第12話 村の建設2
「私たちの村は、デラザの街から馬車で3日くらい離れた森の中にありました。総勢80人くらいの村です。人族に見つからないように、周りから見えにくい場所を選んでひっそりと暮らしていました」
「しかしどこで我々のことを知ったのか? 村にいきなりゴザリア軍が襲いかかってきました。村の男たちは私たちを守ろうと、弓と剣で勇敢に戦ってくれました」
「しかし敵兵の数が余りに多すぎました。男は全員殺されてしまいました。そのことを思い出すと、怒りが込み上げてきます」
「森に逃げ込む時間もありませんでした。私たちは次々と捕らえられ、動物のように檻に入れられました」
「『おまえらは王都に奴隷として連れて行く。貴族様に精々可愛がってもらうことだな』と、騎士や兵士たちが狩りで獲物でも捕らえたように喜んでいました」
「本当に悔しく思いました。なぜこういう目にあわないといけないのか! なぜ私たちが奴隷にならなければないないのか! 王都に到着する前に、全員で潔く死のうと覚悟を決めていたのです」
「そんな時にドラゴン様が現れたのです。私たちはこれで死ねると思いました! 奴隷なんかにならないで済むと思ったのです! しかし我々を助けに来てくれたのだと分かり、神様は本当にいるのだと思いました」
「辛い思いをしたね。もうそういう思いはさせない。安心して下さい! 今日は全員で、火のそばで寝ましょう」
「フウタ様とレッドドラゴン様は、自分たちの家で寝て下さい」
「それはできない! エルフの中で体調を崩しているものや、子供がいる者は家の中で寝て下さい」
結局……俺とレッド、子供連れの親子が家で寝ることになった。
本当に疲れた。エルフたちもさぞかし疲れたことだろう。
もう寝よう! きっと爆睡だな。レッドは相変わらず寝る必要がないとのことだ。
翌日、朝ごはんを皆で食べた後に全員に確認した。
「もう一度確認しておきたい。この荒地はこれから村を作っていかないと行けない状態だ。村作りも直ぐにとはいかないと思う。どこか他の場所に住みたいという希望があれば、遠慮せず申し出てほしい」
「ここで全員暮らさせて下さい」と、アンジェに強くお願いされる。
「そうか、では一緒に暮らそう。俺たちとエルフが暮らせる村を作りたいのだが。見ての通り北と東と西は森で囲まれている。南は海だ。どこに村を作るか決めないといけない。エルフは森に住むのがいいのかな?」
「周囲の森から強い魔物のオーラを感じます。危険な森です。近づかない方がいいと思います。森から離れた海寄りの方が安全だと思います」
「やはりそうか。俺も森は危険な感じがしていた。では海の方に移動しよう。このあたりのものをマジックバックに収納してしまうので、少しばかり待っていてほしい」
俺は、家とか木とか野菜とか全てを、マジックバックに詰め込んでいく。
フウタ様が家とか木とか野菜とかを、どんどんマジックバックに入れていく。
噂には聞いていたが、家まで収納できるマジックバックは始めて見た。
それにしてもフウタ様は、私たちにとっては恐怖の対象であるドラゴン様と、なぜあんなに友人みたいに話しができるのだろうか?
この人はいったい何者なのだろうか?
そう思ったのは私だけでないみたい、エルフ全員が気になっているみたいね。
この人の外見は人族みたいだけど……どう考えても普通の人族ではない……
それに、なぜだか分からないけど、この人といると妙に安心する。
信頼できるというか、頼れるというかね。
悲しみ一色だったエルフたちの心が落ち着き始めているのが分かる。
「どこか他の場所に住みたいという希望があれば、遠慮せず申し出てほしい」と、言われた時は少し悲しかった。
この世界に、こんなに安心できる人なんていない。
ずっと一緒にいたいと思うに決まっているでしょ!
「マジックバックをお持ちなのですね。羨ましいです」
「マジックバックには50人分の服や靴と日用品も入っているよ。救出に向かう前に、デラザで買っておいたからね。必要な量が分からないから、店が開けるほど買ったのだが、このマジックバックにはいくらでも収納できるみたいだな」
南に向かって移動を開始する。5kmぐらい歩いたら海が見えてきた。
碧い海だ。環境破壊されていない自然の海はこんなに綺麗なのだな。
荒地、改めリゾート地に昇格か!
