第44話 ジョサハ要塞

俺とアンジェとエメットとレッドは、それぞれ飛行してジョサハ要塞に到着する。

ドラゴンがジョサハ要塞の破壊に関わったことは、表に出ない方がいいと思い、レッドには人の姿になってもらっている。


万能棒に『ロケットランチャーになれ』と念じる。万能棒がロケットランチャーに変形する。

巨大な壁の中央部に設けられた門の上部に向かってロケットランチャーでミサイル弾を撃ちまくる。


構造的にはここが一番弱いはずだ。

アンジェとエメットも魔弓の矢と魔槍で壁を爆破していく。

レッドも人の姿で火球を撃ち込んでいる。


少しずつ壁が壊れているが、ガラガラと壁が崩壊するには、少し時間が掛かりそうだ!


『日本刀になれ』と念じると、ロケットランチャーが日本刀に変形する。

飛行スキルで壁の上部まで飛び上がる。


『空間よ、裂けろ』と念じながら、壁の上部から門の上まで縦に切り裂いた。

壁に黒い歪が縦に1本できる。


ドラゴンヒルで特訓し、俺自身の潜在能力が高まったのか、空間を切り裂く力も数段パワーアップしているようだ。


「レッド! アンジェ! エメット! この黒い歪の中ではなく、黒い歪ができている周辺を破壊してくれ」


俺も日本刀をロケットランチャーに変形させて、4人それぞれが、壁が崩壊するまで何発も攻撃を継続する。

壊れた壁が、黒い歪に吸い込まれていく。

ついに壁の中央部が崩壊し始める。


試しに『炎の剣になれ』と念じてみた。ロケットランチャーが剣に変形する。

剣が燃えている。

剣を上段に構え、『火球』と念じながら、壁に向かい振りおろしてみる。


レッドが放つ火球よりも更に大きな火球が、壁に向かって放たれる。

火球が当たった壁が爆発して、粉々に吹き吹き飛ぶ。

壁中央部が完全に崩壊する。


あれ……俺! 何かすごくパワーアップしてない! 

……どんどん人間離れしてきているのね!

まだ俺は人間なのか……これでいいのか……


ジョサハ要塞の側防塔から、恐怖に震える兵士がことの成り行きを見つめている。

ジョサハ要塞の中央部が完全に崩壊したため、要塞としての防御力は無くなってしまう。


兵士たちは、ユニマ国が大軍で攻めてくれば逃げ出すしかないだろう。


ジョサハ要塞が壊れたことを知れば、ユニマ軍はゴザリア国に間違いなく攻め込むに違いない。

そうなればユニマ軍とキメラオーガとの戦いになるだろう。

双方が存分に疲弊してほしい!


俺たちは、一旦ゼピュロス国に戻ることにする。

アンジェにペアマジックバックで、ユニマ国で待機しているエルフ国の使者に、破壊成功の連絡をしてもらう。


エルフ国の使者から連絡を受けたユニマ国は、大急ぎでジョサハ要塞の破壊を確認するはずだ。

確認が取れ次第、ゴザリア国に向けて大軍を送るだろう。

そういう国だ……


ジョサハ要塞の破壊成功と、それによってユニマ軍とキメラオーガの戦闘が直に始まることを、アンジェとエメットから獣人国やエルフ国、魔王国、シルティ国に伝えてもらう。


サイレント部隊には、ゴザリア国の王都を見張るように指示している。

キメラオーガの出撃を知るためだ。


王都の近くに設けたサイレント部隊の隠れ家に、俺とエメットも交代で常駐するようにする。


キメラオーガの出撃はまもなくだろう。

出撃すれば、そのことを直ぐにジレネに知らせてやるつもりだ。

ジレネ軍にとっては王都奪還の千載一遇のチャンスとなるはずなのだ。


ジレネ軍が王都を奪還し、キメラオーガ計画を企てた神官や協力した貴族をすべて討伐する。

ユニマ軍とキメラオーガの双方が壊滅してくれれば、これで一件落着となるのだが……そう簡単にはいかないだろうな!


偵察部隊から、ジョサハの壁が崩壊したことを知ったユニマ国が、ゴザリア国に侵攻を始める。

さすが軍事国家だ、動きが素早いというか、ハイエナみたいな国だな!


半月が経過する……

既にユニマ国軍5万は、ジョサハ要塞に到達する。

ジョサハ要塞の守備兵は、既に逃亡しているため、抵抗なく国境を通過する。

国境を通過したところで、後続の補給部隊からの糧食の補給を受ける。

2日休養を取り、万全の体制でゴザリア国内に進軍を開始する。


ユニマ国軍が、ジョサハ要塞を通過した報を受け、ゴザリア国王都から、キメラオーガ3000体と騎士団500人が出撃する。

俺はジレネに、キメラオーガが王都から出撃したことを知らせてやった。


ジレネ軍は直ぐに出撃するはずだ。

ジレネ軍にとっては、王都奪還の千載一遇のチャンスなのだ。


キメラオーガを率いるゴザリア国軍は、数日後にゴザリア国北部でユニマ軍と対峙するだろう。

ユニマ国軍5万対ゴザリア国軍3500だ、さすがにキメラオーガ軍も苦戦するはずだ。

ゴザリア国の北部で、キメラオーガとユニマ軍が、長期に渡り戦闘を繰り返してくれるのが最良の展開なのだ。


しかし結果はどうなるか分からない。

ユニマ軍が瞬時に撃退されてしまう可能性も考えておかないといけない。

そうなった場合、ジレネ軍の王都奪還戦が完了する前に、キメラオーガが王都に戻ってきてしまう可能性がある。


従って、ジレネ軍は王都奪還戦を急がなければならない。

頑張れよ、ジレネ!


