第29話 獣人国1

エルフ国から一旦ゼピュロス村に戻った。

そうだ……ゼピュロス国だな……


……翌朝……

エメットとともに、レッドの背に乗って獣人国に向かっている。

あっちに、こっちにと、移動ばかりしているな!

それでもなぜか疲れない、若いからかな!


やっと獣人国の王城が見えてきた。

城壁も城もいろいろなところが壊れたままだし、街の建物もボロボロだ。

獣人達が街を歩いているが、服もボロボロだし体もやせ細っている。


またまた、人族の奴らいい加減にしろよという思いが込み上げる。


王城の中庭に着地する。

俺たちの姿を見て、パトリックと彼の部下たちが駆け寄って来る。

懐かしいな!


「パトリックさん、お久しぶりです。獣人国の状況はいかがですか?」

「それよりも、エメットさんに大事な話があります。父上の獣人王様と王妃様が生きておられますよ!」


「2人とも元気なのですか?」

パトリックの表情は暗い。


「案内します……」


パトリックが王宮に向かって、早足に歩いていく。

王宮の中も至るところが壊されている。


激戦だったのが分かる、しかもお金になりそうな物は、全て持ち去られている。

壁や床に剥ぎ取られた跡がいくつもある。絵画や彫像を強引に引き剥がして持ち去ったのだろう。


「人族とは浅ましいものだな」と、レッドが吐き捨てるように呟く。

人族! しっかりしてくれよ!

同じ人族であることが恥ずかしくなってくるぞ!


やがて、ある部屋の前でパトリックが歩みを止める。


ノックをして中に入る。

そこにはベッドに寝たままの痩せ細った獣人王がいる。

呼吸も粗く、今にも息を引き取りそうな容態だ。


隣のベッドには同じく痩せ細った王妃が寝かされている。

こちらも重体なのが分かる。


「なぜこんな事に! どうしてだ!」

エメットが体を震わせ、大声を出しながら自分の腿を叩いている。


「急いでスーパーエリクサーを飲ませた方がいいぞ」と、レッドが急かせる。


「エメット! 落ち着け! お前が急いでやるべきことは、このスーパーエリクサーを2人に飲ませることだ。急げ!」

エメットがはっとなり、震えながら俺から受け取ったスーパーエリクサーを2人に飲ませる。


「パトリック! 危篤状態の者は他にもいないか?」

「こちらです!」


「急いで案内してくれ!」

パトリックが隣の部屋に案内する。


その部屋には、巨体だが痩せ細った獣人2人がベッドの上に寝かされている。

息をするのも苦しそうだ。


命が尽きかけていることが分かる。

俺はマジックバックからスーパーエリクサーを取り出し、横たわる獣人たちに飲ませる。


「まだ他にもいるのか?」

「いましだが、昨日に息を引き取りました!」


「悔しいな! 俺がもう1日早く来ていれば……」


「フウタ様! 父と母の意識が戻りました! これは……ロルフ将軍とニルス将軍じゃないか! 生きていたのか……良かった……」

ロルフとニルスが意識を取り戻す。


「エメット様……なぜここに……」と、不思議そうな顔をするロルフ将軍。

「エルフ国が連合軍を打ち破り、獣人国も解放されたのだ! それよりも王も王妃もぎりぎりで命を取り留めたぞ。命を救ってくださったのは、ここにおられるフウタ様だ!」


「国王も王妃も無事ですか……本当に良かった。フウタ様! 我らの命を救っていただきありがとうございます」

「持っていたスーパーエリクサーを飲ませただけだ。気にしなくていい」


「ロルフ将軍! いったい何があったのだ? なぜ皆が死にそうな状態になっているのだ?」


「お話します! エメット様が城から脱出された後、間もなくして獣人国の敗北が確実な状態になりました」


「城内で生き残っている者の全てが、敵に最後の突撃をすることを決めました。もちろん全員が討ち死覚悟です。1人でも、2人でも敵を道連れにして、死ぬつもりでした」


「次々討ち死にしていきましたが、突然上空から大きな網を被せられ、王の周りで生き残っていた者たちが捕らえられてしまいました」


「王や王妃、将軍たち以外は、奴隷として連合国に連れて行かれました。我々は、獣人国の民が連合国に対してゲリラ活動をさせないための人質とされたのです」


「人質にされた我々は、地下の牢に入れられました。国内のレジスタンスが戦っているうちは、利用価値ありとして、まともな食事を与えられていました」


「しかし、レジスタンスが全員殺されてしまった後は、生かしておく価値もなしと、碌に食事も与えられず餓死する寸前となっていたのです」


「完全に食事が止められなかったのは、我々が隠し部屋になっている宝物殿の場所を言わなかったからです。奴らは我々を餓死寸前まで追い込めば、宝物庫の場所を話すに違いないと思っていたようです」


「酷い仕打ちを受けたな! 良く頑張ってくれた! 動けるか?」


「王も王妃のところに行くぞ」

国王と王妃のいる部屋に全員で移動する。


「エメット! これはどうしたことだ! 獣人国はどうなったのだ? ロルフ将軍やニルス将軍は無事だったか?」


「父上! 全てはレッドドラゴン様とフウタ様のお陰なのです。この2人のおかげで、エルフ軍は連合軍に逆転勝利しました。そしてフウタ様にいただいたスーパーエリクサーで、父上も母上も将軍たちも回復したのです!」


「レッドドラゴン様とフウタ様! 獣人国をお救いいただきありがとうございます。国民を代表してお礼を申し上げます」


「父上! 私がゴザリア国に捕まり奴隷にされそうになった時も、レッドドラゴン様とフウタ様に助けて頂いたのです!」


「なんと……エメットも助けて頂いたのか! 父として感謝いたします。何かお礼をしたいところですが、見ての通り連合軍の兵たちに全て奪われてしまいました。申し訳ない……そうだ宝物庫が無事なら、なにかあるかも……」


「お礼など入りません! 獣人国の宝は、獣人国の復興のために使って下さい。何よりも一番尽力してくれたのは、俺の横にいるレッドドラゴンです。レッドはドラゴン族の王女であり、俺の妻でもあります」


「父上にも母上にも、将軍たちにも話しておかないといけない事がいっぱいあります」


「エメット! 話より食べ物が先ではないかな! 取り敢えずゼピュロス国で取れた果物などどうだろうか!」

マジックバッグから、ゼピュロス国で取れた果物と野菜をたくさん取り出した。


皆が美味しそうに食べている。食べられるということは一安心だ。


「獣人王! レッドと俺はゼピュロス国に一旦戻ります。2日後に食料をたくさん持ってきます。エルフ王にも食料の支援をお願いしておきます。元気になられたら、今後の復興についてエルフ王といろいろ話し合っておいた方が良いと思います」



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