第15話 ドラゴンヒル2

「フウタと申します。レッドの言う通りです。人族がこのドラゴンヒルに対して、気軽に軍隊を送り込もうと思うことが問題なのです。ドラゴンは人族にとって、未来永劫に恐怖の対象であり続けるべきです」


「人族がドラゴンに口を出すな!」


「申し訳ありません。しかし人族の王程度が自慢の軍隊を持ったぐらいで、ドラゴンに勝てるなどと考えさせてはいけないのです。神からドラゴンに与えられた卓越した力は、恐怖の存在としてこの世に存在するためなのです。人族の果てしない欲望を、恐怖の存在が抑制する役割を担っているのです」


「それもそうだな……で、具体的にどうするのだ?」


「勇者とまともに戦ってやる必要などありません。ドラゴンヒルへの進入路に巨石を不安定に積み上げればいいと思います。勇者と直属の配下は分かりませんが、軍隊の侵攻は不可能になるでしょう!」


「そこで動けなくなった軍隊に軽く一撃を加えます。全員殺す必要はありません。侵攻が不可能となれば、怪我人を連れて本国に引き返す他ないでしょう。彼らが自国に引き上げる理由を与えてやればいいのです」


「彼らが本国にたどり着く前に、ドラゴン族でゴザリア国の王都の上空を飛び周り、王宮の建物の一部を破壊しましょう。恐怖の存在であることを見せつけるのです」


「このままでは、ドラゴンに国が破壊され尽くされると恐怖を与えればいいです。そうすれば、ゴザリア国の王も軍隊も、二度とドラゴンヒルに手を出そうとは思わないと思います。またゴザリア国の状況を知った他国でも、同じように思うでしょう」


「勇者の帰還は城の危機に間に合いません。ゴザリア国では、ドラゴンの攻撃を受けたのは勇者の責任となるでしょう。勇者の称号は剥奪され、場合によっては国外追放となるかもしれません」


「おまえは人族ではないのか! 人族であるゴザリア国の味方をしなくていいのか?」

「獣人やエルフを奴隷にするような国は、軽蔑することはあっても味方になる気はありません!」


儂はさっきから、フウタに最大の威圧を加えているのだが、こいつは平気のようだ。

我が娘はいったいどこで、こんな男を見つけてきたのだろうか? 

面白そうな男だ……いろいろと楽しませてくれそうだな……


「フウタ、おまえの案に乗ってやる。ホワイト、ドラゴン族に集合をかけろ!」

レッドのお父さんはドラゴン族の王みたいだ。


「承知しました」と、ホワイトドラゴンが返事をする。


「皆が集まる前に、フウタの言うようにドラゴンヒルへの進入路を塞いでしまおうか!」


ドラゴンの王であるブラックドラゴンは、飛び立ってドラゴンヒルの進入路の上空に移動する。

『ハリケーン』と言葉を発し、ドラゴンヒルの進入路に巨石が激突し積み上がっていく。


俺はその様子をレッドの背中に乗って見ている。

ドラゴン王のパワーは物凄い。人の作った城など一撃で破壊するだろうな。


レッドのお父さんがドラゴン王だとすると、レッドはドラゴン族の王女なのか。

面白そうだからと、俺と行動を共にしたり、俺を背中に乗せたりしていいのか? 