キメラオーガとユニマ軍は、ゴザリア国の北部で対峙する。

ユニマ国軍5万対ゴザリア国軍3500である。

アンジェとエメットには、その様子を偵察してもらっている。

ユニマ軍が瞬時に撃退されてしまった場合には、大急ぎで知らせてもらわないといけないからだ。


ゴザリア軍は、騎士団500とオーガ3000だけの異様な軍である。

ユニマ軍は、ゴザリア国軍が率いるキメラオーガについての情報は何も持っていない。

俺たちが知らせていないからだ、もし知らせればユニマ軍がゴザリア国に攻め込むことを止めるかもしれないからだ。


ユニマ軍は、眼の前に並ぶオーガが、自分たちが知っているオーガだと思っている。

オーガについては討伐経験もあり、戦闘力や弱点も熟知している。

つまり勝てる戦い方を知っているのだ。


眼の前に、オーガが3000体いたとしても、5万の軍勢の敵ではないと楽勝ムードになっている。

寧ろ、3000体しかいないのかと侮り始めている。

5万の軍勢を前にすれば、ゴザリア軍の方から、直に降伏の使者が来るだろうとのんびりムードだ。

兵も将も、気が抜けている。


その時、突如キメラオーガが動き始める。

進軍速度が速い、討伐してきたオーガをなど、比較にならないスピードだ。

怯むことなく、ユニマ国の大軍5万に襲いかかる。

大軍5万人の中央部の第1陣が簡単に崩壊する。


キメラオーガ軍は2陣3陣と、次々と速度も緩めず突破していく。

勢いが止まらない。

ユニマ軍に恐怖心が生まれ始める。


防御力が5倍となったキメラオーガには刀も槍も弓も効かない。

攻撃力と俊敏性も5倍になったキメラオーガの巨大な鉈により、ユニマ軍の兵士が只々斬り殺されていく。


しかもキメラオーガには、まるで疲れた様子などない。


後方の司令部に陣取る将軍たちに、キメラオーガが迫ってくる。

司令部の前には魔法騎士2000人が待ち構えている。


魔法騎士たち2000人が、一斉に魔法攻撃を開始すれば勝負はつくはずだ。

まだ慌てる必要はない、勝利はこちらのものだ、司令部では勝利を疑わない。


しかし魔法騎士たちの魔法が使えない、魔法が無効化されている! 

魔法攻撃ができない、恐怖が支配する!

魔法が使えない魔法騎士など何の役にも立たないのだ。


魔法騎士たちが一蹴される。ただ、ただ殺されていくだけだ。


司令部の前には最後の防御陣として、剣技スキルを持った騎士団2000人が守備についている。

ここでキメラオーガの突進を止められなければ、ユニマ軍は負ける、ボロ負けだ。


5万人の軍を率いての敗戦だ。


生きて帰っても粛清されることは間違いない。

司令部の将軍たちは覚悟を決める。

騎士団2000人と共にオーガと、命がけで戦うことを決意する!


覚悟を決めた騎士団は頑強だ。

キメラオーガ3000人と真っ向から切り合う。

ユニマ国の剣技スキルを持った騎士団は強力だ、歴戦の勇者でもある。


防御力が5倍となったキメラオーガであっても深手を負わせていく。

キメラオーガを倒してしまう騎士もいる。


しかし時間が経てば、疲れないキメラオーガと、疲れが蓄積する騎士団の勝敗は明白なのだ。

騎士団は壊滅してしまう。


ゴザリア軍の勝利が確定する。


しかしキメラオーガの方の死亡率も3割となっている。

残りのキメラオーガも無傷なものはいない。


それも対してユニマ軍の方は、騎士と将軍がほぼ全滅している。

生き残った者も、深手を負い辛うじて生きている状態だ。

兵士の死亡率は3割、深手を負っている者が4割だ。


動ける騎士や兵たちは、ボロボロの状態となり王都を目指して逃げていく。


キメラオーガと騎士団もゴザリア国の王都に引き返す。

生き残ったキメラオーガもさすがに傷だらけの状態だ。

しかし時間の経過とともに、彼らの持つ強力な再生回復能力により怪我が治り始めている。


アンジェとエメットは、勝利したキメラオーガが引き返し始めたことを知らせるために、大急ぎで王都に引き返す。



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