第14話 ドラゴンヒル1

デラザの街で買い物を済ませた後、ゴザリア国についての情報収集をするために食堂か酒場を探していた。

その時「お〜い……フウタさん!」と、俺を呼ぶ声がする。

マーベリックさんの商隊を護衛していた冒険者のガハリエだ。


「そこの酒場で、先日のお礼をさせてくれないか?」と、酒場に誘われる。

酒場の中に入ると、昼間なのだが飲んだくれたちが酒を煽っている。

飲んだくれたちが、美人のレッドに注目している。


いやらしい視線も混じっている…… 


レッドが煩わしいと思ったのか、ドラゴンオーラを少し漏らした。ほんの少しだと思う。

飲んだくれたちが、何かを感じたのか一斉に目を反らせ始める。


飲んだくれたちの半分は、酒場から大急ぎで逃げ出す。

残りの飲んだくれは、酒を追加注文してガバガバ飲み始める。


注文した料理と酒がテーブルに置かれる。

「先日はどうもありがとう。俺からのお礼です。どんどん食べて飲んで下さい!」


しかしガハリエさんもドラゴンオーラを浴びてしまう。

「あれ! 何か変だな。喉がやたらと渇く」と、言いながらすごい勢いで酒を飲み始める。

俺はレッドに目配せしてドラゴンオーラを大急ぎで止めてもらった。


ガハリエさんは、既に顔が真っ赤になっている。


「も〜、税が高すぎて、冒険者ギルドも冒険者も開店休業状態ですよ。俺も今では、商隊の護衛が本業になってしまいましたからね。ちっとも面白くないですよ! 昔は皆で魔物退治の技を競ったりしたのですがね……」


かなり、酒が回っている。

「ある程度お金が溜まったら、つまらないゴサリア国なんかとおさらばして、他国に行こうかと思っています……」


いかん、ガハリエさんが眠りそうだ。もう少しゴザリア国の情報を聞かせてほしいのだけど。


「そういえば、ゴサリア軍がドラゴンに襲われたそうです。なんでも……ドラゴンがエルフを食べたいとかという話でね。大体ドラゴンがエルフを食べたとか、聞いたこともありませんよ! とにかくドラゴンがエルフをどこかに連れ去ったそうなのです」


「その報告を受け、ゴザリア国王が激怒したらしくて! ドラゴン討伐の準備を進めているらしいです。だけど、いったいどうやってドラゴンを退治するつもりなのでしょうかね? 相手はドラゴンですよ! ドラゴン!」


「ゴザリア国は、ドラゴンのいる場所を知っているのでしょうか?」


「ドラゴンが住んでいると噂されているのはドラゴンヒルという場所です。もう既にゴザリア軍が討伐に向かっているそうですよ。ドラゴンが実際に住んでいるかどうかも不確かな情報なのに、直ぐに軍隊を向かわせるなんて、まったく軍事国家のゴザリア国らしいですよ!」


「ドラゴンは、国を滅ぼす力があると言われているようですよ。ドラゴンを倒せる程、ゴサリア軍は強いのですか?」


「なんでも勇者の称号を持つ若者が、大勢の兵を率いて攻め込むらしいですよ!」

「その若者は、ドラゴンを倒せるほど強いのですか?」


「過去にダンジョンでドラゴンを仕留めたという噂があります……あくまでも噂です! 噂には誇張した話が付きものですからね。本当かどうかは分かりませんよ!」


「相当強い人なのは間違いないでしようが、ドラゴンより強いとは信じ難いですね」


「ドラゴンを討伐して王都に戻れば、ゴザリア国の王女との結婚が決まっているそうです」

「その勇者はどのようなスキルを使うのですか?」


「勇者は剣技系らしいですよ。空間を切り裂ける技が使えるそうです。どんな技なのか想像もつきませんがね」


「空間を切り裂ける技とはすごいですね! そのスキルがあれば、ドラゴンも切られてしまうかもしれないですかね。勇者の剣も特別製なのですか?」


「エクスカリバーという名剣らしいですよ」

「そうなのですか。勇者とはどのような若者なのですか?」


「苛烈な性格で、敵に対しては情け容赦のない攻撃を行うという噂以外は聞いたことがあります。しかし、その勇者がゴザリア国の領土拡大に、大いに貢献してきたそうですよ。まあ噂というのは当てになりませんけどね」


「貴重な情報ありがとうございました。勇者が率いるゴサリア軍には近寄らない方がいいですね」


ガハリエさんが眠ってしまいそうなので、酒場を出た。ガハリエさんはフラフラだったが。俺たちが泊まる宿屋を紹介してもらい別れた。


俺たちは紹介してもらった宿屋で寝ることにした。


「レッド、どうする? ドラゴンヒルが危なそうだけど!」


「あそこには私の父や兄だけでなく、若いドラゴンたちもいっぱいいる。勇者などに負けるはずはない。それに、ドラゴンが勇者に殺られたというような話は聞いたことがないぞ!」


「しかし、化け物並に強い男かもしれないよ! ドラゴン族に知らせておいた方がいいと思うよ」

「そうだな! しばらく戻ってないし、ドラゴンヒルに行くことにするかな」


翌朝早く、デラザの街を出た俺たちは、ドラゴンヒルに向かう。


上空から眺めると、ドラゴンヒルに至るまでの道のりはかなり急峻な斜面だ。おまけに巨石がごろごろしている。

整備された山道がある訳でもなく、ドラゴンヒルに人族なんかが容易に立ち入れるとは思えない。

こんなところに攻め込める程に屈強な軍隊が、ゴザリア国には存在するのだろうか?


そんな事を考えている間に、レッドがドラゴンヒルの大きな洞窟の前に降り立つ。


周囲を見回すと、複数の活火山がドラゴンヒルを囲んでいる。

この場所には、神聖で強烈なエネルギーを感じる。

人が立ち入っては行けない場所であり、ドラゴンだけが住むことを許される神域だというのが分かる。


レッドがドラゴンの姿のまま、大きな洞窟に向かって歩いていく。

俺はその後ろを小走りで付いていく。


「父上、話しがある」

洞窟の奥から、声というか強烈な念話が頭の中に直接響く。

猛烈にでかい声だ。父ドラゴンのエネルギーが膨大すぎる。


「久しぶりだ! ゆっくり話をしたいぞ。しかしその前に、おまえの後ろにいる人族はなんだ。ここは人族が足を踏み入れてはならない神聖な場所だぞ。忘れてしまったのか?」


父ドラゴンは、レッドよりも更に大きく体長が15mぐらいはありそうだ。

体の色は黒だ。絶対的な強さをひしひしと感じる。

強烈なオーラが周囲に放たれている。


放たれているオーラは強烈だが、レッドと同じで温かさを感じる。


「こいつの名前はフウタ! 俺の友人だ。人族だが面白い男だ」

「フウタです。よろしくお願いします」


「フウタについての話は後にしよう。娘よ、どうした! 滅多に戻ってこないお前が戻ってきたのだ。何かあったのだな?」


「実は、ゴザリア国の軍隊がここに向かっているらしい。勇者も一緒だ。その勇者という男は空間を切り裂けるスキルを持っていて、過去にダンジョンでドラゴンを始末したことがあるらしい! 危険そうな男なので一応知らせに来た」


「人族などに、ドラゴン族が負けるとでも言うのか?」


「負けるはずがない。しかしゴザリア国の王程度が、神域ドラゴンヒルに攻め込もうなどと思ったこと自体が気に入らない。人族が傲慢になってきていないか!」




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