第35話 人族、エルフ族、獣人族1
皆でゼピュロス国に戻って来る。
レッドとグレーに王宮の中庭に降りてもらう。
アンジェとエメットが中庭に走ってやって来る。
しかし、レッドの背に乗る人族たちを見た途端に、険しい表情になってくる。
「フウタ様! なぜ人族がここに?」と、アンジェは険しい表情のままだ。
「この人たちは、シルティ王国の人たちだ。シルティ王国はゴザリア国に滅ぼされたそうだ。国を脱出し、グルニヴスの森に隠れていたところを、オーガに食料として捕まっていたところを助けた。それと、シルティ王国では奴隷制度はなく、人族とエルフや獣人が仲良く暮らしていたそうだ」
「シルティ王国の王女のアリスです。ゴザリア国の人族が皆様に大変ご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません。皆様の怒りはご尤もですが、国を滅ばされた私たちには行くところがありません。ゼピュロス国に住まわせていただけないでしょうか。どうかお願いします」
「アンジェとエメット、どうする? お前たちが嫌だということはしたくない!」
「シルティ王国では奴隷制度はなく、人族がエルフや獣人と仲良く暮らしていたということですし、行くところがないのであれば仕方ないと思います。ただし、あなた達には知っておいて頂きたい事があります!」
「私はエルフ国の王女、そしてこの方は獣人国の王子です。ともにユニマ国とエーデリア国の連合軍に侵略され多くの国民が殺され、奴隷にされています!」
「祖国の侵略から逃げ出し、ゴザリア国に逃げ込んだ国民も、ほとんどが捕らえられ奴隷にされています! 奴隷にされた者たちがどんな悲惨な生活をしているかと思うと、私たちは胸が張り裂けそうです!」
「もしも、人族が同じことをされたらどうですか? 許せますか!」
「本当に申し訳ありません! 我らシルティ王国の生き残りは、ユニマ国やエーデリア国、ゴザリア国に、奴隷として囚われているエルフ族や獣人族の方々を解放するお手伝いを、させていただくことを誓います。またこのゼピュロス国を守るために、命を賭けて戦うことを誓います!」
アリスの後ろで控えるシルティ王国の人たちが、跪いている。
アンジェとエメットが、彼らがゼピュロス国に住むことを、不本意ながらも認めてくれて良かった。
「シルティ王国の人たちが、ここに住むことを認めてくれてありがとう」
「紹介が遅れたが、この方はレッドのお母さん、つまりドラゴン族の王妃様だ。ゼピュロス国に住むことになったのでよろしく頼む。この世界最強のドラゴンだ! よろしく頼む」
「妾はグレードラゴンじゃ! フウタのことが気に入ったので、ここに住むことにする! 妾のことはグレーと呼んでもいいぞ」
アンジェとエメットは、シルティ王国の生き残りをゼピュロス国に住まわせるかどうかの話で、興奮し過ぎていたが、グレードラゴンの凄まじいオーラで体がフラフラするのを感じる。
レッドドラゴン様よりも強烈だ、座り込みたくなる。
アンジェは、シルティ王国の王女に視線を向けた。
ゼピュロス国に住まわせてもらうまでは必死だったのだろう、交渉が終わり安心したのか座り込んでいる。
彼女の家臣たちも同様だ。
それにしても「ゼピュロス国に住むことになったのでよろしく頼む」とか、相変わらずフウタ様は何も感じないようだ、やはり普通ではない!
フウタ様の妻になったのだから、ここで座り込むわけにはいかない!
「フウタ様のもう1人の妻のアンジェです。エルフ国の王女でもあります。よろしくお願いいたします」
アンジェさんも頑張って挨拶しているのに、重圧に負けてはいられない。
「獣人族の王子エメットです。よろしくお願いいたします」
何とか挨拶は言えた……もう休みたい……くらくらする。
ドラゴン族の王妃であるグレーには、専用の小城を建設することにしよう。
皆がグレードラゴンのオーラを受けて苦しそうだ、場所は街から少し離れた所にしておこう。
シルティ王国の人たちが住むところだが「街には空き家がいっぱいあるので、好きなところに住んで下さい」と言ったらすごく喜んでいる。
シルティ王国の人たちと、エルフや獣人たちがこれから仲良くやってくれるといいのだが。
新メンバーが加わったことだし、ここは久しぶりに歓迎会を開くことにしよう。
歓迎会と聞いて、グレーが張り切っている。
鳥系や牛系の魔物を大量に捕まるべく、グルニヴスの森に飛び立っていった。
グレーには、レッドを通じて「俺以外の者が近くにいる時には、オーラを抑えて下さい」と、お願いしておいたから、歓迎会は大丈夫だろう。
レッドと俺は、酒類やパンやチーズなどの食材と、新メンバーのための日用品を買いにデラザに向かう。
デラザの街に再び入る、少し懐かしく感じる。
歓迎会があるから早くゼピュロス国に戻ろうと思い、急いで買い物を済ませていく。
その時、後ろからマーベリックさんに声を掛けられるが、いつものニコニコ顔ではない。
何かあったのかな?