ドラゴン王が怒らないかな……


若いドラゴンたちが集まってきた。

ドラゴンヒルから一斉にすべてのドラゴンが飛び立つ。ドラゴンが一斉に飛び立つのは、壮観な風景だ。

目標はゴザリア国の王宮だ。俺はレッドの背中に乗って、ブラックドラゴンの後ろを飛んでいる。


飛び立ってすぐに、ブラックドラゴンが積み上げた巨石の前で、立ち往生しているゴザリア軍を見つける。

ブラックドラゴンが『ハリケーン』で攻撃を加える。しかし、威力を最小に絞ってくれている。

ドラゴン王も、無意味に多くの兵を殺すのは控えたいと考えてくれているようだ。


ゴザリア軍の怪我人の数が増えていく。

ドラゴンヒルへの侵攻など、誰が考えても無謀な作戦なのだ。

軍を率いる勇者は知らないが、兵たちは引き返せる理由ができれば、さっさと本国に引き返したいのだ。


作戦失敗の責任は指揮官である勇者が取ればいいのだ。


軍に一撃をあたえた後は、ゴザリア国の王宮を目指す。

ドラゴンの飛行スピードは凄まじく、あっという間にゴザリア国の王宮に到着する。

王宮はドラゴンが攻めて来たと、大騒ぎだ。


騎士や兵たちが、王宮の防壁の上に上がって弓と魔法による攻撃を始めようとしている。

王都の上空を十数体のドラゴンが旋回し始めると、兵たちの戦意は消失してしまったようだ。

ドラゴン1体でも城1つぐらいは破壊できるのに、十数体のドラゴンの攻撃が始まる。


全員が座り込んで、恐怖に震えている。

こんな数のドラゴンに勝てるはずがないと誰もが思っている。


レッドのお兄さんのホワイトドラゴンが『ブリザード』と言葉を発し、氷点下200度以下の風を城壁に吹き付ける。城壁の上に座り込んでいた騎士や兵たちが慌てて逃げ出す。


ブラックドラゴンが『ハリケーン』と言葉を発し、王宮の一番高い場所に巨石を叩きつける。

巨石が次々激突し、王宮の上部が粉砕される。


『ドラゴンに手を出しては絶対いけない!』と、ゴザリア国民の誰もが思っている。

王宮は大混乱だ。

全員がドラゴンの恐怖で我を忘れ、王宮内から人々が争って外に逃げ出している。


その混乱の中、王宮から獣人達の集団が逃げ出してくる。

人数は50人ぐらいか? 

レッドにお願いして、その獣人達の前に降りる。


「逃げたいのなら、ドラゴンの背に乗れ。急げ!」と、獣人達に叫ぶ。

獣人達が次々ドラゴンの背に乗り始める。

ドラゴンへの恐怖で動きがぎこちない。


「獣人たちの代表は誰だ?」と、獣人たちに問う。

「私です。エメットといいます」と、狼の顔に似た獣人が叫ぶ。若い獣人だ。


「エメット! 全員乗ったか? このロープを渡す。ロープをドラゴンの首と胴体に回し、お前たちの腰に巻き付けろ。落ちないためだ。急げ! 兵が来るぞ」


エメットと数人の獣人が協力しながら、ロープでドラゴンと獣人を結びつける。


「準備ができました」

「飛び立つぞ。落ちないように死ぬ気で掴まれ。力のないものは、あるものが助けてやれ!」


レッドが空に向けてゆっくりと飛び立つ。


レッドの飛行が、離陸から水平な定速飛行になる。

「エメット! 全員に聞いてくれ。自分たちの行きたい場所に逃げるか、俺といっしょに安全な場所に逃げるかだ!」


「聞くまでもありません。私たちに安全な場所などないです。どうか連れていって下さい。お願いします」


「では背中から落ちないように、もうしばらく頑張ってくれ。落ちるものがいないように、皆で助け合ってくれ」


ドラゴン族とともに、一旦ドラゴンヒルに移動する。そこで獣人たちを降ろす。ドラゴン族に囲まれ獣人たちは怯えている。

ドラゴンオーラ全開の場所だからね。しばらく耐えて下さい。


「フウタとやら! 痛快であったぞ!」と、ドラゴン王がうれしそうだ。


「ありがとうございます。これでゴザリア国ごときが、いや人族の全てが、二度とドラゴンに手を出そうとは思わないでしょう。思い上がる人族には、もっと怖い存在がいることを示しておくべきです」


「レッドと共に、俺の村に戻ろうと思います。よろしいでしょうか?」

「フウタ、時々ドラゴンヒルに顔を見せに来い。人族だがお前は特別扱いしてやるぞ」


「レッド、獣人たちをもう一度背中に乗せてくれないか?」


「待て、俺の背中にも乗せていいぞ」

ホワイトドラゴンが協力を申し出てくれた。


「ありがとうございます」

「妹のいる村を見ておきたいだけだ。気にするな。それと俺のことはホワイトと呼んでいいぞ。妹が世話になっているからな」


「獣人の皆さん。2体のドラゴンに別れて乗って下さい」

獣人達が25人ずつレッドとホワイトの背に乗る。


「レッド! ホワイト! よろしくお願いします」


2匹のドラゴンが飛び立つ。目標はゼピュロス村だ。

ゼピュロス村までの飛行はあっという間だった。


この世界がずいぶん狭いような気がしてくる。

エルフたちが手を振って、俺たちの帰りを迎えてくれている。





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