第25話 大精霊様

「使者を無事に送り届けてくれたこと、また連合国の港に停泊する軍船を沈めてくれたことを感謝する。ここまでやって頂けば、後は我らでなんとかせねばならない。フウタ殿、本当にここまでいろいろありがとう」と、エルフ王がお礼を述べる。将軍たちも頭を下げている。


「しかし不可侵条約を結んだとしても油断は禁物だと思っています。人族である俺が言うのも変ですが、ユニマ国もエーデリア国も、まったく信用できません。王もそう思われていると思います」


「彼らが二度と侵攻して来ないようにするためには、海軍力を強化する必要があります。今度攻められる時は、連合軍は軍船を更にたくさん用意して海戦に望むでしょう。こちらは軍船の数で勝負するのではなく、いかに遠くから船を沈めるかで勝負すべきです!」


「なるほど、遠くから船を沈められる大魔法を準備すればいいのだな」

エルフ王や将軍たちも納得したように頷く。


「俺は魔法のことは分かりませんが、そういう魔法が存在するのですか?」


「魔石だ! 魔石を集めることにより魔力を何倍にも増幅することができる」


「たとえば火球を放つことができる魔法騎士がいて、50歩先の船を焼き払う魔力があるとする。魔石により魔力を何倍にも増幅させることができる魔道具を作れば、200歩先の船を焼き払うことができる火球を放つこともできる。もちろんその分だけ、たくさんの魔石が必要になる」


「魔石さえあれば、その魔道具はエルフ国でも作れますか?」

「本来、魔法はエルフの得意とするところだ。魔道具を作れる腕の良い職人もたくさんいる」


「魔道具による火球砲ですね。それは風や雷でも同じでしょうか?」

「同じだ!」


「火球砲を作るためには、魔石をどれくらい集めればいいのですか?」

「有能な魔法騎士が200歩先の船を焼き払うレベルなら、大雑把だが20個程度の魔石が必要だろう。しかし火球砲を使う度に、魔石の持つ力が消耗する訳だから。実用という観点で考えれば魔石を100個ぐらいは準備しておく必要がある」


「ゼピュロス村の北側には、グルニヴスの森があります。そこにはたくさんの魔物がいます。魔石を集められるかもしれません。それで試しに魔道具を作ってみませんか?」


「グルニヴスの森なんて、とんでもなく強力な魔物の巣窟だから止めた方がいい。レッドドラゴン様といえども苦労すると思う」


「30日後に、魔石を持ってきます。それまでに魔道具を作る準備をしておいて下さい。その魔道具がエルフ国を守る切り札になると思います。それに、ひょっとすると連合国も同じことを準備し始めているかもしれません。こちらも早く用意しておきましょう」


「魔石のことは感謝する。しかしそなたはアンジェの婿でもあり、この国の大恩人だ。十分気をつけて、決して無理はしないようにしてほしい」


「エルフ王! 教えてほしいことが2つあります。エルフ国とゼピュロス村は離れているため、エルフ国の危機を知る手段がありません。そこで1つ目ですが。遠く離れていても情報を伝達できる方法がないでしょうか?」


「そういえば、宝物殿にそのような魔道具があったと思う。異空間を共有できるマジックバックならそれが可能だろう。つまりペアになったマジックバックをつかうのだ」


「たとえば片方のマジックバックに手紙を入れると、共有する異空間の状況が変化する。その変化をもう一方のマジックバックが光ることで、その所有者に知らせることができる訳だ」


「つまり手紙を送ることができるようになる。王妃とアンジェにペアのマジックバックを持たせることにしよう。しかしペアマジックバックの容量が少ないので、手紙ぐらいしか入れられないのが難点だな」


「2つ目ですが、この国のエルフたちが信仰する神様を祀った場所を教えてほしいです?」


「そういう場所なら王宮の近くにある大精霊様を祀る教会があるぞ」

「そこは連合軍に壊されなかったのですか?」


「本当に腹立たしいことだが、破壊されているのだ。連合軍が自軍の損害を無視した攻撃を行った際に、数カ所の城壁が破壊され市街戦になった。侵入した敵兵は討ち取ることができたのだが、その時に教会が破壊されてしまっている」


「それが気になっていたのです。これから復興が始まると思います。その時の心の支えになるのが教会ではないかと思います。よろしければ教会の中庭に魔法の種を植えて、教会を訪れた人が野菜や果物で食事ができるようにしておきたいと思いますが。よろしいでしょうか?」