それにしてもマジックバックがなければ、こんな簡単に引っ越しはできないな。
「この場所に、村を作ろうと思うがどうだろうか?」
「危険な森からは十分離れ、海からも少し離れていて、いい場所だと思います」
俺はマジックバックから、家とか巨木、野菜、果物の木を取り出す。植物は地面に移動し、水を掛けるとすぐに元気になった。
「この種を見てほしい。この袋には種がいっぱい入っているのだが、俺には何の種か、さっぱり分からない。アンジェは分かるかな?」
アンジェがクンクンと匂いを嗅いでいる。
「大丈夫です。大まか分かります。」
「助かる、すごく助かる!」
エルフは嗅覚が発達しているのかな。
「この種は土に埋めて水を掛けると、すぐに芽が出て実が成る。いわば魔法の種だ……女神様にいただいたのだ」
今さらっと、女神様といっていたような気がする。
普通の者は、女神様に一生会うことすらないのだけど……どういうことかしら。
「すごいですね。私たちは、食べ物と木材には苦労することはないということですね」
「村作りをアンジェに任せていいだろうか? 俺はどうしたらいいのか分からないから」
「我々にお任せ下さい。村作りは得意ですよ。エルフはこう見えても力持ちだし、手先も器用なのです」
「腕とか足とか細いけど……本当に大丈夫なの……無理はしないで下さいね! のんびり楽しく、村作りをしていけばいいからね。とりあえず食うには困らないから」
「大丈夫ですよ。ご心配なく」
まともな食事して、安心したのかエルフたちの顔色も少し良くなってきている。笑顔も少し増えてきた。
ゴザリア軍から助け出した時は、皆が悲壮な顔をしていたな。
俺も緊張していたので気にもしていなかったが、エルフさんたちは美人なのだよ。
「村作りといえば、まずはなんといっても水だ。俺は水源を作ろうと思う」
いつも役に立っている棒を、万能棒と呼ぶことにしている。万能棒を出して『地下水脈を探せ』と念じる。
棒が地面の上をピョンピョンと移動し始める。5mぐらい移動したところで、棒が地面に刺さって動かなくなった。
この下に水脈があるに違いないと思ったので『水脈まで掘れ』と念じる。
万能棒が空中に浮き上がり、先端がドリルのように変化する。先端のドリルが回転しながら勝手に地面に刺さり、ドリルが地中を掘っていく。
ドリルの先端が水脈まで到達すると、万能棒が逆回転して地面まで戻ってくる。穴からは水がどんどん溢れだしてくる。
万能棒に『スコップになれ』と念じる。万能棒がスコップの形になる。
スコップで穴を掘るとまったく抵抗なく土が掘れる。掘るというより、土の塊を抜き取っている感じだ。
土の塊を放り投げる動作にも全く力がいらない。
水が吹き出ている周りを掘る。4m四角ぐらいの広さで、深さ1.5mぐらいの穴を掘る。
僅かな時間で池を掘り終わったが、まったく疲れない。
しかも掘った池の側面はカチカチで石のようになっている。池は四角いプールのような仕上りだ。
エルフたちは、池が完成していく過程をビックリしながら見ている。
俺を見る目が、奇跡の人を見る目になっている気がするな。
だけどね、一番ビックリしているのは俺だからね。異世界は面白いな。
魔法文明、最高だな。
俺もやっと異世界を楽しめるようになってきたな。
フウタ様が、こんな短時間で池を作ってしまった。奇跡としか思えない。
魔法の種と、何にでも変化する奇跡の棒を持ち、ドラゴンとともに暮らしている!
フウタ様はやはり神の使いなのか?
フウタ様が神の使いなら、自分たちも頑張らねばと、エルフたちがやる気に溢れて仕事を始める。
畑エリアと決めた場所に、池から水路を掘って水を流し込むみたいだ。
エルフ総出で水路を掘ってもらっている間に、アンジェと話して住居エリアと牧場エリアを決めておいた。
畑エリアに決めた場所には、どこに何を植えるか決めてもらい、どんどん種を撒いてもらっている。
俺には何の種か判らないので、アンジェたちに全てお任せだ。
やがて水路から畑に水が撒かれ、種からニョキニョキと芽が出て成長を始める。
あっという間に実を付ける。さすが魔法の種だ。
この畑からは、野菜や果物、穀物がいつでも収穫できる。
魔法の種があるから、食べ物については安心だ。
しかし、今一番うれしいことは、俺にエルフという仲間ができたことだ。
エルフたちは手際がいい、住居エリアと畑エリアと牧場エリアを囲むように柵を設けてくれている。
柵の外に大木になる木の種が植えられている。
どんどん村が出来上がっていくな!
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