第20話 魔王も怖くない
タミアに向かう道中嫌な感じがした。
こういう嫌な俺の予感は結構あたる。
「どうしたの? リヒトくん、緊張して」
「いや、イヤな予感がするんだ……」
「そうかな? 一応風の精霊さんに聞いてみるね……うん! なにか団体で歩いている人がいるけど、問題無いって」
まぁエルダさんがそう言うなら問題はないんだろうな。
◆◆◆
全然違う……
なんでこんな所に居るんだよ。
魔族四天王の一人にして魔王の息子の『ダークコレダー』が……
「ふははははっ、剣鬼リヒトお前が1人になる瞬間を待っておったのだ! お前に何回煮え湯を飲まされた事か! お前は確かに頭は良いが腕は勇者パーティで一番弱い……お前を殺せば……」
「待て! 俺は勇者パーティを追放された。 これからは静かに生きていくつもりだ」
「……」
「そんな嘘に俺は騙されんぞ、此処をやり過ごしたら、再び我らの前に立ちふさがるのだろう」
「いや、それは無い! 命がけで戦う意味がもう無いから、勇者が死のうが俺に関らないなら戦わない」
「……」
俺が守るのはエルダさんだけで良い。
もう、勇者パーティは関係ない。
だが、今はそれをどうやって証明するかだ。
残念ながら周りに沢山の部下が隠れている。
これじゃ、どうする事も出来ない。
駄目だ、戦うしか無いのか。
俺は死んでも良い。
せめてエルダさんだけは逃がさないと……
俺は決死の覚悟で剣を抜く。
「エルダさん、逃げて! ダークコレダー行くぞ……」
「そうか、それで良い! 剣鬼リヒト、勝負だ!」
「……どこかで見た気がする……あっ!? ダーちゃんだ! 」
「「!?」」
ダーちゃん?
「エルダさん、ダークコレダーを知っているの?」
「うん、確かルーちゃんの子供よね? 私はそのお父さんのルーちゃんのそのまたお父さんのバルちゃんと昔、仲が良かったのよ! バルちゃんは亡くなったのは知っているけどルーちゃんは元気?」
「ルーちゃんってまさか、俺の親父魔王、ルシファードか?」
「うんうん、目元が似ているわ。昔ね、私ルーちゃんのお父さんのバルちゃんと仲が良かったんだよ……うんうん、あのルーちゃんが魔王、歳をとるわけね」
「えーとバルちゃん?」
「うん、バルダ―くん……懐かしいな」
「おじい様、大魔王バルダ―を知っているのか? お前は何者なんだ……」
「え~とルーちゃんなら私を覚えていると思うから通信水晶で話しして……」
ダークコレダーが部下に通信水晶で連絡すると……
すぐに魔王ルシファードに替わった。
『まさか、本当にエルダおばあちゃんなのか?』
うん? お婆ちゃん。
「ねぇ、ルーちゃん! 今は私リヒトくんの妻なの。 幾ら年上とはいえ、お婆ちゃんはないかな?」
『いえですが、私の父はおろか祖父まで子供扱いしていた、エルダおばあ』
「お婆ちゃん言わない! 私怒るよ」
あの、恐ろしい魔王が子供みたいだ。
『エルダさん、これで良いでしょうか?』
「うんうん、いいわ……それでね、私の夫のリヒトくんなんだけど、揉めていたんでしょう? どうにか仲良く出来ないかな? 折角、結婚したのに未亡人なんて嫌よ。そうしたら絶対に私恨むとおもうな」
『剣鬼リヒトは我々にしても目の上のたん瘤でしたが……敵にならないなら良いか? エルダさんの夫になったらもう許しちゃう。リヒトくん……』
くん?
「はい」
『もう敵じゃないんだろう? 緊張しなくて良い! エルダさんは私にとってお婆ちゃん』
「お婆ちゃんってまだいうの?」
『お姉ちゃんみたいな物だから……血は繋がってこそないが親類みたいな物だ。 その夫の君も親類みたいな物だから、まぁ揉めずに行こう。 魔族は決して君に手を出さない。その代わりそちらも勇者に手を貸したり、こちらを攻めないで欲しい』
「解りました」
「それじゃ、ルーちゃんまたね」
『それじゃ、エルダおば……いえお姉さん』
簡単に話が終わった。
これで、安心だ。
愕いた顔で、あのダークコレダーやその部下がこちらを見ている。
あっ、正常になったみたいだ。
「と、いう事だから、これからは仲良くしようぜ……それでこれ結婚のお祝い……まさか、こんな事になると思わなかったから、ある物で用意したんだ」
金貨が入った袋と……剣?
「これは魔界の名剣、魔剣ソウルイーター。良いのか」
「お祝いの品だ……それじゃ結婚おめでとう」
「「「「「「「「「「おめでとうございます」」」」」」」」」」
これでもう、魔族と魔王は怖くないな。
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