第36話 人族、エルフ族、獣人族2

ゼピュロス国の住民が増えている。

エルフ国からも、300人のエルフと獣人たちが船でやってきてくれた。

内政を担当できるエルフも2人来てくれた。


一気に住民が増えたため、王宮の会議室に主だったものを集めて会議をしている。

始めて会議室を使ってみた。


参加メンバーは、俺とレッド、アンジェ、エメット、アリス、エルフ国からの年配の内政官フリッツとハンス、マーベリックにドアーフの代表のダビドだ。

グレーは面倒なのでパスするそうだ。


「ゼピュロス国の住民が約500人に増えた。それぞれの種族のまとめ役だが、エルフ族はアンジェ、獣人族はエメット、人族はアリスさんだ」


「ゼピュロス国の大方針は異種族で仲良く平和に暮らす国にすることだ。食べ物は魔法の種もあるし、農業スキルで荒地を農地に変えていくこともできる。ゼピュロス国が食糧不足になることはない」


「フウタ様! できればアリスさんではなく、アリスと呼び捨てで呼んでいただけないでしょうか! その方が人族にも親しみを持っていただいている気になります」

「分かりました。今後はそうします」


アリスも気を使っているな。


「ゼピュロス国は、北にグルニヴスの森があるためゴザリア国から陸路で攻め込まれることはありません。海から攻めようとしても、同盟している魔王国の横を横切ることになるため簡単には攻め込めません」


「それと、ユニマ国やエーデリア国が、連合して侵攻してきた場合にも対抗できるように、エルフ国と獣人国と魔王国とは同盟を結んでいます」


「ユニマ国とエーデリア国とエルフ国は不可侵条約を結んでいます。しかしユニマ国とエーデリア国の2国などは、まったく信用していません」


「そしてゴザリア国ですが、この国とは戦争状態ではありませんが、エルフや獣人たちを奴隷にしているため、敵対国と考えています」


「また、ユニマ国やエーデリア国とゴザリア国には、ゼピュロス国のことは、まだ知られていないと思います。外交に関する現状はこのようなところです」


「従って、ゼピュロス国の交易相手は、同盟国であるエルフ国と獣人国と魔王国、そしてドラゴンヒルのドラゴン族となります」


「住民は約500人となりました。受け入れ体制が整えば、希望者を順次受け入れていく予定です」


「しかし住民の総数は、当面は最大1000人ぐらいに留めていきたいと考えています。まずは、このくらいの人数で、異種族の融和を図る体制を構築してみようと思います」


「ゼピュロス国には2体のドラゴンがいます。ドラゴン族の王妃のグレーと、王女のレッドです。グレーはドラゴン族最強であり、少し気難しいところがあるので、対応には十分気をつけて下さい。お願いします」


「異種族の融和や国の運営については、アンジェとエメット、アリスにお願いしています。俺とレッドは、主にこの国の防衛に注力していきたいと思います」


「ところで、もしもこの国が侵略された時に、兵士に志願してもらえる者は住民500人の中に、どのぐらいいるのでしょうか?」


「兵士は男だけとするなら、数名ですね。」と、アンジェが答えてくれる。

「そうなるとゼピュロス国の防衛は、敵が海にいる間に叩いてしまわなければいけないということになるな!」


「アンジェとエメットは、神様から飛行スキルを与えてもらっているな! 空から攻撃して船を沈められ魔道具がないか、エルフ国と獣人国に聞いてみてくれないか?」


「分かりました。さっそくペアマジックバックで母に確認してみます」

「私も後で獣人国に飛んでいき、獣人王に聞いてきます」


「さて次の話だが、ゴザリア国で奴隷にされている獣人やエルフの救出をやりたい。そのためには、どこに奴隷がいるかという情報が必要となる。またゴザリア国に滅ぼされた国の人たちの情報も知っておきたい」


「情報は私たち商人に任せて下さい。奴隷された者の情報や、シルティ王国やユーラム王国などの生き残り情報は、商人ネットワークで探し出しましょう」と、マーベリックさんが答える。


「危険な仕事にならないか?」


「危険かもしれませんがやらせて下さい。ゴザリア国に滅ぼされた国の騎士や兵士たちの生き残りも、奴隷にされています。今でも森に逃げ込んだり、スラムに隠れたりして何とか生き伸びている者も多いのです」


「シルティ王国には、サイレント部隊という名前の、潜入とか調査を得意とする人たちの部隊がありました。ゴザリア国の侵攻時にバラバラになってしまいましたが、少数単位でいろいろな場所に潜んでいると思います。この人たちであればそういう仕事は得意だと思います」と、アリスが答える。


「そういえばアリスが住んでいた城は、今はどうなっているのかな?」


「シルティ王国はゴザリア国の南側にありました。しかしゴザリア国の猛攻撃により、城も都市も焼け落ちてボロボロにされました。その廃墟がそのまま放置されています。ひょっとすると盗賊などが住み着いているかもしれません」


「たとえばこんな作戦はどうですか。俺は建設スキルを持っているので、城の修復など簡単にできます。まずシルティ城を修復します」


「俺とレッドとグレーでその城に行き、ドラゴン2体で城の周りを飛んだり、城門の上に立ったりしてもらいます。周りから見ればドラゴンが城に住み着いてしまったと思うでしょう。そうなると誰もシルティ城には怖くて寄り付かなくなると思うのです」


