第24話 エルフ国を救え4
エルフ国侵攻軍の異変に気づいた連合国が、食料と兵を補給しようと何度もエルフ国に押し寄せる。
しかしレッドと、エルフの軍船が連携することで、軍船や補給船が拿捕あるいは沈没させら続ける。
それにしてもレッドの火球は強烈だ。一発で敵船が沈没していく。
結局、エルフ軍の鹵獲船と食料が増える一方となる。
エルフ軍の優位が揺るぎないものになってきている。
もはや、戦況が覆ることはない。
戦争のフェーズは次に移るだろう。
つまり連合国で奴隷にされているエルフ族と、捕虜にした連合軍兵士との交換交渉や戦争賠償金などの戦後交渉だ。
連合軍の侵攻を受けた際に、エルフ国から脱出したエルフたちもたくさんいるのだ。
彼らはユニマ国やエーデリア国やゴザリア国の、人族の友人や商人に匿ってもらったり、山間部に隠れたりしていた。しかし奴隷狩りにより、ほとんどのエルフたちが探し出される。
捕まえられたエルフたちは奴隷にされる。
連合軍の侵攻時に、城に逃げ込めずに捕まえられたエルフたちも奴隷にされている。
戦争捕虜ではない! 奴隷なのだ! 無茶苦茶な話だよ。
連合国で奴隷にされているエルフの数を推定すると、5000人を超えるそうだ。
まったく人族は碌なことをしない。
まともな王はいないのか!
エルフ王として、まず奴隷にされている国民を救わなくてはならない。
次に戦争賠償だ。
最後に不可侵条約あるいは期限を決めた停戦条約となるだろう。
交渉において、こちらが連合軍の兵5万人を人質に取っているのは大きい。
そのための作戦だったからね。
連合軍を追い返すだけなら、レッドに暴れてもらえば済む。
しかしそれでは、奴隷にされた国民を取り返せないのだ。
エメットからは言い難いだろうと思い、獣人の奴隷も救うことに加えて、獣人国から連合軍を退去させることも、交渉のテーブルに乗せることをエルフ王に頼んだ。
5万人近く人質がいれば、なんとかなるだろうと思う。
連合軍との捕虜交換交渉や戦後交渉について、王と側近たちが、連夜話し合っている。
この話し合いには、アンジェとエメットも参加させてもらっている。
彼らに、こういった外交的な経験を積んでもらいたいからだ。
城を囲む連合軍側から降伏の使者がやってくる。
使者は連合軍を指揮する将軍クラスだ。
「エルフ国の要望をすべて受け入れるので、連合軍の降伏を認めてほしい。そして捕虜となる兵に1日分でもいいから食料を配給してもらいたい」という、全面降伏の申し入れだ。
それに対して、エルフ王は使者に返答する。
「条件付きで降伏を認める。これからその条件について説明する」
「1.直ちに全員が武装解除すること。2.所持する武器は全て城門の前に並べること。3.武装解除した兵は、山間部に設ける収容所で暮らすこと。4.食料と水は供給するが、1日に1回とすること。5.日中は連合軍が壊した建物の修復作業に従事すること」
「この書簡には、連合国に捕らえられているエルフたちと、降伏した捕虜との交換のための条件を記載している。ユニマ国とエーデリア国の将軍が1人ずつ使者となり、それぞれの国の国王と交渉すべし!」
「事前に書簡の内容を伝えておく」
「1.奴隷として連れ去られたエルフまたは獣人1人と降伏した連合軍の兵1人を交換するものとする。2.捕虜の食料は連合国が船で運ぶものとする。3.運搬は民間の船での運搬するものとする」
「4.奴隷にしたエルフと獣人を、遅くとも30日以内にエルフ国に船で連れてくるものとする。5.期限を守らない場合、捕虜に提供している食料を停止する。6.捕虜の交換が遅れれば、捕虜の命は保証しない」
「7.奴隷にしているエルフや獣人は丁重に扱うこと。乱暴などを加えれば、捕虜が同様の扱いを受けさせる。8.獣人国に駐留する連合軍を全て退去させるものとする」
「9.奴隷の解放と獣人国の解放を確認した後、残っている兵と引き換えに、賠償金として金貨1000万枚を支払うものとする。10.条件の履行を確認した後、永続的な不可侵条約を締結するものとする。以上」
「使者となる将軍を1人ずつ今日中に決めるべし」
翌朝、レッドの背に俺とアンジェとエメットと、護衛としてエルフ国から将軍1人と腕利きの騎士5人、拘束した連合国の将軍2名を乗せて、ユニマ国の王城に向かう。
レッドが飛行速度を上げていく、ユニマ国の王城までの移動など僅かな時間だ。
王城では遠くにドラゴンが見えてきたことで大混乱となる。
城壁の上に弓兵と魔法騎士団が集結する。
使者役にしたユニマ国の将軍に、使者であることを大声で叫ばせる。
しかし何を思ったか敵弓兵は弓で攻撃を始め、魔法騎士団は様々な魔法攻撃を始める。
「城壁の一部分を吹き飛ばそう。レッド! 魔王騎士団をなるべく殺さないよう、やつらの横を狙って火球を撃ち込んでくれ」
「了解だ」
レッドが火球を撃ち込むと、魔法騎士団横の城壁が吹き飛ぶ。
相手が大人しくなったところで、もう一度ユニマ国の将軍に使者であることを大声で叫ばせる。
城壁にユニマ国の将軍らしき者が現れる。
ユニマ国の将軍同士に大声で話をさせる。
相手の将軍が交渉役の将軍を受け入れるというので、城壁の上から弓兵と魔法騎士団を下がらせて、ユニマ国の将軍をロープで城壁の上に降ろす。
「王の説得を急いでくれ。さもなければ捕虜が全員死ぬことになるぞ!」と、使者役にしたユニマ国の将軍に念を押しておく。
俺たちは上空に飛び上がりユニマ国の港に向かう。
そして港に停泊する軍船を全て沈めておいた。
次はエーデリア国の王城に向かう。
ここでも対応は似たようなものだった。
こちらの方はユニマ国より攻撃が激しかったので、王城の壁と王宮の屋根を吹き飛ばしておいた。
エーデリア軍がおとなしくなった事を確認し、交渉役にしたエーデリア国の将軍をロープで城壁に降ろした。その後エーデリア国の港に向かう。
エーデリア国でも同様に軍船のみを全て沈めておいた。
これで使者を届ける任務は、全て終了である。
ユニマ国もエーデリア国とも巨大な王都で、贅をこらした宮殿が建てられていた。
他国を不幸にして作った豪奢な宮殿など、何の意味があるというのか?
人族である俺が、人族をどんどん嫌いになっている。
人族の贅沢に対する欲望は際限がないのか?
そんな事を考えているうちにエルフ国に戻ってきた。
王に報告を済ませ、翌朝にはゼピュロス村に戻ることを伝える。
ゼピュロス村に戻ることを聞いて、王室では送別会を開いてくれることになった。
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