第34話 グレードラゴン2

左斜め前に踏み出して、オーガキングの巨大な鉈をギリギリの間合いで避ける。

踏み出しと同時に、オーガキングの膝に向けて刀を横に払う。


オーガキングの大きな足が、膝の少し上の位置で切断される。

振り抜いた刀の刃筋にブレはない。


ほとんど抵抗なく大きな足を両断することができた。

オーガキングの動きが止まる。


オーガキングの足が切断されたため、バランスを崩し地面に手をつこうとした瞬間、下がってきたオーガキングの首を切り落とす。


「レッド! オーガたちを燃やしてくれないか。このまま、他の魔物に食われるのは可哀想だ」

「分かったぞ」


フウタめ、なかなかやるではないか!

無駄のない動きに見惚れてしまったぞ!

しかし、あいつが持つ武器が放つオーラは尋常ではない、神器ではないのか?


フウタは神の加護を受けているとレッドが言っていたが、神もこんなものを人族に与えて良いのか? 

レッドがフウタに興味を持つ理由が分かる。

こいつ……面白いじゃないか……良いもの見つけた……


レッドがオーガたちを火球で燃やしてくれ、オーガの死体が燃え上がっている。


その時……奥の洞窟の中から声が聞こえてくる。

「助けて下さい! 助けて下さい! 洞窟から出して下さい! お願いします」


俺は用心しながら、その洞窟に近づいていく。

洞窟の入口は格子状の檻になっていて、中を覗くと30人ぐらいの人族が閉じ込められている。


「格子を切ります。後ろに下がって下さい!」

中の人たちが後ろに下がる。


丸太で作られた格子を、数カ所切り落とす。

格子が倒れて、中から人が出てくる。


「ありがとうございます! 助かりました!」

「あなたたちは、ゴザリア国のものか?」


「私たちは、ゴザリア国に滅ぼされた国の者です。グルニヴスの森に隠れ住んでいたところをオーガに捕まり、食料としてここに連れてこられました。既に何人かはオーガに食べられてしまいました。私は、滅ぼされたシルティ王国の王女のアリスです。ここにいるのは私の侍女たちと護衛の者です」


「俺は、エルフや獣人たちを奴隷にするゴザリア国が大嫌いなのだ……あなたたちも同じ考えなのか?」

「いいえ! シルティ王国では人族もエルフ族も獣人族も仲良く暮らしていました。奴隷制度などありませんでした。奴隷制度はゴザリア国王が勝手に作ったのです!」


「分かった! それで、これからあなたたちはどうする? 歩いてグルニヴスの森を抜けることは無理だと思うから、グルニヴスの森の外までは運んであげよう」


「ゴザリア国から追われている我々に、行く所はありません」


「俺の国では、エルフや獣人たちが仲良く暮らしている。彼らは仲間を殺されたり、奴隷にされたり、人族に酷い目に遭わされた者たちばかりだ。仮に、お前たちが俺の国に来たとしても居心地は最悪だろう」


「それを分かった上で、エルフや獣人たちと仲良く暮らしていけるというのなら。俺の国に連れて行くこともできる」


「ゴザリア国……いや人族が行った悪行は、私が全ての住人たちに詫びて周ります。我々をどうかあなたの国に住まわせて下さい! お願いします」


「分かった。少しここで待っていてほしい」


この方は、ドラゴンを2体も連れてオーガの集落にやってきた。

しかも瞬く間にオーガキングと手下のオーガを倒してしまう。


我々はオーガに食べられる寸前だったから、本当に感謝してもしきれないのだが。

この方は、人の姿をしていても、ドラゴンなのだろうか?


いずれにしても我々は、あの方の国に連れて行ってもらうしか生きる道がないだろう。


俺はグレードラゴンのところに向かう。

まずはグレードラゴンに、レッドの夫に相応しいと認めてもらわないといけないのだ。

見た感じでは、グレードラゴンの表情は……少し和らいでいる気がするのだが……


「ドラゴンの夫として認めていただいたでしょうか?」


認めるとかどうでも良い……こいつと一緒にいれば退屈しないで済みそうだ……

レッドのやつ、なかなか見る目があるではないか!


それにしてもドラゴン2体を前にして、平静でいられる人族は長い歴史の中、1人もいなかったはずだ!

神の加護をもらっているからか? 


「お前は、面白そうな男だ。妾もフウタの近くにいることに決めた! 妾もその方の国に連れていくのだ!」


娘ドラゴンに母ドラゴンまでも、ゼピュロス国に来てしまって大丈夫なのか? 

父ドラゴンのドラゴン王が怒るような気がするぞ!


レッドが言っていた……ドラゴン王が深く考えないタイプのドラゴンだと助かる……


「娘に母までも、ゼピュロス国に来てしまっては、ドラゴン王がお怒りにならないでしょうか?」

「怒っても大丈夫だ! 妾の方が強いからな! これから妾のことは、グレーと呼んでくれていいぞ!」


「承知しました。ゼピュロス国に戻る前に、ドアーフたちにケレドロ洞窟に入ってもらい、鍛冶に必要な鉱物を取ってきてもらおうと思います。一度ケレドロ洞窟に戻ってもよろしいでしょうか?」


「いいぞ! ケレドロ洞窟に戻ろう。妾の背に乗るがいい」

「シルティ王国の人たちは、レッドの背に乗ってくれ。ドアーフはこちらに来てくれ」


ケレドロ洞窟まで移動した俺とドアーフは、中に入っていく。

洞窟の中の至るところから、いろんな種類の鉱物が飛び出ている。

鉱物を集められるだけドアーフに集めてもらい、マジックバックに詰め込んでいく。


ドアーフがニコニコしながら「ミスリルやオリハルコンも採取できた」と喜んでいる。


シルティ王国の者たちは、俺がドラゴン2体と普通に会話をしている様子を、驚きの表情で見ている。

たぶん俺は、ドラゴンが人の姿になっているのだと思っているだろうな!


鉱物も手に入れたし、グレーにも認めてもらったし、全て上手くいった。

ゼピュロス国に戻ろう。


出発前に、ケレドロ洞窟からグレーが、宝箱を持って来てくれた。

俺とレッドの結婚のお祝いだそうだ。ありがたくマジックバックに入れておく。

中身は後でレッドに聞こう、それまでのお楽しみだ。




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