第5話 結婚
「ふふっ」
「どうしたの?リヒトくん、急に笑ったりして」
「いや、ちょっと昔を思い出してね」
今、俺達は宿屋を後にして冒険者ギルドに向かっている。
昔、ライトがエルダさんを連れて歩くのを見て子供ながら凄く羨ましかったのを覚えている。
エルダさんに『ついて来るな!』と雑に扱うライトにムカついたのは良い思い出だ。
「思い出ですか?」
「子供頃のね……エルダさんと一緒に歩いているライトが羨ましかったのを思い出しただけだよ」
「確かに羨ましそうにこちらを見てましたね」
「み!?見ていたの?」
「はい、もう体の形が崩れてきた私を見ていたのですから、気になって見ていました」
「そう……」
「はい、まさかそれから数日後『エルダお姉ちゃんと結婚したい』と花束を貰うなんて思いませんでした」
「恥ずかしいからやめて」
「あら? 私にとっては凄く嬉しい思い出です。今までの人生で誰かにプロポーズをされたのはあれが最初で最後でしたから」
3400歳とは知らなかったけど、長い時間を生きているから結婚位何回かしていると覚悟していたんだけどな。
「あのエルダさんは結婚した事無いの?」
「ありませんよ……私は『財産』物みたいな扱いでしたから。悪い扱いはされた事は少ないですが、高級な物でも家具や美術品と結婚する人は居ませんから」
気がつかなかったな。
エルダさんの人生は『奴隷』だった。
そして、所有者に個人の名前じゃなく『バルトマン家』の名前を出していた。
奴隷に成る前は解らないけど『家の所有』なら結婚なんて出来る訳が無いよな。
決めた。
「そう……良かった。エルダさん結婚した事無いんだ」
「残念ですが、私は、そういう対象に見られた事じたいありませんね」
「そうなんだ。あっ話しながらだと早いね」
「そうですね」
気がつくと俺達は冒険者ギルドにたどり着いていた。
◆◆◆
冒険者ギルドの扉を開け俺達が中に入ると……
すぐに受付嬢が此方に走ってきた。
「漆黒の翼のリヒト様じゃないですか? 今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「リヒトだ……」
「剣鬼、リヒトが何故此処に」
勇者パーティのメンバーだから、名前位は売れているし、冒険者としてのランクもあいつ等より劣るけどAランク。
『剣鬼』という二つ名もあるから、受付嬢が飛んでくるのも、まぁ普通だ。
「いや、能力不足で『漆黒の翼』からは抜けた。その届け出と新しくパーティを組むんで、その届け出に来たんだよ」
「そうですか」
さすが受付嬢、冷静に話してくる。
でも、目は見開いて泳いでいる。
まぁ勇者パーティの追放なんてまずないから驚くよな。
「そうですか……それではサロンにどうぞ」
高ランクだから優遇され個室へと通された。
「あの、リヒトくん……ここって凄いね」
「一応、高ランク冒険者だから、待遇が良いんだよ」
紅茶が出てお菓子も出てくるから、驚くよな。
「お待たせしてすみません。それで漆黒の翼を抜けたと言うのは本当なのでしょうか?」
やはり、あいつ等、なんの届けも出して無いんだな。
「これはパーティリーダーのライトに書いて貰った離団証明です。確認下さい」
「拝見します……本当ですね。書類に不備はありませんので、離団の届けをこちらで受理します。 これで漆黒の翼を抜けた訳ですが、今後はどうなさいますか? リヒト様の経歴なら引く手あまたで、幾らでもパーティをご紹介しますが、なんでしたら別の勇者パーティ『希望の灯』とかもご紹介可能です」
「そこに行くと同じような苦労をしそうなので遠慮します。 俺は何処かに所属するのではなく、此処に居るエルダさんとパーティを組むつもりです」
「そうですか、それなら手続きをさせていただきます。 それでは二人とも冒険者証を此方へお願い致します」
「あの……私は冒険者じゃないので持っていません」
「エルダさんは冒険者じゃないので、冒険者登録もお願い致します」
「解りました……それじゃ、書類と鑑定の為の水晶をお持ちしますね」
「お願いします」
ギルドのお姉さんが水晶と書類を持ってきてくれた。
「それではエルダさん、こちらの書類にお名前と特技をお書きください」
「リヒトくん……冒険者として使えるような特技ないんだけど、どうしよう?」
「それなら、空欄で良いと思うよ、大丈夫だよね」
「はい、構いません……それでは、こちらの水晶に右手をかざして下さい」
「はい、お願い致します」
エルダさんが手をかざすと…….