「それは大変ありがたい。確かにその通りだな。そうしてもらえれば、教会も助かるし、国民の心の支えになる。本当に良く気が付くな。感心する」


「明日、ゼピュロス村に帰る前に種を撒いておきます。アンジェも手伝ってほしい」

「もちろんです。喜んで手伝います」


翌朝、アンジェとレッドと共に教会の前まで歩いてくる。


確かに教会はボロボロになっている。中に入ると大精霊様の像だけが辛うじて壊れていないものの、それ以外は破壊が激しい。さすがに大精霊様の像は壊せなかったのかもしれない。そんな話をアンジェとしていたら教会の中から、高齢の大司祭が出てくる。


「これはアンジェ様! あなた様はこの国をお救いいただいたフウタ様とレッドドラゴン様ですね」


「教会の中庭に魔法の種を植えて、教会を訪れた人が野菜や果物で食事ができるようにしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「何とありがたいことでしょう! 中庭はこちらです。全員で少しずつ片付けているところです。ここに植えていただけると大変助かります」


アンジェが種を選んで撒いていく。

俺はマジックバッグで水を掛けていく。


種からすぐに芽が出て大きく育ってく。

やがて果物や野菜が実った。


「ありがとうございます! 教会の片付けや再建を手伝っていただける人たちに、簡単な食事を振る舞うことができます。感謝しかありません」


「大司祭様、果物を1つ食べてみて下さい。美味しいですよ」

大司祭が、実ったりんごを1つとって食べてみる。


「これは何と美味しいのでしょう。教会の片付けや再建を手伝っていただける人たちも喜ぶことでしょう!」

「実ったものを収穫すれば、すぐに次が実ります。枝を傷つけないよう丁寧に収穫するようにして下さい」


用事が終わったので、3人で大精霊様の像を拝んでから帰ろうということになった。

『これから王都の復旧が始まります。エルフ国をお守り下さい』と心のなかで大精霊様に語りかけると、頭に直接声が響いてくる。


「フウタ! そなたにはエルフたちが、大変お世話になりました。何かお礼をしたいと思うが、希望するものがありますか?」

「それならば、空を飛べるようなスキルを頂けないでしょうか? いつもレッドに乗せてもらって苦労させているので助かります」


「ではあなたに『飛行スキル』を与えよう」

「大精霊様! 時々お話させていただく女神様とは、どのような関係になるのでしょうか?」


「この世界には人族やエルフ族、獣人族がいます。エルフ族の神は私、人族の神は女神、獣人族の神は獣神です。つまりそれぞれの種族ごとに神がいるのです」


「大精霊様! もし可能であれば、アンジェにも飛行スキルを与えて頂けないでしょうか? エルフ国を助けるために彼女も大いに働いております」


「そうだな、私はエルフ族の神だからな! エルフの王女にも、飛行スキルを与えることにしよう。」

「ありがとうございます」


大精霊様の気配がなくなった。


「レッド! アンジェ! 俺はたった今、大精霊様と話をしていた。俺とアンジェに、飛行スキルを下さるそうだ」


「フウタ様! 大精霊様とお話ができたのですか。なんとすばらしいことでしょう。エルフ族の中でもお話ができた者は、長い歴史の中でも数名しかいないと聞いています」


「エルフ国を救ってくれたお礼だそうだ。レッド! 飛行スキルはどうやって使えばいいのかな?」


「簡単だぞ! 飛びたい方向を思い浮かべて、『飛行』と念じればいい。風よけの防御シールドも自動的にできるぞ。空中で停止したければ『停止』と念じればいい」


「やってみる! アンジェも一緒にやろう。念の為レッドも一緒に飛んでくれないか。墜落したら助けてもらいたい」

「分かった! 上空で待っているぞ。私のところまで飛んで来こい!」


レッドのいる方向に狙いをつけて『飛行』と念じる。ゆっくり体が浮き上がっていく。

「強く念じると、速く飛べるぞ」


『飛行』と強く念じてみた。どんどん速度が上がっていく。

レッドの近くで『停止』と強く念じる。


レッドの近くで空中に急停止して、空中で浮かんでいる。

アンジェも俺の横に停止している。


「レッド! このまま王宮まで飛んでいくから、後ろから見守っていてくれない」

「了解だ! 墜落しそうになったら助けるぞ。」


やってみると、空を飛ぶのは以外に楽だ。

鳥になったみたいで実に楽しい。


すぐに王宮についた。アンジェとレッドが後ろを飛んでいる。

王宮から王や兵士たちが、ビックリしてこちらを見ている。


王の横に降り立った。

アンジェが王に大精霊様との出来事を説明している。


「フウタ殿は女神や大精霊様と話ができるのだな! すばらしいことだ! アンジェ! 本当にいい伴侶を見つけたな」


「王様! そろそろゼピュロス村に帰ります」

「またの来訪を待っているぞ」


エメットはレッドの背に乗って、俺とアンジェは試験飛行だ。

ゼピュロス村に向かって快調に飛行する。空を飛ぶのは楽しいな。


転生して良かったな。

お陰で鳥になった気分を味わうことができる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る