第43話 ゴザリア国6

ゼピュロス国に戻った夜、レッドが俺のベッドにくる。

自分を抱けと言う。

ドラゴンを抱くとドラゴンの持つスキルが全て使える様になるらしい。


俺は正直にレッドに聞いた。


「人族の俺が、ドラゴンをどう抱けばいいのかな?」

「人族の女と同じでいいと思うぞ!」


俺はその夜、ドラゴンを抱いたのだが、大丈夫か俺……

このまま鱗が生えてドラゴンになってしまうのか……人間やめることになるのか……不安だ。 


翌日俺は、何か変わった所がないか確かめようと、裸になってみた。

鱗とか生えてないか細かく確認しけど、何にもなし、良かった。

こんなことをやっていたらレッドに失礼だ、バレないうちにやめておこう。


「レッド、スキルが使えるという話だったが、俺の体に特に変わったところはないみたいだよ」

「当たり前だ! 俺の持つ魔力の流れが、ほんの少しお前に流れ込んだだけだからな。まだこれからだ!」


レッドは、自分の手をレッドのお腹に差し込んでいく。

そんな事をして大丈夫なのか?

血とか出ないのかな。


レッドの手が、何かを掴んでいる。

お腹から出てきた手には、ダイヤモンドのように輝く石が握られている。


ドラゴンの魔石なのか!

その手が俺の腹に近づいてくる。

え……まさか……その手が俺の腹の中に、どんどん入っていく。


え〜、思わず声が出る。

血はでてないけど、腹に手が入ったら死ぬよな。

少しでも体を動かすと、とんでもない痛みがきそうで、怖くて体を硬直させる。


しかし不思議なことに痛みはない。

手は無事お腹からできてきたが、宝石みたいな石はなくなっている。

たぶん俺の腹の中というか、どこかの骨にダイヤモンドみたいなのがくっついた気がする。


「これで終わりだ。火炎と念じれば火を吐けるし、『身体強化』と念じれば体の皮膚が硬化する。硬化した皮膚はミスリルよりも固くなり、ほとんどの攻撃を弾き返す」


「キメラオーガは、今後もどんどん改良され、強化されていくと思う。そいつらにフウタが殺されないよう、お前を強化したかったのだ」


「心配してくれてありがとう。ところでキメラオーガは、今後どう強化されていくのかな?」

「たとえば、キメラオーガを1つの戦闘で使い捨てるつもりなら。もっと強力なドーピングを行えば、身体能力や防御力や俊敏性を10倍以上に強化することもできると思う」


「そうなるとさすがに苦しくなりそうだな。どうしたらいいのだろう」


「武器は最低でもミスリルの剣が必要だ。それとお前の体に入れた魔石だが、もっと大きく成長させないと、大したパワーは出せないぞ。成長させるためには私が教える呼吸を行え。毎日だぞ! 時間は1時間でいい。場所は大いなる神気に溢れたドラゴンヒルだ」


「それと肉体の筋肉量を増やせ! 最低でも今の2倍は必要だ。でないとドラコンの魔力に、お前の体がついていけなくなるぞ」


「分かった。言う通りにする。ところで俺とレッドの間に子供は生まれるのかな?」

「ドラゴンと人間の間に子供ができたという話は聞いたことがない」


あれから俺は、午前中はドラゴンヒルで、レッドから呼吸法の指導を受けている。

大いなる神気を体中、正確にはレッドに入れてもらった魔石に溜め込むための呼吸方法になる。


午後からは、筋肉を付けるための訓練だ。

ドラゴンヒルの麓から、素手でドラゴンヒルを登り切る。

夕方、クタクタになってゼピュロス国に戻る。


その毎日をひたすら繰り返す。


訓練を始めて既に60日になる。

体の中を何かがグルグル回っているのが分かるようになる、日に日に大きくなるこの流れが、きっと魔力なのだろう。


レッドの指導で、体の筋肉量がどんどん増えてきている。

60日間の訓練で、普通こんな体にはならないと思う。

やはりレッドからもらった魔石の効果なのかもしれない。


それにしても、この訓練はいつまで続ければいいのかな。

まさか100年とか200年とか言わないよな! 