名前:エルダ
種族:古代エルフハーフ
年齢:3408歳
奴隷:所持者 リヒト
「えっ……3408歳、あっ古代エルフのハーフなら間違いじゃないですね……これで登録させて頂きます。 冒険者のランクは一番下のFからスタートです。冒険者についてのご説明は如何なさいますか?」
「それなら、あとで俺からさせていただきます」
「そうですか? それならパーティの登録ですが、エルダさんがリヒト様の奴隷ですのでスレイブでの登録で宜しいですか?」
困ったな。
先に話すべきだった。
「エルダさん俺、小さい頃『エルダお姉ちゃんと結婚したい』そう言っていたよね……それで出来たら登録を『夫婦』にしたいんだけで駄目かな?」
「あの……リヒトくん、本当に良いの? 私……」
「勿論。俺がそうしたいんだ」
「リヒトくんが良いって言ってくれるなら……私もそれが良いな」
「畏まりました、それなら『夫婦』で登録させて頂きます。はい。こちらがエルダさんの冒険者証になります。無くした場合再発行に銅貨3枚掛かりますので無くなさないように気をつけて下さい。あと夫婦とはいえエルダさんは奴隷ですので報酬の振込先はリヒト様になりますので気をつけて下さい」
「「はい」」
冒険者の届け出は、前の世界の住民証や戸籍も一部兼ねている。
この状態なら……式は挙げていないけど籍は入れた状態になったのと同じだ。
◆◆◆
冒険者登録が終わり、エルダさんと一緒に街に出た。
「あの……本当に夫婦で良かったの? 私、本当にお婆ちゃんなんだけど?」
「『エルダお姉ちゃんと結婚したい』ってあの時言った気持ちは今も変わらないよ。あの時からずうっと好きだったんだ、諦めようと何回も思っていたけど出来なかった。 本当は村でエルダさんの傍に居たかったんだけど、エルダさんを譲る権利を持っているのがライトだけだから、仕方なく勇者パーティに参加したんだ……」
「あの時から、本当に好きでいてくれたんだ……」
「うん、それで色々とフライングしちゃったけど……あらためて! エルダさん、俺と結婚してくれませんか?」
「本当に!? 本当に?私で良いなら喜んで……その、お嫁さんにして下さい」
「ありがとう……それじゃ行こうか?」
「リヒトくん、何処行くの?」
「今は内緒」
俺はエルダさんと手を繋ぎ歩き出した。
◆◆◆
「リヒトくん、此処はなんのお店?」
「貴金属店、指輪を買おうと思って」
「指輪?」
「まぁ、入ろう」
「リヒトくんが言うなら……でも、どうして指輪が欲しいの?」
「それは入ってからのお楽しみ、さぁ入ろう」
「う、うん」
「いらっしゃいませ。今日はどのような商品をお求めですか?」
「結婚指輪を下さい」
「リヒトくん、結婚指輪ってなに?」
エルダさんが驚いている。
結婚指輪を知らなかったみたいだ。
「お嬢様、夫婦になった物はお揃いの指輪を薬指にするんですよ……この辺りのケースに入っているのが結婚指輪です。どうぞご覧ください」
親切に店員さんが教えてくれた。
「と言う訳なんだ。折角エルダさんと夫婦になれたんだから、お揃いの指輪をつけたいなと思って。予算はしっかりあるから、好きなの選んで......」
勇者パーティから離れた時のお金以外にもへそくりみたいなお金が沢山あるから余裕だ。
「うん!」
エルダさんは目を皿のようにして見ている。
今迄気がつかなかったけど、エルダさんが貴金属をつけていたり、お洒落な服を着ているのを見た事が無い。
良く考えたらエルダさんの立場でそんな物持っているわけ無いよな。
俺はエルダさんとお揃いならどれでも良いんだけどね。
「決めた、リヒトくん、これが良い」
銀色の指輪で、真ん中に小さな青い石が入っていて、エルダさんにも良く似合っている。
「それじゃ、これ下さい」
「はい、金貨3枚になりますが宜しいですか? あとご希望であればこの後、結婚式をお挙げになりますか?」
「結婚式が出来るのですか?」
此処で結婚式も出来るのか......
「当店は教会の直営ですので奥に小さな式場もございます。ご希望であれば30分ほどお待ちいただければご用意させて頂きます」
横を見るとエルダさんが目を輝かせている。
これは頼むべきだな。
「それじゃ、お願い致します」
「はい、式の代金は金貨1枚でございます」
合計金貨4枚を払い二人して控室で待つ事になった。
「なんだか緊張するね」
「うん、今頃になってドキドキしてきたよ……だけどリヒトくん本当に私なんかと結婚して良いの?」
「エルダさん、実際の結婚という意味なら、ギルドで『夫婦』と書いて貰った時点でもう結婚しているんだ。 それにあの時も言ったけど、結婚して欲しいって言ったのは俺からじゃないか?」
「そうだね……でも、今でも信じられなくて……まさか私が結婚出来る日がくるなんて」
「俺もだよ……本当に夢みたいだ」
「うん」
「式場の準備が出来ました……どうぞこちらへ」
さっきの店員さんに奥へ通されると、本当に小さい教会があった。
式場には神官様が居て、見た感じでは前世と変わらないように見える。
◆◆◆
「新郎リヒトあなたは新婦エルダを妻とし
嬉しいときはともに喜び 悲しいときは寄り添い
生涯エルダを愛することを誓いますか」
「誓います」
「新婦エルダ あなたはリヒトを夫とし
病めるときも健やかなるときも リヒトを支え愛することを誓いますか」
「誓います」
「本日おふたりは 女神イシュタスに見守られて 晴れて夫婦となる事ができました。この喜びを忘れることなく力をあわせて明るく幸せな家族を築く事を誓いますか?」
「「誓います」」
「それでは、お互いに指輪をはめあい、誓のキスを……」
手を震わせながらなんとかお互いに指輪をはめ……キスをした。
「「「「おめでとうございます」」」」
4人の店員さんが紙吹雪を撒いてくれて、どうやらこれで式は終わりのようだ。
「リヒトくん……末永くお願いします!」
「俺の方こそ宜しく」
順番を間違えながらも……俺達の結婚式はこうして無事終わった。
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