第21話 エルフ国を救え1

ドラゴンに乗って飛行することに、アンジェもエメットも慣れてきたようだ。

それに大海原の上を飛んでいると気持ちがいい。


目標はエルフ国の王都、レッドが飛行速度をさらに上げる。

飛行魔法はいいな、俺も飛べないかな。


空を自在に飛べたら、さぞかし気持ちがいいだろうな。


王都の城が遠くに見えてきた。

遠目にも、城の周りをものすごい数の敵兵が取り囲んでいるのが分かる。


レッドに城壁に沿って数周してもらった。

正確には分からないが、6万人ぐらいの敵兵はいるかもしれない。


敵兵たちはドラゴンを見て困惑している。


頭上を飛行するドラゴンがいるが、自分たちを攻撃してくる訳でもない。

『気まぐれなドラゴン、早くどこかに飛んでいけよ!』とでも、兵たちは思っているに違いない。


上空からでも、城の周りを取り囲んだ敵兵の殺気が伝わってくる。

攻防戦の様子を見ると、エルフ兵の屈強なのが分かる。

1人で数人の人族兵士を相手にしている。


それにしても、何とも殺伐とした光景だな。

戦争なんて、何も生み出しはしないのに!


アンジェの表情が暗くなっている。

彼女を逃がすために犠牲になった兵も多かったと聞いている。


城から脱出させてもらった時に、死なせた兵たちのことを思い出したのか、少し涙ぐんでいる。


エルフ軍にも連合軍にも、両軍ともに魔法を含めいろいろなスキルを持った騎士たちがいるはずだ。

双方に様々な魔法や攻撃系のスキルを持った騎士がいる場合、飛び抜けて強力な魔力やスキルパワーを持った者がいない限り、勝敗は兵の数に収束していくだろう。


エルフ族個々の身体能力が人族よりも優れていても、エルフの実質兵力は8000人程度とアンジェから聞いている。

逃げ込んできた約1.2万人の民の中から義勇兵を募集したとしても、敵兵6万人との兵力差は覆せないだろう。


時間が経過するほどエルフ軍が不利になることは間違いない。


上空をレッドとともに旋回していたが、俺たちへの攻撃は控えている。

わざわざドラゴンを敵に回したくないはないのだろう。


敵の状況は確認できたので、俺たちは敵兵の上を飛び越して王宮の中庭に降りることにする。


中庭に降りた俺たちの周りをエルフの兵が取り囲む。

殺気立っているし、弓や剣を構えている。


よく見ると取り囲んでいる兵たちの表情に重い疲労が見て取れる。

城を包囲され、昼も夜も攻撃を受けているのだろう! 

睡眠もしっかりと取れていないのだろう。


アンジェが兵に向かい手を振っている。

「アンジェです! 攻撃しないで! 味方です! 急いでお父様を呼んで下さるかしら」


「アンジェ王女! なぜ戻って来られたのです。もうすぐこの城の食料がなくなります。この城はもう持ちません!」


兵たちの表情が暗い。皆がアンジェを心配しているのが分かる。

彼女は、エルフ族の皆から愛されているみたいだ。


「あなた達を助けに来たの! 早く父上を呼んで下さい!」

「分かりました! 少しお待ち下さい」


兵士数名が、大急ぎで王のもとに走って行く。

レッドは人の姿になり、4人で王を待つ。


エルフ国王のサフェイッコと、王妃のロジェの2人が、王宮からアンジェのそばまで駆けてくる。

2人が駆け寄りアンジェを抱きしめる。


しかし表情は険しい! 複雑な表情だ。


「なぜ城に戻ってきたのです! あなたを逃がすために、どれだけの兵が犠牲を払ったと思っているのですか! それを分かっているの!」と、王妃がアンジェを叱っている。


しかし落城の前に、もう一度可愛い娘に会うことができたのだ。

目に涙を溜めて喜んでいるのも分かる。


「魔王国から、食料を運んできたのです!」


「なんと、本当か! アンジェ! 魔王国に頼んでくれたのか! 本当に良くやってくれた! レッドドラゴン様に助けて頂いたのか!」


「レッドドラゴンにお願いしてくれたのは、ここにいるフウタ様です。私はフウタの妻になりました。そしてレッドドラゴン様もフウタ様の妻なのです。レッドドラゴン様はドラゴン族の王女でもあります。それからこの方はエメット様、獣人国の王子です」


エルフ王も王妃も、頭の中で状況が整理できるまで少し時間が掛かりそうだ。

何せ大事な娘が結婚していたという情報も入っている訳だ! 仕方ないよね。


俺はなんか気まずいな……


「エルフ王! 詳しい話は後でアンジェからゆっくり聞いて下さい。まずは食料をここに出します。これを届けに来たのですから!」


マジックバッグから食料を引っ張り出す。

食料を山のように積み上げていく。


食料の山が現れる様を見ていたエルフたちが、城の至るところから声が上がる。

兵も民も全員が大喜びだ。


「王女様バンザイ! 王女様バンザイ! 食料をありがとうございました!」

空腹で疲れ果てている兵士や民の表情が、一変に明るくなってきた。


王と王妃が、俺とレッドの前に近づいてくる。


「食料をありがとうございました! なんとお礼を述べたらいいか! この食料で兵士や民に食べ物を与えることができます」



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