第10話 エルフ救出

「明日、ゴサリア軍が街から出て2時間ぐらい移動したあたりで、エルフを救出しようと思う。街に近ければ、奴らは街に逃げ込もうと考えるはずだ」


「エルフを救出するために街まで攻撃することはできない。街に逃げられたら、エルフの救出は失敗だ」


「ゴサリア軍への攻撃だが、空から軍の先頭の150歩ぐらい先に、火球を1発撃ち込んでほしい。その1発で軍の行進が止まると思う。止まらなければもう一発だ」


「軍の行進が止まったら『俺は腹が減っている。エルフを食うから全員置いていけ。食うのは、おまえたちでもいいぞ。どちらにするか決めろ! エルフにするなら、檻をそのまま置き去りにして立ち去れ。これから10を数える。その間に決めろ』と、ゴサリア軍を脅してほしい」


「脅した後は、騎士や兵士たちの横に火球を撃ち込んでもらいたい。最初は遠くに、段々と近くに。撃ち込まれる火球が近づいて来れば、怖くなった騎士や兵士たちはエルフを置いて逃げ出すだろう。やってもらえないかな? お願いします」


「いいぞ、面白そうだ! しかし騎士と兵は逃げ出すだろうが、その後はどうする?」

「エルフを檻ごと運んで欲しい。難しいかな?」


「前に言ったが、ドラゴンは魔法で飛ぶし、重いものも魔法で持ち上げる。問題なしだぞ。それよりその檻は丈夫なのか? 壊れないか?」


「檻が丈夫でなければ、エルフにはレッドの背中に乗ってもらう。その場合には、ロープでエルフの体をレッドに固定しようと思う。レッドの体にロープを巻くことになるが許してくれないだろうか?」


「構わないぞ。人数が多くてもロープを使えば落ちはしないだろう」


翌朝、マーベリックさん達にお礼をして屋敷を出た。

天候は晴れ。青空が一面に広がっている。


街の市場に、再び日用品の買付に行った。エルフたちが荒地に来ることになれば、エルフたちの日用品とか食料も必要になるからね。


エルフたち50人分の服や靴、日用品を片っ端から買い込んだ。大工道具類に、パンや塩や香辛料、鍋や食器やフォークもね。マーベリックさんから貰った金貨もあるし、もうバカバカ買った。


足りないお金はマジックバックから金貨を取り出して使った。

いったいどのくらい金貨が入っているのかな?


店で買ったものを、次々マジックバックに詰め込む。いくら詰め込んでも重くならないのは最高だ。

女神様がくれたマジックバックには、きっと無限の収納力があるのだと思う。


買い物が終わったので街を出る。

デラザに来る時に着陸した森に向かって素早く移動する。

やがて着陸した岩場に到着すると、レッドにドラゴンの姿に戻ってもらい、背に乗って空に舞い上がる。


慣れもあり、2回目の飛行は怖さを感じない。寧ろ大空に舞い上がるのが楽しくなってきた。


遠くにゴサリア軍の行軍が見えてくる。

奴らのいる場所は、デラザの街からどれくらい離れているのかな? 

見た感じしか分からないけど、このくらい離れていればデラザに逃げ込もうとは思わないだろう。


距離を測る道具もないし、それでいくしかない。


「ゴサリア軍への攻撃を開始しよう。昨日の打ち合わせ通りに頼む」

「了解だ! 面白そうだ、いくぞ……」


飛行速度が上がる。ゴサリア軍はすぐに真下に見えている。

騎士や兵士がドラゴンを見上げている。

彼らの表情から推察すると、用がないなら早くどこかに飛び去ってくれ……というところかな。


レッドが軍の先頭の150歩くらい前に、大きな火球を撃ち込む。

「ドガーン!」


騎士や兵たちがこちらを見る目が、恐怖や怯えに変わってくる。

レッドが大きな声で叫び始めた。これは叫んでいるのではなく念話だな。

テレパシーか? どっちでもいいか!


