第13話 魔物SIDE 加齢臭
「そう言えばエルダさんは戦闘経験とかあるの?」
「それがお恥ずかしい話、昔から捕らわれていたので碌に戦った事が無いんです。大昔に『火トカゲ』なら倒した記憶がありますけど、それ位です」
「そうなんだ、それなら俺がしっかりと守るから安心して、これでもA級冒険者だからね」
「リヒトくん、ありがとう」
「任せて」
エルダさんは今迄捕らわれの身だったから当たり前だな。
旅の途中はしっかりと守ってあげないと。
◆◆◆
『嫌な臭いがしてくる』
しかも、その臭いと一緒に独特の気を感じる。
1つの気はオスの気……なかなかの強者だ。
だが、恐怖は感じない。
問題はその横に居るメスの気だ。
信じられん程大きな気だ。
齢900年を生きるこの白牙(はくが)が恐怖を感じる。
こんな経験は今迄生きてきた中でない。
恐怖で体が震え、まだ数キロは離れているのにこの場所から逃げたくなる。
一体何者が此処に来ると言うのだ。
『魔王ですら我との戦いは避ける』その我が体が震えておる。
正体はなんとなく解かる。
我と同じ位生きた存在、いや違うもっと長く生きた存在だ……そしてこの気は恐らく我より上位の存在の気がする。
『間違いない、この独特の臭いは加齢臭だ』
臭いと気からして、恐らく我より相当長く生きた存在だ。
『加齢臭』は決して蔑みではない。
上位種に限れば加齢臭がする存在は例外なく規格外の化け物しかいない。
数百年生きたバンパイアロード。
1000年を生きた炎帝と言われる火竜。
そこ迄の存在にならなければ上位種から『加齢臭』はしない。
今の魔王も前の魔王も、こんな臭いはしなかった。
戦いは避けたが、戦えば五分の戦いでどっちが勝つか解らない。
そんな臭いだった。
この辺りの平原を魔族が脅かさない代わりに、我らも魔族に手を出さないと決めた。
だが、この臭いは魔王より上の臭いだ。
『臭いが強くなってくる……嗅げば嗅ぐほど強い臭いがする。まるで死の香りでは無いか』
こんな存在を我は知らぬ。
関わってはならない。
「お父様、嫌なにおいがしますわ……ちょっと行って狩ってきますわ」
「姉ちゃん、俺も行くよ、この臭い魔族かな? 姉ちゃんは脳筋だから直ぐに戦おうとするからね。相手が魔族だったら、同盟組んでいるんだから狩っちゃ不味いでしょう?」
我が一族はフェンリル。
この二人は息子と娘だ。
息子や娘は強く育ち、魔族の四天王位なら戦える程には鍛えたつもりだ。
だが、駄目だ。
行かせたら確実に殺される。
「行ってはならぬ」
「何故ですか? お父様」
「我がフェンリル族が治める地に来たのですから、理由位は聞いても良いでしょう」
「我でも勝てぬよ! 態々危険な場所に自ら行く必要は無い」
「お父様、そんな馬鹿な! 獣の王と言われキングオブキングスと呼ばれるお父様が!」
「本当なのですか……」
「だからお前等は未熟なのだ。この加齢臭は強者の臭いだ。この臭いから察するに我よりも長く生きた存在の可能性が高い。我処か我ら三人に魔王と四天王が加勢しても勝負はどう転ぶか解らない……関わってはならぬ。 そしてこの臭いを覚えよ。この臭いを嗅いだらすぐに逃げるのだ」
「誇り高きフェンリルが逃げるのですか?」
「姉ちゃん……良く嗅いでみて。この臭いは魔王より臭い」
「ああっ、そう言われてみれば……嫌だ、体が震えてきましたわ」
「良いか? フェンリルは誇り高き種族だ! だが100に一つも勝てない争いをする必要は無い。相手は侵略して来たのではなく、ただ歩いているだけだ。わざわざ関わる必要が無い。良いな立ち去る迄森から出るなよ」
これで良い。
わざわざ、この様な存在に関わる必要は無い。
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