第6話 買い物
完全に手順を間違えた。
転生者で前世の知識が少しあるからって言っても只のフリーター。
結婚経験が無い……
完全にミスったよ……これ。
本当なら……
告白→綺麗な洋服を買う→ギルドで手続き→結婚指輪購入→結婚式。
多分これが正しい筈だ。
だけど、行き当たりばったりだから……
「リヒトくん、ありがとう……凄く嬉しい……私、自分の物を持つなんて初めて、本当にありがとう」
そう言いながらエルダさんは凄く嬉しそうに冒険者証と指輪を手をかざしながら見ている。
だけど……本当に失敗した。
「エルダさん、これから服を買いに行こう」
「服? 今の服で充分ですよ!」
確かに一見普通に見えるけど……
結構古い物なのか、よく見ると所々ほつれているし、色落ちもしている。
この世界は残念な事に貴族階級や余程裕福な者でないとドレスは着ない。
勿論、ウエディングドレスも同じだ。
だけど、式を挙げるなら綺麗な服を着させてあげるべきだった。
「そう? だけどよく見るとその服結構古いし、ほつれているじゃない? そろそろ買い替え時じゃないかな?」
「そんな勿体ないです。 縫えばまだまだ着れます」
「確かにそうだけど、俺としては奥さんには綺麗でいて貰いたい。だから、これは俺の我儘だから気にしないで、服を買いに行こう」
「奥さん!そうですね。私、奥さんなんですね。解りました。そう言う事ならお言葉に甘えちゃいます」
本当に綺麗で可愛らしい。
見ているだけで本当に癒されるなぁ。
「うん、思う存分甘えて」
「それじゃリヒトくんに甘えようかな」
二人で服屋に向かった。
といっても庶民の服の専門店。
冒険者で多少成功していても、オーダーメイドの服や高級品を扱っているお店の服じゃ流石に浮いてしまう。
「いらっしゃいませ! 今日はどんな服をお探しですか?」
「俺の奥さんの服を買いにきたんだ。普段着3着。それとは別に動きやすそうな服を3着位欲しいんだけど、色々見させて貰えるかな?」
「畏まりました。この辺りにあるのがそちらのご婦人の方のサイズの服になります。どうぞご自由にご覧ください」
「それじゃエルダさん。好きな服を選んで。今話した通り、普段着3着に、動きやすそうな服を3着位目案で」
「あの、リヒトくん6着も勿体ないよ。普段着1着の動きやすい服1着もあれば充分だよ」
「少し落ち着いたら旅に出ようと思うんだ。 だから、その位は用意した方が良くないかな?」
「それでも2着、2着で充分だと思うよ」
本当にエルダさんって謙虚だよな。
幼馴染のあいつ等とは全然違う。
控え目というか……うん、比べ物にならない。
「エルダさんがそう言うならそうしようか? ただ、必要になったら遠慮なく言ってね。追加で購入するからね」
「うん」
エルダさんは楽しそうに服を見て回っている。
どれにするか悩んでいて、なかなか決まらないようだ。
「良いのあった?」
「それがなかなか決められなくて……私、自分で洋服を選んだことが無いから、良かったらリヒトくんが選んでくれませんか?」
「えっ……俺?」
「はい! 私はリヒトくんの奥さんですから、リヒトくんが『綺麗』『可愛い』そう思って頂ける服が私の理想の服です」
エルダさんの境遇ならそうなるよな。
今は仕方ないのかも知れない。
でも、何時かは俺の好みの服じゃなく『自分が着たい服』を選べるようになってくれると嬉しいな。
「それじゃ、今回は俺の好みで選んじゃうよ?」
「はい」
ワンピースに近いデザインの服2枚に旅ようにセーターにズボン、皮のジャケットをそれぞれ2枚選んだ、他に下着5枚に靴下5足を購入して服屋の買い物は終わった。
「こんな物でどうかな? 他に必要な物は無いかな?」
「そうですね、私の物と言う事なら、あとは雑貨位です」
服屋で代金を払い、雑貨屋に行き必要な物を買い揃えた。
本当に、リメル達とは全然違うよな……
ライト以外は最初は質素だったのに、ライトに影響されて、彼奴らは、なんでも高価な物じゃないと満足できなくなっていった。
エルダさんみたいに好きという感情は無かったけど『いい奴だな』位の感情はあったのに、最後の方は凄く高飛車になって別人みたいで、どちらかというと『嫌いな女性のタイプ』に代わってしまった。
まぁ、もう関係ない話だ。
エルダさんは嬉しそうに服の入った袋を抱きしめている。
それだけでも物を大切にするという人柄が解る。
こんなに喜んでくれるなら『買ってあげて良かった』そういう気になるよ。
「気をつけないと転んじゃうよ」
「転んでも気にしないもん」
子供っぽく笑うエルダさんの笑顔は無邪気に見え、いつも以上に綺麗で可愛らしく見えた。
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