第19話 気楽で楽しい旅


エルダさんと一緒に旅をしている。


もう、魔国とは随分と離れた。


此処迄くれば、ライト達勇者が追ってくるのは難しいだろう。


あいつ等は不器用だからきっと困っている筈だ。


これは杞憂かも知れないが、連れ戻される可能性もある。


だから『逃げる』


俺が欲しかったのはエルダさんだけだ。


それが手に入った今……あいつ等の世話なんて御免だ。


好きでも無い女の下着や同じ男のパンツなんて洗ってられるかよ。


「リヒトくん……どうかしたの?」


「いや、考え事をしていたんだ」


「考え事?」


「いやぁ、凄く幸せだなって」


「うふっ、それは私も同じだよ!」


エルダさんとの道中は凄く楽しく快適だ。


何より魔物に全く遭遇しない。


偶に遭遇する魔物は竜種が多いが俺かエルダさんが簡単に……


いや、エルダさんが簡単に倒してしまう。


そして……二人ともお金を使う趣味が無いから、お金はどんどん溜まっていく。


『本当にストレスが無い』


言いたくはないが……アホの勇者パーティとは違う。


あいつ等との旅はストレスの毎日だった……


全ての家事や報告書の作成を俺が行い……


それで感謝もされない。


お金は貰えずに、自分の生活費は自分で稼がなければならない。


どう考えても『楽しくない』 


頼まれたから、仕方なくやっていただけだ……


『追放最高』


思わず、そう叫びたくなる。


「もう、そろそろ街につくね」


「そうだね。それでタミアってどんな街なの?」


「海鮮料理が旨くて、温泉があるんだ。暫く滞在して住みよかったらそのまま住んでも良いかも知れない」


「まぁ、私はリヒトくんと一緒なら何処でも良いんだけど……それでも、温泉と海鮮料理は魅力的だよ」


「刺身っていって生で魚を食べられるみたいだよ。他にも美味しい料理が沢山あるみたい……カニもある様だ」


「刺身? カニ……どんな料理なの?」


多分、日本料理だ。


俺も作れるかと言えばつくれるが……余り刺身に合いそうな魚が居ない。


海の近くだからこその海鮮。


今から楽しみだ。


「う~ん、説明が難しい……俺は凄く好きなんだけだね」


「どんな料理か解らないけど、リヒトくんが好きなら食べてみたいな」


「ただ、好き嫌いが別れるから、口にあうかどうか解らないよ」


「大丈夫だよ! 私、かなり永く生きているから結構変な物も食べた事があるから……」


「そうなんだ、まぁ生が駄目なら焼き魚を食べれば良いし、他にも沢山美味しい物があるよ。猪鍋という猪を使った鍋もあるから美味しい物ばかりだ」


「猪、あれは凄く美味しいよね。今から楽しみ」


俺もエルダさんも殆どお金を使わない。


そんな二人の数少ない贅沢が食事。


美味しい物が食べられて、住みやすい場所。


そこが、理想の住処。


勇者と違い、俺とエルダさんの旅は気楽な物だ。


安全で住みやすい場所を探す為に……あちこち見て回るだけだから気負う物も無くて気楽で良い。

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