「俺は腹が減っている。エルフを食うから全員置いていけ。食うのは、おまえたちでもいいぞ。どちらにするか決めろ! エルフにするなら、檻をそのまま置き去りにして立ち去れ。これから10を数える。その間に決めろ」


騎士や兵たちやエルフたち全ての頭に、直接聞こえたはずだ。

俺の頭の中にも、でっかい声らしきものが響いたからね。


軍が乱れ始めた。エルフたちは檻の中にしゃがみ込んで泣き始める。

「ドラゴンに勝てるわけがないぞ。逃げろ」と叫び、兵たちを乗せた馬車が反転して、デラザ方面に逃げ始める。


騎士たちはどうするべきか悩んでいるようだ。


「騎士たちの横に大きめの火球を叩き込んでくれ」と、レッドに伝える。

「ドガーン!」


大きな火球を撃ち込まれると、馬に乗った騎士たちも一目散に逃げ出し始める。

騎士や兵たちが逃げていなくなったのを確認して地上に降りる。


しかし彼らは遠くで俺たちのことを見ているはずだ。急がないといけないな。


エルフたちは震えながら泣いている。俺は彼女たちの前に立つ。

念の為に顔の半分は布で覆っている。


「お前たちの代表と話がしたい」

「私が代表のアンジェです。食べるなら私だけにして下さい。どうかお願いします」と、エルフの1人が名乗り出る。


犠牲になって、ドラゴンに食べられることを覚悟した顔だ。

自分を犠牲にして、他の者たちを救おうしている。

今までゴザリア国の嫌な話ばかり聞いてきたので、なんだかホッとする。


「おまえたちを食べたりはしないよ。助けに来たのだ。安心してほしい」


「時間がない! 遠くからこちらのことを見ている奴らが戻ってくるかも知れない。俺のいう通りにテキパキ動いてくれないか。まず檻の扉に付いている鍵を壊すぞ。離れていてくれ」


棒を持って『ハンマーになれ』と念じる。

棒がハンマーに変化する。

檻の扉に付いている鍵をハンマーで叩く。鍵が簡単に弾け飛ぶ。


彼女たちの表情が急に明るくなる。


「この檻ごと、ドラゴンに持ち上げてもらおうと思う」


「まず、この檻を引いている馬を離してくれ。次はドラゴンが2つの檻を持ち上げられるように、それぞれの檻の四隅にでもロープを結びつけて、ドラゴンが足でつかみ易いように、ロープで輪っかを作ってくれ」


「結構太いロープだが、ロープが切れないよう何重にもしておいてくれ。できるか?」


「できます、エルフはロープの扱いに慣れていますから」

「では、お願いする! 疲れていると思うが頑張ってほしい。終わったら檻の中で全員待機してほしい」


エルフたちがテキパキ動き出す。


「アンジェ、この檻に乗って俺たちの住む場所にくるか? そこは不便だが安全な場所だ。もしもお前たちにどこか行くあてがあるなら、そこに連れて行くぞ!」


「行くあてなどありません。一緒に連れて行って下さい。お願いします!」


「分かった、一緒に行こう。ドラゴンが檻ごと持ち上げるけど、念のため檻にしっかり掴まっていてほしい。底が抜けたら困るからな。他の者たちにも伝えてくれ!」


遠くで様子を見ていたゴザリア軍が少しずつ近づいて来ている。

俺たちが何をしているのか確かめたいのだろう。


「準備ができました!」


ゴザリア軍がさらに近づいてくる。

エルフに、矢を放つぐらいはするかもしれない。

ドラゴンにエルフを取られて、何もしなかったと王に報告できないからな。


「レッド! 奴らが矢を放ってくるかもしれない。防御シールドを張れないか」

「エルフを防御シールドで囲もう。奴らが矢を放っても、何ともないはずだ」


「エルフたち、疲れていると思うが最後の頑張りだ! ドラゴンが防御シールドを張っているから、奴らが矢を放っても安心だからな。空を飛んでも強い風も当たらないはずだ。目的地に着けば、ゆっくり休めるぞ。レッド、頼む」


俺がレッドの背に跳び乗ると、レッドが空に向けて飛び立つ。

エルフが乗った檻が空中に持ち上がる。


地上ではゴザリア軍がこちらを見上げている。エルフに矢を射ってきたが防御シールドで弾かれる。


檻が壊れるといけないので、レッドがゆっくりと上昇してくれている。

所定の高さまで上昇すると、水平飛行に移行する。


きっとエルフたちは景色を楽しむ余裕はないだろう。目を瞑って必死で怖さに耐えているはずだ。

ドラゴンオーラも漏れているしね。

とにかく……とにかく耐えてくれ……


荒地は何にもないけど安全なことだけは保証する。食料もあるから飢えることはないぞ。

頑張れよ……エルフ……


1時間くらいの飛行を終えて、荒地にポツンと建つ一軒家の前にドラゴンがゆっくり降りていく。

エルフを乗せた檻もゆっくりと着地する。


ありがとうレッド。





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