第55話 エーデリア王国の最後2
生き残った女性が、立ち上がってこちらの方を向く。
「あなたは誰ですか?」
俺はその女性が何者なのか確認する。
王族か何かだろうな……
「エーデリア国の王女のクリスティーナである。後ろにいる汚らわしき者どもはその方の奴隷か?」
何だ……こいつ……奴隷だと……失礼なやつだ!
「エーデリア国は滅びた。たった今からこの国は俺の国だ。もはや、お前は王女でもなんでもない。ただの人族に過ぎない。殺されたくなければ、この王宮から出ていけ」
「あのキメラオーガの攻撃は、お前らがやったことか?」
「俺たちではない。ドワブ教団がやったことだ。人族の醜い権力争いの結果がこれだ。理解できたなら、さっさと出ていけ!」
「なぜじゃ! この国を支配したいのなら、妾を妻とすればいいではないか」
「お前は、エーデリア国の王家に生まれただけの女だろう。それ以外に何か取り柄があるのか? 頭も悪そうだし、お前を妻とする理由など、まったくない。エメット、面倒だ、こいつを縛っておいてくれ」
「この汚らわしい獣人が、私に触れるな」
「エメット! そいつを1、2発殴ってもいいぞ。丁重に扱う必要などない!」
「こんな馬鹿な女! 殴る価値もありません」
クリスティーナが汚い言葉で罵り、喚き散らす。
この女が何を叫んでいるのか理解不能だ。
ヒステリー状態だ。
エメットが王女を動けないように縛る。
縛られてあきらめたのか静かになる。
「こいつを、部屋の端のその辺に転がしておいてくれ」
「フウタ様! 牢に入れられていたエルフや獣人たちを連れてきました。なぜか同じ牢にいれられていた人族もいたので、一緒に連れてきました」
「お前たちはこの国の犯罪者か?」
「この方はエーデリア国の第5王女のニーナ様です!」
「もはや王族も何もない、エーデリア国は滅びた。おまえは、なぜ牢に入っていた」
「ユニマ国のキメラオーガの話を聞き、エーデリア国でもキメラオーガを作るべきだと、ここにいるクリスティーナが王に進言しました。なんと王はその進言を聞き入れてしまい、全国からエルフや獣人たちをかき集めまたのです」
「そのような非道なことをすべきではないと、私と私に賛同してくれる者たちとで王に反対しました。しかしそのせいで、私と賛同してくれた者たちが牢に入れられていたのです」
「ところで、王というのはそこで死んでいる奴か」
「そうです」
「お前は、父親が死んでも何とも思わないのか?」
「この国の王は狂っているのです。獣人国やエルフ国を攻めたこともそうですが、自国の領土を広げることしか興味がありませんでした」
「旧ゴザリア国もユニマ国も同じです。民の苦しみを無視して兵士ばかり増やしていました。それに反対する将軍や貴族は追い払われ殺されました」
「私も王の命令により殺されそうになりましたが、クリスティーナの進言でキメラオーガを作るための実験体にされることになっていたのです」
「ニーナ、私を縛っているロープを切りなさい! 王女の言うことが聞けないの? あなたなんか、とっくに王女の資格を剥奪された平民なのよ! 私とは身分が違うのよ。分かるなら言うことを聞きなさい! 命令よ」
「このバカを、今直ぐ牢に放り込め。2度と外に出すな!」
狂ったように抵抗するクリスティーナが、攻撃部隊に引きずられながら牢に連れて行かれる。
「ニーナ! エーデリア国はエルフ王に統治してもらう。反対するもの、反乱を起こすものは俺が全て討伐する。俺はできるだけ平和に、この国がエルフ王の統治に移行してもらいたいと思っている。国名も変更する」
「俺が目指すのはエルフ族と獣人族と人族が、仲良く共存共栄する国だ。エーデリア国の王族も貴族もすべて廃止だ。ニーナ! 王女としてではなく、市民の1人として新たな国造りを手伝ってくれる気はあるか」
「もちろん、協力するかどうかは強制ではない。あなたの自由だ! このまま市井に去ってもかまわない」
「エルフ族と獣人族と人族が、仲良く共存共栄する国を作ろうとされるのであれば、寧ろ全力で協力させていただきたいと思います」
「分かった、頼むぞ! ニーナ内政官」
「アンジェ、ペアマジックバックでこの状況をエルフ王に伝えてほしい」
「フウタ様、エルフ王はフウタ様に王になれと、おっしゃるような気がしますよ!」
「とにかく伝えてくれ。何でもかんでも俺がやるのは無理だぞ。それに、これからユニマ国のドワブ教の始末に行かなければならない。放っておけば、またキメラオーガの生産設備を作ってしまうからな」
「とにかく、アンジェとエメット、エーデリア国を頼むぞ。俺はレッドとユニマ国に偵察に行ってくる」
「レッド! ユニマ国の王城に行こう」
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