「フウタさん、すぐに逃げた方がいい。シルティ王国やユーラム王国の……残党狩りをやっています。捕まれば奴隷にされます!」
俺の中で、またまたゴザリア国への怒りが大きくなっていくのを感じる。
「分かりました。貴重な情報ありがとうございます」
その時だった、兵隊が10人ほど俺たちの周りを取り囲む。
「貴様! 身分証を見せろ!」
レッドが威圧すると、兵士たちは動けなくなる。
俺たちはそのまま城門の方に走る。走りながら元の場所を振り返る。
兵士たちが、マーベリックさんに尋問している。
マーベリックさんが殴られて縄を掛けられている。
俺たちは一度デラザの門から外に出る。
その後、一度ゼピュロス村に戻ったものの、やはりマーベリックさんのことが気になる。
皆に歓迎会を1日延期すると伝えて、急いでデラザに戻る。
デラザ近くの森で日が暮れるまで待つことにする。
日が暮れた後、レッドは人の姿になり、俺とともに飛び立つ。
「デラザの中庭が見えるところに降りたいが……そうだ、あの木の後ろがいい」
木の後ろに降りて中庭の様子を伺う。そこには縄を打たれ、地面に座り込んでいる人たちが40人ぐらいいる。そこには、なんとマーベリックさんや、その娘さんや侍女さんもいる。
なぜマーベリックさんたちが捕まっているのだ?
万能棒を持って『クロスボウ』と念じる。
クロスボウで、見張りをしている兵士を倒していく。
兵士がすべて倒れた後でマーベリックさんに走り寄る。
「なぜマーベリックさんのような、普通の市民が捕まるのですか?」
「シルティ王国やユーラム王国で、商人をやっていた者たちを捕まえているのです。私たちの財産没収が狙いなのです!」
「一緒に逃げましょう!」
マーベリックさんたちのロープを切る。
「私たちも連れて行ってほしい!」と、周りにいる全員からお願いされる。
総勢で40人ぐらいだ。
「レッド! ドラゴンの姿になってくれないか」
レッドがドラゴンだったと分かると、全員が恐怖で動けなくなる。
「怖がっている場合ではないですよ! 兵隊が駆けつけてきます。急いでドラゴンの背に乗って下さい。空から落ちないように、このロープで自分の体をドラゴンに縛りつけて下さい」
兵士が駆けつけてくると聞いて、40人がテキパキ動き出す。
全員がドラゴンの背に乗り終わる。
「レッド! さっきの森まで飛んでくれ」
「了解」
「飛びますよ! 落ちないようにしっかりと掴まっていて下さい」
兵士が異変に気づいて集まってくるが、ドラゴンに攻撃しようとする者はいない。
兵士全員が不思議なものを見るようにポカンとしている。
森に着地する。
「皆さんに確認します。良く聞いて下さい。私の国ではエルフ族も獣人族も人族も一緒に暮らしています。エルフ族や獣人族は奴隷だ、人族は彼らより偉いと思う人はこの中にいますか? そういう方は、ここでお別れさせていただきます!」
「シルティ王国では、エルフ族も獣人族も人族も、皆が仲良くやっていました。私たちは元々シルティ王国の商人です。奴隷とかと考える人間はこの中にいません! それに私たちはもう帰るところがありません。フウタ様の国に連れて行っていただけないでしょうか!」
「皆さんもマーベリックさんと同じですか!」
全員が頷いている。
「再度ロープをドラゴンの体と自分の体に巻き付けてください。それが終わり次第、ゼピュロス国に向けて飛び立ちます」
1時間後、40人をレッドの背に乗せてゼピュロス国に戻る。
アンジェとエメットとアリスが駆け寄って来る。
「アリス王女! 無事でしたか!」と、マーベリックさんが叫んでいる。
40人がアリス王女に駆け寄り、ここに来た経緯を話している。
アンジェとエメットも話を聞いている。
「マーベリックさん。40人は全て商人とその家族ということですね?」
「そうです。シルティ王国で商売をしていた者ばかりです。商人としての腕は確かです」
「街に住居はたくさんあります、安心して下さい。ただし、ここに住むエルフ族や獣人族たちの話を、アリスさんからしっかりと聞いておいて下さい。くれぐれも住民の和を乱さないようにお願いします」
「フウタさん、レッドドラゴン様、お久しぶりです。マーベリックの娘のマディです。ゼピュロス国に、商人が役に立ちそうなことはなんでも申し付け下さい。私も商人の娘として頑張りますよ!」
「マディさん! ありがとう。商人の皆さんの力を借りる時がすぐにやって来ると思います。まずは、いろいろなことをアリスさんから説明を受けて下さい」
明日は、延期していた歓迎会を行います。
全員で楽しみましょう。
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