「そういう状態にしておいて、マーベリックさんの知りあいの商人たちに『ドラゴンによって、シルティ城にアリス姫が捕らわれている』という噂を流してもらいましょう。そうするとどうなりますか?」


「シルティ王国の生き残りの人たち、特にサイレント部隊の人たちは真偽を確かめにやってくるでしょうね。そういう人たちを、シルティ城の中に取り込んでいくということですね」とアリスが答える。


「その通りです。ドラゴンが2体もいたら、ゴザリア国は絶対に手を出さないと思います」


「アリス! ここにいれば平穏に暮らせますよ。それでもシルティ城に行きますか?」

「是非、やらせて下さい」


「決まりだな。アリスの不在の時に人族をまとめる者を決めておいて下さい。出発は3日後にしましょう」


「参加メンバーは、俺とレッドとグレーに、アリスとシルティ王国の有志、商人の有志としましょう。アンジェとエメットは俺がいない間、俺の代行としてゼピュロス国を頼む」


翌日、俺たちはレッドとグレーの背になって、シルティ城に飛ぶ。

同行してほしい事をレッドからグレーにお願いしてもらったが、退屈していたから丁度いいと返事をもらったそうだ。


上空から見るとシルティ城は、本当に廃墟だ。

城壁の内側の旧王都も全て廃墟になっている。


復活の目を完全に潰したかったのだろうけど、ここまでする必要があったのか? 

ますます人族が嫌になってくる。


廃墟になったシルティ城の王宮の中庭に降りる。

俺とアリス以外は城壁の内側に住み着いている盗賊とかがいないか、調査してもらうことにした。


その間に、アリスに聞きながら、建設スキルを使って王宮をどんどん修復していく。

王宮の修復は3時間もかからなかった。


もちろん建物だけとなる。

王宮の中の調度品や装飾などは全て持ち去られているから、部屋の中は空っぽのままなのだ。


レッドたちが戻ってくる。

盗賊が100人程度住み着いていたが、レッドとグレーがドラゴンの姿に戻ると、飛び跳ねるように逃げて行ったそうだ。


王宮が元の姿に戻っているのを見て、全員が驚いている。


今度はレッドの背に乗せてもらい城壁の上を飛行してもらう。

レッドの背から、建設スキルで城壁や城門をどんどん修復していく。

城を囲む都市の住居はそのままだが。外から見れば、シルティ城が復活したように見えることだろう。


グレーに睨みを効かせてもらう場所を作ろう。

城門の上にドラゴン像が何体も城を守るようにデザインした荘厳な建物を増設する。

さらに城壁の正門にドラゴンのレリーフを刻み込んだ。


なかなか迫力があるな。

誰が見てもドラゴンの城だと思うだろう。

その場所でグレーに睨みを効かせてもらえば、ゴザリア国の軍隊など怖くて近寄れないはずだ。


城門を眺めているアリスや、シルティ王国の有志、商人の有志たちが、シルティ城の復活に歓喜している。

アリスも涙を浮かべている。

王都攻防戦から落城に至るまで、いろいろなことを思い出しているのだろう。


シルティ城の体裁は整う。

次は商人ネットワークに『ドラゴンによって、シルティ城にアリス姫が捕らわれている』という噂を流してもらおう。

それと同時に、奴隷たちがどこにいるのかの情報も集めてもらおう。


俺はマーベリックさんに、マジックバックから金貨を取り出して渡す。

かなりの量だが、マジックバックには無限に入っているからね。

協力してもらう商人への謝礼が必要になるはずだ。


マーベリックさんたちは、俺がお金をたくさん持っていることに驚いている。

そして安心もしている、何と言っても商人の武器はお金と交渉術だからだ。


レッドの背に商人たちを乗せて、商人たちの伝手のある街を移動して回る。

伝手のある商人たちへの依頼が終われば、また次の街に何度も移動を繰り返す。


伝手のある商人たちへの依頼を終えて、シルティ城に戻る前に、多量の食料と生活用品、その他必要そうなものを商人たちに購入してもらい、片っ端から俺のマジックバックに詰め込む。

アリスたちは、シルティ城にずっと住むことになる。


『ドラゴンによって、シルティ城にアリス姫が捕らわれている』という噂により、シルティ王国の生き残りの人たちが、この城に集まってくるからだ。

アリスがいなければ話にならないのだ。


特に、我々の目や耳になってくれるサイレント部隊には、早く戻ってきてほしい。


アリスとシルティ王国の有志たちとグレーを残して、俺は取り敢えずゼピュロス国に戻ることにする。

噂の効果が出るには、最低でも1ヶ月は掛かると思うからだ。


しばらくは、定期的にゼピュロス国とシルティ城を往復して、シルティ王国の生き残りの人たちの集まり具合を確認し、必要に応じて物資の補給をすればいい。

また、来る度に建設スキルで住居も建設しよう。


「アリス頑張れよ! 危なくなったらグレーに乗って、いつでもゼピュロス国に逃げてくればいいからな。他のものも一緒だ。自分の命を大事にして下さいね」


「修復していただいたシルティ城に再び住めることは、私にとってこれ以上の喜びはありません。私はたとえここで殺されたとしても本望です」と、アリスもシルティ王国の有志たちも泣いている。


翌朝、俺たちはゼピュロス国に戻る。

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