第11話 勇者SIDE カレー


「店主、ちょっとこっちに来い!」


「勇者様、お呼びでございますか」


こんなクソ不味い物出して、良くニコニコしていられるな……


「クソ不味いんだが、このカレー! お前俺を舐めているのか?」


「そうだな……この不味さ、流石にライトが怒るのも解るよ! 本当にふざけている……わざとなら温厚な僕も怒るよ」


「これは酷いわ……辛いし全然美味しくない……聖女としてこの店がふざけていると教会に報告しましょうか?」


「ねぇ、皆が怒りだす前に作り替えて、此処は私が宥めておくから、多分店主さんも悪気は無いんだよね!これは間違いだよね!」


「すみません……すぐに作り替えます……」


これが、高級レストランのする事かよ、俺達が田舎者だと思って舐めているのか?


こんな水みたいにシャバシャバしたもんがカレーの訳ねーだろうが。


しかも、付け合わせのパンが只のパンってどう言う事だよ。


リヒトの作ったカレーについて来るのは細長いまるで耳の様に長い柔らかいパンか白いライスとかいう変わった食べ物がついてきた。


カレーだってこんなんじゃねー。


まるでシチューの様にコクがあった。


「なぁ、リメルこの店、俺達の事舐めてんじゃねーかな?」


「僕もそう思う……村人のリヒトが作る料理よりプロが下手な訳ないよね」


「討伐して服が汚れていたから、その辺の冒険者と間違って手抜きしたんじゃない? まぁ、次は真面な物を出すよ」


「リヒトが手配した店どころか、リヒトが作った物以下な訳無いよ……作り直してくれるって言うから待とう」


「本当に胸糞悪いな、こっちはお腹がすいてイライラしているっていうのに! 四人で銀貨6枚(約6万円)を奮発してこれかよ! まともになって無かったら暴れるぞ」


「まぁまぁ、そこ迄怒る事ないじゃん。次は真面なカレーを出すって」


「流石に勇者だって知って手抜きなんてしませんよ」


「うんうん……あっ来たみたいだよ」


「勇者様、新しいカレーをお持ちしました」


なんだこれ……シャバシャバしたカレーに、黄ばんだ米。


カレー自体はさっきと同じで、パンを不味そうな米に変えただけじゃねーか。


しかも、米のカレーなのに福神漬けがねーよ。


リヒトは『カレーライスには福神漬けが無いとね』と言っていた。


完全な手抜きだな。


「おい、店主これ誰が作ったんだ! 作った奴連れてこい!勇者パーティの俺達にふざけた事しやがって。さっさと連れて来い」


「ひぃ……畏まりました」


本当にふざけている。


一発位殴ってやるか。


◆◆◆


「私が、このカレーを作ったアルベルトですが、何か問題がありましたでしょうか?」


「問題がありましたじゃねーよ! こんな変な物を作りやがって真面なカレーを出せよ……不味いんだよ!」


「このアルベルト、元は王都の一つ星レストランでコックをしていた事もあります。このカレーはそこで出している物とほぼ同じです。文句を言われるような料理ではございません」


「だが、俺が食ったカレーはこんな不味いもんじゃねー」


「一体、何処のカレーを持って、これが不味いと言われるのですか?」


「前に居た、リヒトのカレーの方が美味かった。たかが冒険者の……」


「リヒト様、ああっ剣鬼リヒト様ですか、そういう事ならお代は結構です。お引き取り下さい」


「どう言う事だ?」


「剣鬼リヒト様といえば、料理が得意な事で有名な冒険者ですよ。リヒト様の様な転生者が作る料理を『異世界料理』と言うのですが、同じ物の再現は当人からレシピでも聞かないと難しいのです。特にカレーは同じ異世界人でも全くレシピが違いますから、私にはリヒト様のカレー再現は不可能です」


「リヒトの料理はそんな凄いのか?」


「私が聞いた話では、コースは作れないそうですが、1品料理と言う事なら『王宮料理人の様に花がある』そう聞いた事があります。私も一度はリヒト様の料理を食べたい。そう思っておりました」


「リヒトって、そんなに凄かったんだ」


「確かに美味しかったわ」


「あれは確かに他のお店にも無かったよ」


「そう言えばリヒト様は、ライト様のパーティの所属でございましたね。もし宜しければ金貨2枚までならお支払いしますので、お貸し頂けないでしょうか?」


「「「「金貨2枚」」」」


「冒険者ギルドで依頼すると出張料理で1日金貨1枚位の依頼と聞きましたので……駄目でしょうか? 」


「すまない、リヒトはもう居ないんだ……」


「そうでございますか、残念でございます! リヒト様の料理は再現が不可能ですので、お代は結構です。どうぞ、お引き取り下さい」


「いや、それならあの代金で異世界料理じゃない美味しい肉料理を頼む……無茶いって悪かったな」


「いいえ、それなら……お作りしましょう」


あれは、もう食べられないのか……





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