも少しは真面だが、野営に行くときなんて最悪だ。


お金を使って手入れして貰っていても、リヒトが居た時みたいに可愛い、綺麗とは思えない。


それに、聖女だ剣聖だ賢者だと言っても、所詮は元は只の村人。


よくよく考えたらそこ迄の美人じゃない。


勇者だから醜聞があるから買えないが……夜街で立っている娼婦にだって三人より綺麗な女は沢山いる。


それなら、割り切った方が良い。


魔王討伐が終わればよりどり、みどりだ。


いっそうの事全員、リヒトにくれてやれば良い。


「それでな、ちょっとした案なのだが、三人のうち誰かがリヒトとくっつくという案はどうかな? 俺としては断腸の思いだが、それしか浮かばない! 三人の誰かとくっつけば一緒に恩賞を貰う事が出来るだろう? 魔王を倒したあと聖女や剣聖、賢者の夫なら爵位のひとつも貰えるんじゃないかな?」


「そうだな、考えてみても良いかも知れないな」


「そうね、考えてみようかな?」


「問題は誰がリヒトの恋人、ゆくゆくは夫になるかだね」


「誰か、自分からそう思う奴は居ないか?」


「僕は……う~んどうしようかな? ありのような無しのような?」


「私も悩むわね……リヒトの事が決して嫌いじゃないんだけど」


「私も悩んじゃうな~ リメルやマリアンヌはどうする?」


この間までの雰囲気では、リヒトとくっついても良いなんて感じだったんだが……魔王討伐後の縁談の話を聞いて考えが変わったか。



イケメン貴族との縁談の話が出てきたら、これかよ。


此奴らは俺はもういらない。


正直言えば、もう戦力以外は期待してないんだが……


「それじゃ、それは保留で、記録水晶があるからそれを見て見るか?」


「そうだな」


リメルが呟くと残り二人も頷いた。


記録水晶を覗くと……


「なんだ、これ!」


見た瞬間、俺は思わず声を上げてしまった。


エルダと楽しくリゾートで遊んでいるリヒトがそこには居た。


凄く楽しそうだ。


「なんだか、凄く楽しそうだな」


「そうね、平和で凄く楽しそう」


「そうだね」


よく考えたら、リヒトに両親はいない。


そのせいか、あいつはエルダが性処理奴隷の牝豚だと気づかず姉のように慕っていた時期があった。


いや、途中からは気がついていても、その思慕の想いは変わらなかった。


そういう事か?


両親が居ない彼奴にとっての家族、それがエルダへの想いだったのかも知れない。


この状態で呼び戻せるのか……


平和な場所で大金を稼ぎながら、好きな女と楽しく暮す生活。


此奴ら三人が幼馴染で彼奴にとって大切な人間でも……殺伐とした戦いの日々を送る生活。


後者は、戦いに勝利すれば、将来栄光と地位が約束されている。


だが……彼奴が、貴族や領主になりたいのか? 金が欲しいのか?


きっと彼奴はそんな物なんて望んでない。


だったら……連れ戻す手段はあるのか?


そもそも、リヒトにとってリメル達三人はエルダより価値があるのか?


それも、三人のうちの誰かがリヒトを伴侶に選ばなければ、話しは何も進まない。


「この状態で呼び戻せると思うか?」


「難しいじゃないか?」


「無理かな?」


「俺もそう思う! だが、そうも言ってられないだろう?」


四人で話してみたが、リヒトを連れ戻す方法は結局、思い浮かばなかった。

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