第32話 ドアーフのスカウト

「レッド! 武器や武具、農具が作れるような職人が住んでいる場所を知らないか?」

「それならドアーフだな。グルニヴスの森の中に住んでいる。一緒に行ってみるか!」


「ドアーフがゼピュロス国に来てくれないかな」

「気難しい奴らだから。その気にならないと来ないと思うよ」


「とにかく、会って話だけでもしてみたい」

「では明日、ドワーフの所に行ってみようか。フウタは、グルニヴスの森の中に入るのは今回が初めてだな。いろいろな魔物がいて面白いぞ!」


翌日俺はレッドの背に乗って、グルニヴスの森のドアーフが住んでいる山に降り立つ。

洞窟の入口で「イームはいるか?」とレッドが呼びかけている。

いつもの、頭に直接響く念話だ。


穴から背は低いが筋骨隆々のドワーフが出て来る。

「これは、レッドドラゴン様。今日はどういった御用ですか」


「私の夫のフウタを紹介に来た」


「フウタと申します。グルニヴスの森の南にゼピュロス国を作りました。そこで武器や武具、農具を作ってもらえないかと思うのですが。いかがでしょうか」


「レッドドラゴン様の夫ということであれば、頼みを無下にはできないな。しかしフウタ殿の力を見せていただきたい。ドアーフは力のない者は認めませんよ。フウタ殿の力をドアーフたちが納得すれば、ゼピュロス国で働きたい者が出てくるかもしれません」


「どうやって力を見せればいいでしょうか」

「このドアーフの山に、魔物が住み着いているのですが、その魔物が強すぎて誰も追い払うことができません。その魔物を退治していただきたいのです。その魔物の名前はサイクロプスです」


「その魔物はどこにいますか」

「この山の山頂付近の洞窟をねぐらにしています」


「案内してもらえますか」

「フウタ様の強さを見届けないといけないので、数名で案内します」


サイクロプスが住み着いている穴に案内される。

「サイクロプス! 出てこ〜い!」ドアーフが叫ぶ。


穴の中から、1つ目の巨人が出て来る。

手には大木のような棍棒を持っていて、身長は3mぐらいあるかもしれない。

腕の筋肉は盛り上がっており、持っている大木のような棍棒で叩かれれば、俺の体は粉々に砕けるだろう。


万能棒を手に握り『刀になれ』と念じる。

万能棒が日本刀に変わる。

魔物相手に居合術を使っても意味がないので、刀を正眼に構える。


サイクロプスの動きは巨体なのに素早い。

いきなり空中にジャンプして、俺の頭に向けて棍棒を振り下ろしてきた。

正眼に構えたまま、素早く最小限の体捌きで棍棒を避ける。


棍棒が地面にぶつかると、地震のような揺れが起こる。


そのまま刀を横に払ってサイクロプスの腕を斬りつける。

腕に刀傷ができるが、すぐに傷口が塞がってしまう。


回復力が強力すぎで、このままでは埒が明かない。

空間を切り裂けるだろうか、空間ごと切り裂ければ、サイクロプスを両断にすることができるはずだ。


サイクロプスの身長よりも高くジャンプし、空中で『空間よ、裂けろ』と念じる。

サイクロプスの頭の上から地面に向かって、空間に黒い歪ができる。

黒い歪が縦に1本できると同時に、サイクロプスの体が両断された。


黒い歪の向こう側は異空間なのかな?


「レッド! サイクロプスを両断にした時に、空間ごと切り裂いたのだが、あの黒い歪の向こうはどこなのだろうか?」


「黒い歪の向こうからは、この世界にはない匂いがしている。この世界ではない、つまり異空間だと思う」


「そうなると、両断にした後に体の再生が始まったら、異空間に奴の体を放り込めばいいということになるな」


「良くいろいろなことに気がつくな。感心するよ」


「フウタ様の力を確認いたしました。さすがにドラゴン様の夫になられるお方だ。ゼピュロス国にドアーフが数名、訪ねていくと思いますが、よろしくお願いいたします」


「サイクロプスはドワーフに進呈します。素材を仕事にお役立て下さい。ゼピュロス国でドアーフをお待ちします」


ドアーフの件が解決したので、レッドとともにゼピュロス国に戻ってきた。


「フウタ様! ドアーフはどうでした」と、アンジェが尋ねる。

「上手く行ったよ。サイクロプスと戦うことになったけどね」


「あんな巨人と戦ったのですか? どこにも怪我はないのですか?」

「空間を切り裂ける技を身につけたようで、サイクロプスを両断にすることができたよ!」


「サイクロプスの討伐は軍隊を派遣するレベルなのにすごいですね!」


「とにかくドワーフが、ゼピュロス国に来てくれることになった。武器や武具、農具を作ってもらえると思う。武器や武具は、ゼピュロス国の防衛戦になったら時に必要になると思う。今のところ攻めてきそうな国はないけどな……」


数日後、ゼピュロス国にドアーフが5人やって来た。

グルニヴスの森を歩いて来たそうなのだが、ドアーフを襲う魔物はいないのかな? 

それとも足が速いのかな?


5人とも、背中に山のように荷物を背負っている。

鍛冶の道具類だろう。

ドアーフに、街の中で住みたい場所はあるかどうか聞いてみた。


どこでもいいが、鍛冶をする時に大きな音がするというので、住宅から離れた北側の壁際に、鍛冶場の建物を建設することにする。


鍛冶場内の設備は彼らが作るとして、鍛冶の材料が必要だな。彼らに地図を見せて尋ねた。

「鍛冶の材料がいると思うが、鉱山はどのあたりにあるのかな?」


「グルニヴスの森のこのあたりに、鉄でも、銅でも、ミスリルでもなんでも採れる洞窟がある!」

と、ドワーフが地図で指さした。


「そこは、ケレドロ洞窟だな。すごく厄介な場所だぞ!」

「レッドが厄介な場所ということは、強力な魔物でもいるの?」


「私の母がいるのだ」

「どうしてそれが厄介なの?」


「ドラゴン王と喧嘩し、ドラゴンヒルを出て、ケレドロ洞窟に住んでいるのだ!」

「ドラゴンも夫婦喧嘩とかするのかな?」


「もちろん喧嘩をすることはある。ドラゴンは無限の時間軸で生きている。だから喧嘩が始まると長いのだ!」


「王妃は、レッドとは仲がいいのでしょ」


「仲はいい。しかしフウタと結婚したことをまだ伝えていない。結婚したことを伝えれば、何を言いだすか分からない!」

「お父さんとお兄さんは祝福してくれましたよね!」


「基本的に父や兄は深く物を考えていないからな。母は気難しい人なのだ。それに何といってもドラゴン最強は母なのだ! 母に逆らえるものはいないのだ」


「だったら尚更、お母さんにご挨拶にお伺いしたいと思う」


「フウタは怖くないのか。私でさえ母は怖いのだぞ」

「どうも、怖いという気持ちをどこかに置き忘れてきたみたいだ」


「明日、お土産を持って行こう」

「分かった、そうしよう」



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