第14話 勇者SIDE 戻るわけない


結局、この街ではリヒトが作るような料理は食べられなかった。


同じ名前の物はある。


だが、どれも微妙に味が違う。


リヒトの作る物の方が美味しい。


しかも、金を払って書類を作成して貰うのに


『もっとしっかりした情報を下さい』


『この内容じゃ報告書が作れません』


と冒険者に言われる。


『彼奴は凄く便利な奴』だった。


それは認めないとならない。


「なぁ、リヒトを連れ戻さないか?」


宿屋で休んでいた時につい口から出てしまった。


「ライト、それはもう無理だよ……」


「そうね、もう遅いわ」


「今更だよ!ライト……」


なんでそんな暗い顔をしているんだ。


「いや、まだリヒトを追い出して、そんなに経っていない。馬で追えばすぐに追いつくだろう!」



「いや、ライトそういう問題じゃないよ!僕たちとリヒトの関係の問題だよ」


「リメル、何が言いたいんだ!?」


「あのさぁ、ライトが勇者にならなければ、1人としか結婚出来ないから。僕たちの中の1人を選び結婚するわけだろう? そして残った2人のうち1人がリヒトの妻になる。そういう人生だった筈だよ」


「それが一体どうしたって言うんだ?」


「良く考えてみてよ! 僕たちが全員ライトの物にならなければ、今のパーティの中でリヒトも恋人を作る事が出来たのかも知れない。だけど、僕たち全員がライトを選んだ時点で、リヒトがこのパーティに居る必要は無くなったんじゃないかな?」


「それとこれとは関係ないだろう」


「ライト、それじゃリヒトがこのパーティに居る意味は何かな? 生活費は自分で稼いでいて雑用するだけ……リヒトが損する事ばかりじゃない?」


「幼馴染だからだろう?」


「そう……幼馴染だよ! だから一緒についてきて手伝ってくれた。 だが、その先がある筈だよ……恐らくリヒトは僕たちの誰かと付き合いたい。そう思っていたんじゃないのかな? マリアンヌ、リリアどう思う?」


「そうね、幼くして両親を亡くしているし、他に交友関係が無いからその可能性は高いかも」


「そうね、いつも5人で一緒に居たんだから、そういう思いもあるかも知れないよ。それだけじゃなく魔王討伐の旅は長いから、実際の所は別にして私達3人からしかリヒトは交際相手を選べないよね。恐らく、その相手は多分私かな?」


「そう言う事か?」


「そう言う事よ! ライトが3人とも全部自分の女にしちゃったから、リヒトの交際相手が居ないよね。村長やお父さんお母さんに頼まれたって普通は『無償』なんだからこんな旅に来るはずが無いよね。それでも来た理由は……リリアとは言わないけど三人のうち誰か1人を好きだったからじゃないのかな? それじゃ無ければ無料でこんな面倒くさい事引き受けると思う?」


「確かに考えると、それしか思い浮かばないな」


確かにそれ以外考えられない。


俺達と違って支援金も無いリヒトがついてきてくれた理由。


恐らくはリメルの言う通りだろう。


俺がリリアに手を出さなければ、確かにそれは叶ったかもしれない。


だが……三人に手を出してしまった今、どうすればいいんだ。


「そうでしょう? だからもうリヒトは帰って来ないよ」


「そうだよ! 大好きな幼馴染を全員友達に奪われた状態で、無償でなんか働くわけないわ」


「そうだね……」


「だったら、お金を払えば良いんじゃないか?」


「ライト……リヒトは僕たちより弱いけどA級。正規の値段を出すなら相当高額だと思う……それにライトが逆の立場だったら戻る? 幼馴染が全員親友に奪われたパーティに……私なら戻りたいと思わないな」


「俺だったら絶対に戻らねー」


どう考えても『俺が作ったハーレムパーティ』にリヒトが加わる訳ねーよな。







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