第20話 魔王国2

ミシェルさんがレッドのところに近づいてくる。


「レッドドラゴン様! ミシェルです。お久しぶりでございます。本日はゼピュロス村の村長をお連れ下さったとか……」


「ゼピュロス村の村長のフウタと申します。本日は魔王国の国王様にご挨拶をと思い、私の村で採れました野菜と果物を持参して参りました」


「承知した。どうぞ、この馬車にお乗り下さい」


レッドドラゴンが魔王の友人であることから、謁見の間での公式な会見ではなく。王の私的な会見ということにしてもらった。

なんせ俺はこの世界の礼儀作法などは、まったく分からないからとても助かる!


4人は王の私的な応接室に入れてもらう。

広い部屋には、高価そうなオブジェがいくつも並んでいる。

ソファーもフカフカだ。


しばらくすると、王と王妃、王子、王女、侍従長の5人が入ってくる。


「レッドドラゴン様! 久しぶりだ! 数年ぶりになるかな。その人族風の姿もいつもながら美形だ!」

「本日は、私の夫のフウタを連れてきた。結婚したのはつい最近だぞ」


「結婚……」

魔王は大変驚いているようだ。もちろんその家族も同様だ。

結婚相手がいったいどんな男なのかと、俺をジロジロと品定めだ。


この世界の歴史でドラゴンを妻にした人族はいないはずだ!

しかもあの気難しいレッドドラゴンが夫に選んだ男……こいつはいったい……


この人族の男はそれ程の者なのか……

ん〜、見た目からは全く分からないぞ!


「ゼピュロス村の村長のフウタと申します。ゼピュロス村の場所は、ゴザリア国の南にあるグルニヴスの森のさらに南、この魔王国と海を挟んだところにあります」


「魔王国の直ぐ近くに、エルフ族や獣人族で小さな村を作りましたので、ご挨拶に参りました」


「こちらの女性はエルフ国の王女アンジェです。そしてこちらの男性は獣人国の王子エメットです。アンジェは私の妻でもあります。今後ともよろしくお願いします」


「エルフ国の王女と獣人国の王子がその方の村にいるのか! それで今回の訪問は、その方たちの村が我が魔王国に従属するということなのか?」


「ゼピュロス村は、まだ村という規模にもいたっておりません。できたての小さな村の者が、殊勝にも挨拶に来たかという程度でお考え下さるとありがたいです」


「そうか、友であるレッドトラゴンの夫が、挨拶に来たということだな」


「我が村で採れました野菜と果物を、マジックバッグに入れております。ここにお出しします」

マジックバッグから野菜と果物が詰まった箱を取り出す。箱を開けて果物を3つ取り出し王に渡した。


「これは美味そうな果物だ」


魔王が果物を一口食べる。

「これは美味い! 後でゆっくり食べるとしよう」


不思議だな……人族などは……魔王である儂が少し威圧すれば動けなくなってしまうはずなのだが……

こいつを普通に威圧してみたが何も変わらないぞ!


たぶん儂がジロジロ見ているぐらいにしか、感じていないみたいだな。

レッドドラゴンの夫になるだけあるな。

興味深いやつだ……


「私は異世界から転生してきました。転生してそんなに日が経っておりませんが、エーデリア王国とユニマ国の連合軍が、獣人国を滅ぼし、さらにエルフ国にも侵略しようとしていることが許せないのです。またゴザリア国が行っているエルフや獣人に対する奴隷狩りも同様です」


「魔王国の兵力がどのぐらいのものなのか、俺には分かりません。失礼を承知でお聞きします。連合軍が、この魔王国に攻め込む可能性はあるのでしょうか?」


「もちろんあるぞ! エーデリア王国とユニマ国の兵力を合わせると総兵力は20万人ぐらいの大兵力になるだろう。もちろん全ての兵を出兵させることはできないだろう。連合軍が魔王国に攻め込むとすれば、兵の運搬が船となる訳だから、最大で6万人というところが敵戦力と推定している」


「しかし総兵力6万人は大軍だ。魔王国の全兵力を持ってしても撃退するのに相当苦労することになるだろう。連合軍との戦争となれば、苦戦しようとも魔王国の最後の最後まで抗戦するつもりでいる」


「その時には、大した戦力にもなりませんが、ゼピュロス村も魔王国と共闘いたします」


「お前は人族ではないのか?」


「人族であっても、許せる事、許せない事の分別は持っております。それにエルフ国の王女アンジェは私の妻です」


「ところでエルフ国の現状はどうなのでしょうか? ご存知の事だけでもいいので、教えていただけないでしょうか」


「エルフ王は国民を守るため、国内に点在する街の住民たちを、城内に避難させている。城内には兵と民を合わせて約2万人が籠もっている状況だ。城の周りは連合軍の兵6万人近くが取り囲んでいる。エルフ王が城の中にたくさんの民を避難させたため、城の中は食糧不足になってきているようだ。城の食料はもってあと2から3週間だろう!」


「王様! 魔王国の食料を分けていただけないでしょうか。俺が食料をエルフ国に運ぼうと思います。お借りした食料は、ゼピュロス村が少しずつお返しいたします。何とぞ、お願いいたします」


「悪いが、魔王国は連合軍に対して、まだ表立って敵対するつもりはないぞ!」


「食料は全て俺のマジックバッグに入れます。マジックバッグを持って、城まではレッドに乗せてもらう予定ですので、連合軍はドラゴンが何をしているのだろうと思うだけだと思います。つまり魔王国からの支援と気づかれることは絶対ありません!」


「それは面白そうだ。協力できるかもしれないな」


「魔王様! 何とぞ、食料の支援をお願いできないでしょうか。支援をいただければ、魔王国が連合国に侵略されることがあれば、全エルフ族が命をかけて魔王軍と共闘することを、エルフ国王女の名にかけてお誓いします!」


「父上! 食料の支援であれば協力してあげましょうよ」と、王女のミシェルがアンジェを応援してくれる。


「良かろう、今日はこの城に泊まっていけ。明日の朝までに中庭に食料を山積みにさせておく。侍従長! 手配を頼む」


翌朝、中庭に山積みにされた食料の前に立っていると、王女のミシェルが食料の受け渡しに来てくれる。

王女に感謝を伝え、山積みになった食料をどんどんマジックバッグに収納する。


「フウタ殿! そのマジックバックの収納力はモンスター級ですね。あの山積みになった食料が、全て収まってしまいましたね!」


「王女様! 王へ、お口添えいただきありがとうございました。本当に助かりました。アンジェ! エメット! 出発するぞ! レッド、エルフ国まで頼む」


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