第10話 自由だから
「バルトマン家の屋敷なら、ライト様は住まないから、別にリヒト達が住んでいても問題は無いぞ」
「どう言う事ですか?」
「住まないのですか……」
エルダさんの所有が俺に移ったと言う事は『屋敷の管理』から外れる事になる。
二人で相談して村長のワガルさんに屋敷のカギを預かって貰おうと思いきたら、こんな事を言われた。
「ライト様が勇者になり旅立った時に、もう戻って来ることは無いからと村で自由に使って良いって言われたんだ」
「ちょっと待って! エルダさんが此処に住んでいるのにですか?」
「エルダさんは、一応はバルトマン家の代々の財産だから、奴隷商に二束三文で売る訳にも行かず、ライト様は貴族に譲ろうとしたらしいが引き取り手が無かったそうだ……それで帰る気が無いこの家に置いて行ったようじゃな。まぁエルダさんはライト様に捨てられた様な物だ」
ライトの家にはエルダさんしか居なかった。
使用人も全員引き上げてエルダさん1人だ。
幾ら小さな屋敷でも一人じゃ維持なんか出来ない。
『屋敷と一緒に捨てていった』そう言う事か。
「正直に言えば、あんな屋敷を村で貰っても困るんだ……使用人が居なければ維持できない屋敷を貰っても廃墟になっちまうに決まっている。 屋敷をくれると言っても維持するだけで金が掛かる物なんて誰も欲しくない。 だから、置いていかれたエルダさんにそのまま住んで貰おうという事になったんだ」
「そう言う事ですか……」
「ああっ、それでリヒト達はこのまま村で暮らすのか? もしそうなら、屋敷をそのまま貰ってくれても構わないし、前に住んでいた家を返そうか?」
「いえ、ライト達について行くときに村に置いていった物ですから、使っている人がいるなら、そのまま使って貰ってください」
「それじゃ、リヒト達はどうするんだ?」
「そう言う事なら、数日間はこのまま住まわせて貰って、その後は旅に出ようと思います」
「旅にでるのか?」
「俺の仕事は冒険者ですからどこでもできます。折角、嫁さんも貰ったんで永住の地でも探すつもりです」
「だったら、この村で暮らせば良いんじゃないか?」
「いえ、リメルにマリアンヌ、リリアの親にあわせる顔が無いのでここでは暮らせません」
「どう言う事じゃ」
恋愛感情は無いが純朴で優しくて良い奴らだった。
だが、今のあいつ等は我儘し放題の傲慢な性格になってしまった。
特にリリアの両親からは兄妹の様に村では過ごしていたから『娘を頼む』と言われたのに何も出来なかった。
ライトに引き摺られて贅沢癖がつき、性格も随分悪くなった。
追いだされる時に思った。
もう、俺の好きだった『幼馴染』はいない。
此処で暮せば、彼女達の親に嫌でも会う事になる。
彼女達の事を聞かれれば、きっと愚痴が出てしまう。
だから会いたくない。
村長には、今の皆の現状について話した。
「そうか、皆、純朴な良い子じゃったが、ライト様に感化されてしまったか……」
「あれはもう村人じゃないですね……まぁ三職(剣聖 聖女 賢者)ですからそれで良いのかも知れませんが、人を見下す癖や散財癖がついて、言いたくありませんが随分といけ好かない性格になりました」
「それはやはり、親御さんには言えない話じゃな」
「はい、だから、話しをしないで出て行こうと思います」
「その方が良かろう」
「ですから早いうちに出て行こうと思います」
多分、此処に居れば近い将来、敗北したライト達に会う様な気がする。
俺の見立てじゃ……多分あいつ等は負ける。
ハーレムパーティで最低限の努力もしないライト達が魔王を倒す姿がどうしても俺には浮かばなかった。
敗北してボロボロになったあいつ等と鉢合わせしない為にもこの村に住まない方が良い。
「儂としてはこの村に居て欲しいが、それなら仕方ない」
「すみません」
それにこの村は、魔国から近い。
勇者でないから魔王軍と戦う義務は無い。
農民で無く土地を持っている訳でないからどこでも暮らせる。
だから、俺は達は安全な場所を目指す。俺達は自由だからな。
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