俺は無限の命を持っていないからね。


ゼピュロス国に戻ってから、ゴザリア国のキメラオーガを倒す方法をずっと考えている。

「アンジェ、エメット、ユニマ国とゴザリア国とは仲がいいのかな?」


「ユニマ国とゴザリア国、エーデリア国の3国は、仲が良くありません。どの国も軍事力を背景にした覇権主義の国ですから」


「基本的にどの国も、隙あれば他国を侵略して自分の領地を広げようと考えています。3国の軍事力が拮抗しているため、戦争に発展していないというのが現状です」


「加えて、それぞれの国境には、強力な要塞が建設されています。その要塞も戦争の大きな抑止力になっていると思います」


「ユニマ国とゴザリア国との間には、どんな要塞が建設されている?」


「ユニマ国とゴザリア国とをつなぐ街道の途中に、ジョサハ峡谷と言われる急峻な谷があります。その峡谷が2カ国の国境になっているのです。ゴザリア国は、ユニマ国からの侵攻を防ぐため、その渓谷に、延長100m、高さ30mもある壁を建設しました。」


「その巨大な壁には、防御施設である側防塔そくぼうとうがたくさん設けられて、3000人の兵が常駐しています。過去に、ユニマ国からの侵攻を何度も撃退したことから、難攻不落のジョサハ要塞と呼ばれています」


「もしも、その壁を壊せばどうなるのかな?」

「ユニマ国は、躊躇なくゴザリア国に攻め込むでしょう」


「それはいいね。壁を壊してユニマ国に攻め込んでもらおう。ユニマ国軍とゴザリアのキメラオーガ軍で潰し合ってもらおうじゃないか! しかし壁をタダで壊すのはもったいないな、エルフ国からユニマ国に対して、取引はできないかな?」


「ユニマ国の北の鉱山でミスリル鉱が取れると聞いたことがあります」と、エメットが教えてくれる。


「ミスリル鉱をもらうことにしたらどうかな。使者にはエルフ国から行ってもらうのがいいな。戦後協議で伝手もできているだろうからな。壁を壊すのは俺がやるよ」

「エルフ国のパトリック将軍に、使者として頑張ってもらいましょう」


「そうだな。アンジェ、明日にでも一緒にエルフ国に行ってくれないか?」


翌日、俺はレッドの背に乗ってアンジェとエルフ国に移動する。

俺の眼の前で、アンジェが国王とパトリック将軍に昨日の話をしている。

考えてみたら俺も忙しいけど、アンジェもずっと忙しいよな。


それから2ヶ月が経った。俺はこの2ヶ月の間もドラゴンヒルで特訓を繰り返している。

まだ試していないけど、体に力が漲っているのを感じる。


待望の連絡が、アンジェのペアマジックバックに送られてくる。

エルフ国がジョサハ要塞を壊す代わりに、ユニマ国からミスリル鉱を大量にもらうという取り決めが、エルフ国とユニマ国との間で結ばれたようだ。


「アンジェ、今から言うことをペアマジックバックで、王妃経由でエルフ王に伝えてほしい」


「本日から2週間後に、俺たちがジョサハ要塞を破壊する。今日にでも船でユニマ国に向かい、王妃の持つペアマジックバックを持たせた使者を、ユニマ国の王都で待機させてほしい」


「ペアマジックバックにより、ジョサハ要塞の破壊成功の連絡を受けたら、直ぐにそれをユニマ国に伝えてほしい。ジョサハ要塞の破壊を確認すれば、ユニマ国はゴザリア国に向けて軍を侵攻させるはずだ、侵攻の開始を確認したら、契約の履行を再度念押ししてさっさと帰国する」


アンジェが文章を書いて送ると、ペアマジックバックで了解したと言う内容の返事がくる。

これで準備はOKだ。


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