第56話 ユニマ国の最後1
「ユニマ国の王都の周りを旋回してみてくれないか」
ユニマ国の王都の中を空から眺めてみたが、住民の全てが建物に籠もっているのか、街の中を動く者が1人もいない。どうなっているのだ?
「城壁の上に降りてみよう。何か罠が仕掛けられていたらすぐに飛び立とう」
「了解」
城壁の上から王都の街の様子を眺めているが……やはり誰もいない……おかしい。
いくらなんでも1人もいないなんて変だぞ!
その時だ。
街の建物の中から無数の魔虫が飛び出てくる。虫の沼どころではない物凄い大群だ。
王都の全ての民、兵も騎士も魔虫に卵を産み付けられて死んでしまったのではないだろうか?
目的は、邪神ドワブの体をほんの一部を食べさせた魔虫を増殖させることだな。
増殖した魔中同士が共食いをすれば、ドワブの体が少しずつ集まり、いずれドワブの完全体として再生していくということだな。
こんなひと粒の体の破片から、元の体を再生できるような邪神なんて、俺が倒すことは不可能だ。
体の細胞1つを食べさせた魔虫が、1匹でも生き延びれば、何度で再生できるなんて無敵の存在だ。
「女神様、ドワブは自分の体の細胞を1つでも魔虫に食べさせておけば、魔虫を増殖させて体を再生できるのでしょうか?」
「そのようだな」
「もしそうなら、小さな魔虫を1匹残さず退治しないと、何度でもドワブが再生されてしまいます。これでは、ドワブを倒すのは不可能です」
「そうなるな」
「どうしたらいいのですか? 魔虫が大好きなものは何かないですか? それで奴らを全て集めておいて、原子爆弾並みの超高温で一瞬のうちにエリアごと焼き払うか、あるいはブラックホールのようなもので、空間ごと異空間に吸い込ませるしか方法はないと思います」
「しかし、そんな力は俺にはありません。仮に持っていたとしても、危険すぎて使えません」
「フウタ、その2つのアイデアはいいと思うぞ。フウタはどちらがいい?」
「さらりと言っていますけど、そんな危険なスキルは、神様以外の者が使っていいものではないと思います。制御不能になったらどうするのですか? この世界が壊れますよ! 神様がやってください」
「実は、私も大精霊も獣神も虫が苦手なのじゃ! 済まん、フウタ頼む」
「そんな〜、そもそもそんなスキルを使ったら、俺自身も消滅してしまうじゃないですか!」
「それは大丈夫、神が保証する」
「分かりました。ではブラックホールをお願いします。それと魔虫が大好きなエサを下さい」
「エサはフウタでいいぞ。フウタは膨大な魔力を持っているからな。魔虫にとっては最上級のエサだ。ブラックホールスキルを与えておいたぞ! 検討を祈る」
「レッド、女神様に無茶苦茶危険なスキルをもらった。すべての物を異空間に吸い込ませるスキルだ。今から使うから、王都が見えないぐらい離れていてくれ」
「それと初めて使う無茶苦茶危険なスキルだし、何が起こるか分からない。死ぬかもしれない。今まで本当に世話になった、ありがとうレッド」
レッドが俺を抱きしめてくれる。
も〜、本当に俺がやらないといけないのかな?
俺は魔虫でできた巨人の周りを、ゆっくりと大きく旋回飛行する。
最高のエサである俺を目指して、魔虫がどんどん集まる。
巨人がさらに巨大化している。
巨大化しすぎて、光が遮られて周囲が真っ暗になっている。
今にも俺に全ての魔虫が飛びかかって来そうだ。
怖いな〜。体中に卵産み付けられて死ぬなんて、絶対嫌だぞ。
もう少しの我慢だ。1匹も残さず魔中を集めないと意味がないからな。
魔虫よこい……ここに最高のエサがありますよ……美味しいよ……
何周かしているが、虫はもう集まってこないようだ。
もうさすがにいいよな、集まってくる魔虫がいなくなってしばらく経ったしね。
『ブラックホールに吸い込め』と念じた。
俺の周りに防御シールドができたのが分かる。
巨人のお腹のあたりに黒い不気味な空間が生まれた。
なんでも貪欲に吸い込んでしまう空間だ。
魔虫が猛烈な勢いで吸い込まれていく。
いや魔虫だけじゃないぞ。王都の建物どころかなんでもかんでもだ、地中の土砂も吸い込んでいく。
ブラックホールから半径約1kmの空間内の、あらゆる物が吸い込まれていく。
こんなことを人間がやっていいのかな?
このブラックホールを消すことができなければ、この世界のすべての物が吸い込まれてしまうぞ。
残るのは無だぞ。
手が震える……
『ブラックホール消えろ』と念じると、ブラックホールの黒い空間がなくなる。
ブラックホールが存在した半径1kmの空間のものが抉り取られて、地面に大きなクレータができている。
このスキルは危険だ、2度と使ってはいけないスキルだと思う。
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